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吸血鬼医師  作者: 氣愛注入


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1/7

診療開始

悪魔の森の奥深く――。


一見、何の変哲もない古びた診療所。


ただ、その一室からは毎夜毎晩、少女の悲鳴にも似た叫び声が聞こえるとか、聞こえないとか……。


「お前も血を吸うたろうか」


「お前も血を吸うたろうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」


聖飢魔IIの『蠟人形の館』が大音量で流れていた。


「今夜も一人、生贄になる――」


パーン!


「誰が生贄じゃ!」


白いハリセンが男の頭へ直撃した。


ハリセンで叩かれたこの男の名はピエール隼人。この診療所の院長である。


ハリセンを握っていたこの女は、修道服の上から白衣をまとった看護師、佐倉綾音である。


「痛いざんす!なんでそんなに叩くんざんすか?」


「何やってんですか!ここ森じゃないですよ、新宿歌舞伎町のど真ん中ですよ!」


「そんなことより診療の時間ですよ!もう午前零時です!」


「分かったざんすよ。せっかく賛美歌を聴いていたざんすのに」


「それ、ハードロックでしょ」


「私にとっては、これが賛美歌ざんす」


ピエールは『開業』と書かれた怪しいボタンを押した。


「ポチっとな」


カチッ。


診療所の外壁を囲む緑、紫、青の光がぐるぐると回り、『治水診療所』の看板に明かりが灯った。


入口には診療案内が掲げられていた。


『診療時間 午前0時〜午前5時』


『※夏季は早仕舞いする場合があります』


「あー暇ですねー」


この診療所には、ピエールと綾音のほかに、もう一人いや、もう一匹の、同居する住人がいるのである。


サングラスをかけ、首に赤いスカーフを巻いたニヒルなアルマジロ。その名は、アニキ。


綾音を見たアニキは、身体を丸めた。


「なんで丸まった?私、なんもしてないぞ!」


「アニキはご機嫌斜めざんすよ」


バンッ!


診療所の扉が勢いよく開いた。


「いてえよ、いてえよ、早く何とかしてくれよ!」


血だらけの男が飛び込んできた。その後ろから、もう一人の血だらけの男が続いて入ってきた。


「うるせえ!俺だっていてえんだよ!ちったぁ我慢しろ!」


二人の服にはナイフで切り裂かれた跡が残り、床へ血が滴っていた。


「医者はどこだ!こいつを診てくれ!」


「ようこそ、治水診療所へいらしたざんす」


「挨拶なんかどうでもいい、早く診てくれ、こいつがさっきからずっと痛え痛えってうるせえんだよ!」


「いてえよ、いてえよ、早く何とかしてくれよ!」


「俺だって斬られてんだよ、ちったぁ我慢しろ!」


「二人ともずいぶん派手にやりましたね。一体何があったんですか?」


「こいつがホワイトデビルのことで急にキレやがったんだよ!」


「てめえがふざけたこと言うからだろ!お前だってナイフ出してきたじゃねえか!」


「まあまあ、その話はあとで聞くざんす。まず名前と職業を教えてほしいざんす」


八九三切蔵やくみ きりぞう、薬剤師です」


「ああ、薬剤師さんなんですね」


「違う!ヤクザの医師だ。まあ無免許だけどな」


「ヤクザの医師!?しかも無免許って、それ医師じゃないじゃないですか!」


「細けえことは気にすんな」


「じゃあ一体、何を診てるんですか?」


「診るっつったって大したことはしねえよ。組員の怪我から、天国に行ける薬、いろんなものが見える薬まで何でも揃えてるぜ」


「それ、怪我はともかく、ヤバい薬を渡してるだけじゃないですか!」


「そちらは?」


五九十裂太ごくどう さけた、極道だよ。それより早く何とかしてくれ、いてえよ、いてえよ!」


「八九三切蔵さんに五九十裂太さん……切蔵さんがキレて、裂太さんが裂いたざんすか?」


「そうだよ!こいつがキレたから俺が裂いて、そしたらこいつも俺を裂きやがったんだよ!」


「裂いた、裂いた、お腹の花を裂いたざんすねぇ」


「何の花だよ!血の花しか咲いてねえよ!」


「では、まず二人とも採血するざんす」


「採血?採血なんかしてる場合じゃねえだろ、先にこの傷を縫ってくれよ!」


「いてえよ、いてえよ、早く何とかしてくれよ!」


「診療に必要ざんすから、まず採血するざんす。二人とも腕を出すざんす」


シスターが二人から採血し、血の入った二本の試験管をピエールへ渡した。


「では、今から検査するざんす。二人とも外で待ってるざんす」


「何で検査するのに俺たちが外に出なきゃいけねえんだよ!」


「企業秘密ざんす」


「医者の検査に企業秘密なんかあるのかよ!」


「そんなことどうでもいいから早くしてくれよ、いてえよ……」


二人が診察室を出ると、ピエールは二本の試験管を手元に置いた。


「まずはこっちざんすね」


しばらくして、


「うーん。チッ、つまらん血ざんすよ」


「先生、患者さんの血につまらないとか言わないでください」


「では、もう一つ……おー!これはワンダフル!素晴らしいざんす!」


「シスター、二人を呼んできてくださいざんす」


二人が診察室へ戻ってきた。


「終わったのか?こっちも痛えんだから早くしてくれよ」


「では、切蔵さんから診るざんす。傷をもう一度見せてくださいざんす」


ピエールは傷を確認した。


「うん、大したことないざんす。これだったら針でちょちょいのちょいざんす」


「ちゃんと治せるんだろうな?」


「縫えば終わりざんすよ。痛いざんすけど、我慢するざんす。男ざんすでしょ」


「それから、そっちの痛い痛い言ってる、うるさいあなた」


「早くしてくれよ、さっきからずっといてえんだよ!」


「それは当たり前ざんすよ。だって虫垂炎ざんすもん」


「は?ちょっと待て、俺まだあんたに傷口すら見せてねえぞ。なんで虫垂炎なんて分かるんだよ?」


「俺が痛えって言ってんのは、こいつに斬られたからだぞ!」


「それも痛いざんす。でも、虫垂が腫れて痛いざんすよ。早く処置しないともっと痛くなるざんす」


「虫垂炎となると、手術か?……」


「そうざんすね。取っちゃうざんす」


「取っちゃうって、そんな簡単に言うなよ。腹切るんだろ?」


「そうざんすよ。シスター、準備するざんす」


「分かりました」


まず、切蔵の傷の処置が始まった。


シスターが傷の周囲に局所麻酔を行った。


「いってえ!麻酔の注射まで痛えじゃねえか!」


「そこは我慢するざんす」


麻酔が効くと、ピエールは傷口を縫っていき、しばらくして縫合が終わった。


「はい、おしまいざんす」


「もう終わったのか?」


「次はあなたざんすよ」


「俺は腹まで切るんだろ?本当に大丈夫なんだろうな……」


「寝ている間に全部終わるざんすよ」


裂太には全身麻酔が施され、裂太が眠ったことを確認すると、ピエールはナイフによる傷を縫合し、そのまま虫垂炎の手術に入った。


腹部を切開し、腫れた虫垂が現れた。


「オー!これはまさにトレビアンざんすねぇ!」


「先生、手術中ですよ」


「分かってるざんすよ」


「患者さんのお腹を開いて喜ばないでください!」


ピエールは腫れた虫垂を切除し、トレーへ置いた。


「ワンダフルざんす!」


ピエールはそのまま手術を終え、裂太の腹部を閉じ、やがて麻酔から覚めた裂太が目を開けた。


「……終わったのか?」


「全部終わったざんすよ」


「いつの間に……さっきまであんなに痛かったのに、ずいぶん楽になったな」


「俺の方もちゃんと縫えてるな。怪しい診療所だからどうなるかと思ったぜ」


「では、当診療所の目玉!!お会計です」


二人は『診察料金 時価』と書かれた文字を見た。


「時価って……おい、ここ寿司屋じゃねえんだぞ」


「そちらの切蔵さんは十万円ざんす」


「じゅ、十万!?ふざけんなよ、傷をちょっと縫っただけで十万ってどういう料金だよ!いくら深夜だからってぼったくりにも程があるだろ!」


「診察料金は時価ざんす」


「だから、その時価って何を基準に決めてんだよ!傷の長さか、縫った回数か?何をどう計算したら俺の傷が十万円になるんだよ!」


「俺なんか傷を縫った上に腹まで切って虫垂まで取ってんだぞ。こいつで十万なら、俺はいくらになるんだよ……」


「裂太さんは500円ざんす」


「500円!?腹まで切って虫垂まで取ったのに、本当に500円でいいのか?」


「500円ざんす」


「おい、ふざけんなよ!そいつが500円なら、なんで傷縫っただけの俺が十万なんだよ!余計におかしいだろ、どういう料金設定してやがんだ!」


「時価と言ったら時価ざんす。ワタシのスマイルはサービスざんすよ」


「だからその時価の基準を聞いてんだよ!そんなもん納得できるか!」


「俺は500円なんだから別にいいけどよ……」


「お前は黙ってろ!お前が500円だから余計に腹立つんだよ!ヤクザ舐めるなよ!」


「なら、今から縫った糸外すざんすか?」


「……わ、わかったよ」


二人は料金に文句を言いながら診療所を出ていった。


ピエールはトレーに残された虫垂を手に取った。


「ウフフ……ざんす」


「この腫れ、この色艶……実に芳醇ざんすねぇ。これだけしっかり炎症が乗っていれば、濃厚なコクと余韻が期待できるざんす。今夜はなかなかの当たりざんすよ」


「吸ったろか」


アニキがトレーのそばへ寄ってきた。


「ノンノン、アニキ。これは譲れないざんすよ」


「吸ったろか」


「ダメざんす。今夜はワタシのざんす」


「先生、アニキと取り合いしないでください」


「取り合いじゃないざんす。これは大事なものざんすよ」


「はいはい、分かりましたから、二人とも喧嘩しないでください」


「いやぁ……実にトレビアンざんすねぇ」

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