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48話「最終バトル」

 先陣を切ったのはブルーガイだった。

 相手は即座に反応した。


 拳と拳がぶつかる鈍い音。

 その瞬間相手にダメージがない事を悟り舌打ちをする。


「オラオラどうしたぁ!」


 先ほどまでの戦闘で負った傷はもうない。

 アルタが回復魔法をかけたからだ。

 体力まで完全に戻る訳ではないが、元々体力の有り余っているブルーガイにそこはあまり関係なく全力で攻める。


「強ぇなぁ。久々に燃えるぜ!」

「ブルーさん、飛び出さないで下さいよ」


 アルタはそう言うとブルーガイに補助魔法をかける。


「おぉ、こりゃすげぇな! うおおおぉぉぉ!」


 水を得た魚のようにブルーガイの動きが更に活発化する。

 既にアルタにはその動きがほとんど追えておらず、腕が何本も生えているように見えている。


「アルタ、俺にも貰える?」

「はい、勿論です。他の人もまとめてやっちゃいますね」


 声を掛けた望はもちろん、フォティスを除く全員に補助魔法を掛ける。

 それだけでかなりの魔力を消費したが今回に限りそれは全く問題がない。


「ほれ、これを飲んでおくんじゃ」


 フォティスがマナポーションをアルタへと渡す。

 失った魔力はこれで回復された。


「さて、それじゃ俺たちも行くか」

「おうともさ!」


 望が隣にいるドラクへと声を掛け、同時に走りだす。

 休むことなく凄まじい攻撃をし続けるブルーガイにあわせるように二人も得物を手に戦う。


 援護としてニナとミイがそれぞれ転がっている石と近くの魔物を操りギディオンに向ける。

 望はそれに感謝しながら手加減無しの一撃を放つが、ギン、と刃物を弾く音が鳴る。


「おいおい硬すぎでしょ」


 呆れたようにそう言う望だが、構えを取り一呼吸置いた後零距離からの剣閃を無防備な背中へと叩き込む。

 鎧の内部に刃が届き、しっかりと手ごたえを感じた。


「キ……サマ……ハ」


 その時頭だけを動かした帝国兵が言葉を発した。


 ぎこちなくはあったが、憎憎しげに、吐き捨てるように言葉を発した。

 聞き覚えのある声に望は考え、ピンときた。


「まさか、お前ギディオンか?」


 数秒後にそう答えた望。

 ウード村、そして城の近くの荒野と二度戦った相手。

 自分を、というより成長力の高い異世界人を嫌っているような節はあったが、剣の腕は素直に認めざるを得ない程の技量を持っていた帝国兵だ。


 これまでこの鎧を着ていた兵士は既に自我が崩壊していたのか言葉を交わす事は無かった。

 だが、今の声は確かに望自身を見て発した言葉だった。


「ユル、サ……ン」


 それまでやや機械的な動きをしていたギディオンだったが、望に狙いをつけたかのように自発的に動き出す。

 その動きは鎧の力を使用した前回よりも早く、強く、そして剣がないというのに鋭かった。


「ぐっ、ふっ」


 ギディオンの圧倒的な瞬発力。

 鳩尾を殴られた望は肺の中の空気を全て吐き出しそのまま木に激突する。

 木は大きく揺れ葉が舞い落ちる。


「よくもノゾムにーちゃんを!」


 ドラクが地面からスケルトンを召喚する。

 今回は一体。

 力の全てをそれに注ぎ込んだといわんばかりにそのスケルトンは凶悪な姿をしていた。


 手にした二メートルはあろうかという大剣をギディオンに叩き付ける。

 だが――。


「ジャマヲ……スル……ナッ!」

「えっ」


 ギディオンは身に着けていた防具ごとスケルトンを破壊する。


 完全にバラバラになったがそれを復活させることは出来る。

 だがドラクはまさか自身の全てを注いだと言っていいスケルトンが一撃で破壊されるとは思っておらずしばし呆然とする。


「おいっ、危ねぇ!」


 ブルーガイの叫びも空しく、ドラクは迫るギディオンに反応しきれず攻撃を受ける。

 何かが折れる音がなり、声を出すことすらままならない内にドラクは沈黙した。


「ジャ、マ……ヲ……スル……ナ」

「チッ、意識があんのかねぇのかどっちだよ」


 愚痴りながらブルーガイはギディオンへと向かう。

 刃すら弾く鎧ごと殴りつける。

 よろめくギディオンだったが、攻撃を受けながらもブルーガイに反撃。


 普通の人間ならば一発一発が致命傷レベルのものを何度も繰り出すギディオンにブルーガイは眉をひそめる。


「手ぇ抜いてやがったのか? さっきとは違うじゃねぇか」


 こんな状況でも手加減されていた事に腹を立てるブルーガイ。


「ブルーさん、そんなこと言ってないでノゾムをこっちに!」

「んな余裕ねぇよ! というかドラクのことも少しは心配してやれよ」

「ほんとだよね。俺のことも心配プリーズ」

「おぉなんだ、生きてたのか」

「いや死んだ。あと八回」


 ヴァンパイアの治癒力で既に完全回復したドラクが服に付いた砂を落としながら会話に加わる。

 だが一発で死亡してしまう威力でありそれを食らった望は動かない。


「わたしが行きまぁす!」


 間延びした声。

 だがそこに真剣さが加わり不思議と場違い感はない。

 声の主、ヴァーニは持ち前の足を最大限に活用してたった一歩で高く跳び大きな距離を移動する。


 ブルーガイが注意を引いていたことも幸いし無事望をアルタの元へと運んだ。


「『ヒール』」


 ありったけの魔力を込めた回復魔法。

 その甲斐あってか望はすぐに目を覚ました。


「う……ん?」

「ノゾム、良かった」


 アルタはホッとしたように柔らかな声を出しもう一度回復魔法を掛ける。


「うわ、俺やられたのか。一発しか受けてないのに……」


 身体能力の上昇から攻撃力ばかりに目がいきがちではあるが、ダメージに対する耐久性も大幅に上がっている。

 訓練によってそれらを確かに実感していたためそこそこショックであった。


 とはいえ未だ戦闘中。

 ブルーガイとドラクが善戦しているが、表情は険しく余裕のなさが見て取れる。

 ドラクに至ってはまともに防御も出来ないせいか一撃で命を落とす場面も何度かあった。


「くっ……やっべもう三回死んだ。強すぎなんだよクソ野郎」


 悪態をついていると帝国兵が自身へと向かってくる。

 先ほど相手にしたのとは違いこちらは移動速度が桁違いである。

 次に瞬きすればすでに目の前にいるだろう。


 力では敵わず速度重視の攻撃では傷一つ付かない。

 だがドラクは両手に持った短剣を握り締め構える。


 相手の動きを良く見て上半身ごと左へ逸らす事で帝国兵の拳を回避。

 掠ったのか頬が僅かに熱さを感じ取る。

 その違和感を無視して伸びきった腕に突き立てるように短剣を向ける。


 ギン、と鋭い音が耳に入る。


「ダメか! やっぱダメか、分かってた!」


 全身を鎧で覆われもはや一部の隙もない帝国兵。

 ドラク自身も剣技に秀でている訳ではなくこれまで通り相手にダメージが入らない。


 帝国兵は反撃とばかりにもう片方の腕でドラクを捕まえようとするが、突如として剣閃が割り込むように入り込み頭部に直撃する。


 帝国兵は大きくのけぞりそのままたたらを踏む。


「キ……サマ……!」

「こっちと第二ラウンド開始しないか? やられっぱなしはかっこ悪いしね」

「ノゾ……ムトコ、ロダ」


 望の挑発に帝国兵は乗ってきた。

 以前のような様子でない以上しっかりとした意識があるのかどうかは不明だが、こちらの言葉は届いている。


「オレを忘れんじゃねーぞオラァ!」


 ブルーガイの回し蹴りが再び帝国兵の頭部を襲った。

 あまりに強烈だったのか、何かがヒビ割れたような音が鳴るもそれに構わずブルーガイは追撃を行う。


 望やドラクの援護もあり、反撃を食らう事なく殴打や掌底を叩き込む。

 それが十を超える頃、


 パキン――。


 兜が割れギディオンの素顔が露になる。


「なんだそりゃ……」


 ブルーガイも思わず手が止まる。

 ギディオンの顔は全体的に黒くなり、コアの影響なのか下から根のようなものが伸びている。


「…………」


 鋭い眼つき。

 しかしどこか虚ろで意志のない眼でギディオンは目の前の敵を見る。


「ギディオン……? いや、本人なんだけどもう別人みたいだな」


 二度戦った経験を持つ望は今のギディオンを見てそう呟く。

 かつてのギラギラとした獰猛さは無くただ生まれついた目つきの悪さだけが残っている。


 ずる、とコアの根が伸びる。

 兜が無くなった事によりギディオンに今起きている現象が理解できる。


「コアの侵食……なるほどあれが酷くなれば鎧と身体の融合が始まる、というわけですか」


 少し離れた場所からアリーシャが分析する。

 だとすれば今すぐに外殻を担っている鎧を破壊すればこれ以上の被害は食い止められるはずである。


 問題があるとすれば――。


「壊せるのかな」

「さぁな。全部ぶっ壊しちまうのは結構骨だぜ?」

「傷一つ付けられないんだけど……」


 望、ブルーガイ、ドラクの順に喋る。


「ニナたち疲れたのですよー」

「ずっと、ずーっと援護してましたー。きゅうけーい!」


 岩を飛ばしたり、近くの魔物を操り顔に張り付かせたりしていた二人。

 長時間の力の使用は疲労が溜まる。

 声はいつも通りだったが疲れた顔をして後方へ下がった。


「フカーッ!」


 チェリーシアも参戦した。

 空中戦に適応出来ないのかギディオンはその攻撃の全てを受け、反撃が出来ないでいる。


 しかしまだ成体には程とおいチェリーシアの攻撃力ではダメージが通らないのか凍らせてもすぐに砕かれ元通りとなる。


「チビも頑張ってることだしオレらも行くか!」


 考えてもラチがあかないとブルーガイは前に出る。

 望とドラクも武器を手に続く。


「…………フン」


 異世界王国メンバーが戦っている間、ルルイドは自らの手で改良を加えたディクリースを使用していた。

 城の中に目的の場所があるとは分かったが、内部にあるだろう魔道具の数々が特定を遅らせていた。


「このままではラチがあかんな」


 ルルイドがこうして自由に行動できているのは、王国メンバーが先にルルイドを捕獲しようとすればギディオンが真っ先にそれを助けようとするからである。

 遠距離攻撃も同じで、ギディオンを攻略出来ていない現在では打つ手がなく放置となっている。


 ディクリースを使った今までの調査で城の中に誰も居ない事だけは確認出来ており、ルルイドは迷わず足を踏み入れる。

 壁や天井の瓦礫が転がる中、迷わず進む。


 転移部屋の前まで最短距離で到達したルルイドは確信を持った眼で目の前の扉を見つめる。


「間違いない……ここだ……ようやく、私は帰れる」


 低くやけに落ち着いた声であったが、最後は僅かに震えた声になった。

 強く鼓動する心臓を落ち着け扉に手を掛ける。

 ギィ、という音と共に扉が開く。


「巨大な魔方陣……」


 思わず零れた自身の言葉すら耳に入らない程にただただそれを見つめる。

 飲み込んだ唾がシンと静まり返った部屋に響く。


「帰るのだ、何としてでも……何を犠牲にしたとしても……!」


 手にしているディクリースをグッと握り締める。

 魔力を流し、空間制御の力を利用し場をこれまで以上に不安定にする。


 ピシリ、と何も無い空間が悲鳴を上げ小さな歪みが発生した。

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