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29. 裁きと暗躍

 才牙はアゥトの町の領主を治療した際に、才牙への忠誠心を植え付けている。

 そんな状態のため、才牙を狙った襲撃者やその雇い主に対して、領主が裁定した処罰は厳しいものとなった。


「襲った者は町内見せしめの後に棒打ち50回。雇い主は見せしめの後に鞭打ち100回である」


 殺人未遂と殺人教唆の罪状に与える罰としては、上限いっぱいの処罰。

 この処罰は、死刑という言葉を使っていないだけで、実質的には死刑と同じ。

 町内に見せしめされるといことは、全ての町民に犯罪者だと知られることであり、それは町での社会的な死を意味する。

 棒打ち50回は、処刑人の力具合や胸先三寸な部分はあるものの、手加減なく叩いたら骨が砕ける数であり、後に治療を行わなければ死ぬ。鞭打ちに至っては、鞭の扱いは手加減が難しいこともあり、100回も打たれたら確実に死ぬ。

 こういった残虐な処罰法は、人道に背いている行為ではあるが、町民に一罰百戒を与える効果があるのも確かだ。

 事実、この処罰を目にした人たちの顔には、犯罪は悪いことだと理解した雰囲気があった。


 しかし、襲撃者とその雇い主が処罰されて一安心とはいかないのが、社会の闇の深いところ。

 特に自分勝手な思考回路の持ち主だと、領主に処罰された人間は運が悪かっただけで、自分なら上手くやるという変な自信を持っているもの。加えて、別人が失敗した事を成し遂げれば、自分はその人物よりも上に立てると、変な曲解を行う癖を持ち合わせてもいる。

 そのため才牙は、町の人通りが少ない場所を歩くと、誰かに襲われることが頻発するようになった。


「もっとも、ズブの素人や、多少の刃物慣れしたした輩など、俺の相手にはならんが」


 才牙は、あっさりと襲撃者を昏倒させたり取り押さえる。そして衛兵へと突き出す。封入缶を使用する拷問や処置は行わない。時間の無駄だからだ。


「さて、このまま行けば、この町の犯罪組織が壊滅することになりそうだな」


 才牙が襲撃者を取り押さえた手を叩きながら呟くが、事実その通りになりつつある。

 才牙を襲撃する者たちには、背後関係の大小がある。

 小だと食い詰め者が小金欲しさの犯行だが、大だと犯罪組織の構成員が裏仕事を請け負っての凶行だ。

 今までなら、食い詰め者は処刑されても、構成員は裏金を積んで釈放されることが多々あった。

 しかし今回、裁判を行う領主は強制的に才牙の味方になっている。

 犯罪組織が大量の献金を行おうと、裁判結果は覆らない状況になっている。

 むしろ裏金を積むなどけしからんと、領主自らが犯罪組織自体を解体する陣頭指揮をとるほど。

 その結果、町の犯罪組織が次々と撲滅させられているわけだった。


「そうして潰された組織の構成員は、別の犯罪組織へと流れつく。そして元の組織を潰された恨みを持ち、俺や領主を襲撃する。その襲撃が失敗したら、芋づる式にその流れついた犯罪組織に責任を負わせて撲滅する。いい流れができているな」


 才牙は、自身が領主と共に行っている撲滅活動に、満足げに頷く。

 こうして才牙が犯罪組織を潰しているのは、町の治安を良くしようという善意からの行動ではない。

 才牙は秘密結社イデアリスの開発改造統括責任者――つまりは、悪の大幹部。

 犯罪組織の撲滅も、悪い企みの一環だ。


「人が居住地にいるのならば、犯罪者はなくならず、落ちこぼれも生まれ続ける。犯罪組織は、そういった者たちの受け皿であり、使い潰しても問題のない人材を集めるのに丁度いい場所となる。だから多数乱立しているのは都合が悪い」


 才牙はアゥトの町の犯罪組織を撲滅した後に、自身が頭領となる組織を作り、町の裏社会を牛耳る。

 表の存在である領主は、既に才牙の手の内。

 これで才牙は、表と裏からアゥトの町を支配することが出来るようになる。それも一般住民に支配者だとは知られないままに。


「さて、組織が潰れて放り出された犯罪者どもを受け入れる場所を作るとしよう。秘密結社イデアリスの異世界支社――イデアリス・ブランチの発足だ」


 才牙は潰した犯罪者組織の中で1番大きな組織の建物を接収すると、そこをイデアリス・ブランチの拠点に定め、町中の脛に傷を持つ者と落ちこぼれたちを収集していった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 才牙がこの町にたどり着いた時点でこうなるのは時間の問題でしたかねえ
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