第64話 賢者、余興の準備をする
「はぁ……想像よりも白熱しているなぁ」
探知がずっと警鐘を鳴らし続けておりますわ。
それもそうだよなぁ……なんか、アーシャやミルファも参戦してきたせいで魔力濃度が驚く程、高くなってしまった。君達が好きに暴れられるのは僕が屋敷全体に付与魔法をかけているからなのだよ。少しは褒めてくれても……って、そんな事を言ってしまえば何をされるか分かったものじゃないからいいや。
それに想定していたよりも敵はやり手みたいだ。
うーん、気配を完全に消すという事実を他者にまで与えられるのか。そうでなければララの魔力すら感知出来ないのはおかしいよな。……転移石とかでどこかへ消えたか。いいや、それも難しい話だよな。そうした場合は転移石の魔力が漂っているはずだ。
「と、ビンゴ。居はするみたいだな」
風を使っての原始的な探知でしかなかったが。
それでも成果としては上々……しかも、伏兵達も見付けられた辺り、最高の結果と言ってもいい。俺を撒くために扉を全て開けていた事が仇になったな。ましてや、個室に逃げ込んだのだって俺に捕まえてくれと言っているようなものだ。
とはいえ、ただ前から入るのもつまらないか。
ここは意趣返し、それでいて俺とじゃじゃ馬子だけの秘密の空間と洒落こもう。せっかくのイチャイチャタイムを奪われたんだ。こういう時にイチャイチャしないと気持ちが収まらないだろ。そうイチャイチャにイチャイチャをかけるような最高峰のイチャイチャを……って、訳が分からなくなってきた。
「……え?」
「寂しい思いをさせたな」
「……三秒の遅刻よ。バーカ」
おー、この感触はハグとキスの合わせ技ですか。
ふんふん、幼いとはいえ、さすがに女の子の体なだけはある。この柔らかさと未成熟な甘味を含んだ香りはイチャイチャにイチャイチャを重ねた、ホールケーキに餡蜜とチョコレートソースをかけたようなものだと言っていい。……と、変態的な思考に陥りかけたが楽しむのは後か。
「して、助かった今、ララは何を望む」
「助けて欲しい……勝手な事だとは分かってはおりますが他の皆も、私の家族も助けて欲しいの。だって、相手は」
「大丈夫、その先は我に任せろ。君は今から起こる事を静かに後ろで見ていればいい。時期に夜が明けて本当の朝が目を覚ましてくるからな」
「その夜明けは私と共に明かすのはどうでしょう」
何とも貴族らしい遠回しな言い方だ事。
純粋に一緒に戦いたいと言えば済む事だろうに。そんな言い方をされてしまうと僕だって美しい返し方をしなければいけなくなるじゃないか。今の空気を壊さないような内容であり、ララなら分かるであろう美しい誘い方となれば……ああ、あるじゃないか。
「そうか、確かに宴はまだだったな」
「ええ、ですので……」
「Shall we dance?」
「……Yes,off course!」
ララの手を取って魔力を流してやる。
先程の戦いで体内の魔力回路はズタズタになっているからな。よくもまぁ、その状態になっても一緒に戦いたいだなんて言えたものだ。可愛らしくて愛おしく思える反面、その状態にしてしまった過去の自分をぶん殴りたくなってしまう。それでも掴めたものも間違いなくあるだろう。
「完全回復」
「……すごい、魔力も傷も何もかもが治ったわ」
「その内、ララにも使えるようになるよ。今はただ回復した魔力を使って敵を倒す事だけを考えていればいい。我等の住処を荒らした大馬鹿者達には必要な救済があるだろう」
その言葉にララは小さく首を縦に振った。
まぁ、捕まったからこそ、敵の正体も気が付いているんだろうな。普通の人ならば今のような状態を作り出す事は不可能だ。出来て、僕の配下レベルにならないと出来ない芸当を容易に成し遂げている。じゃあ、名が知れた者達の中で似た事が出来る存在はいるのか……情報に間違いが無いのであればいないだろう。
となれば、表舞台に立っていない者達。
でも、それだけの力がありながら少しも名前が売れないで生きているなんて不可能だ。彼等が雇われている以上は何かしらのコネクションの中にいるだろう。その点からして……人族の世界で生きているから情報を得られていない、と考えた方が色々と合点が行く。
「我が強化をしてやる。だから、好きに暴れてみせろ。後衛は馬鹿勇者のせいで嫌という程に熟知している。精々、我の好意を無駄にしないよう全力で戦ってみせろ」
「ええ、貴方の隣に居続けるためにロレーヌ家の力を見せますわ!」
僕の強化は他の人達とは一味違うからね。
端的に言えば、毒魔法の良い部分だけを強化魔法に重ねた一級品。あの阿呆みたいなステータスを誇る馬鹿相手に対処出来ていたのは紛れも無く、この魔法があっての事だ。無理ゲーを勝てるように出来る魔法を行使して負けるなんて事は有り得ないだろう。
「薬物増強……して、このまま転移させても問題は無いか。魔法の準備を行いたいのならば多少の余裕はあるが」
「いいえ、ここは一つ。私の遊びに付き合って頂こうと思っていますわ。折角の些事、楽しませなければお相手に失礼でしょう。公爵家の礼儀というものを示してこそ、ロレーヌ家の格を世に知らしめる事となりますわ」
「ふむ、なら……その矜恃に合わせよう。何か、我の方で行うべき事はあるか。魔力等で足りない部分があれば合わせる事も可能だが」
「でしたら……と、いった事は可能でしょうか」
ララの言葉に首肯で返しておいた。
それを見て安心したような表情をしてから即座に指定されたエリアへと下がっている。後は僕の行動次第で上手くいくか、失敗するかが決まっていく。とはいえ、言われた内容は只管に簡単なものでしかない。それにララの言っている事も分かってしまうからね。
「さてさて……まだ離れていないようで助かった。どこかに行かれていたら計画はご破算だったからね」
数からして表にいるのが十二、伏兵が十五。
合計二十七名が先の場所にいたままとなればさっさと姿を表してやるのが吉だ。だが、ただ現れるだけでは面白みも無い。余興を余興たらしめるためには多少の演技も必要だろう。面白くない世界に価値なんて無いからな。転移魔法陣の展開、同時に多くの魔力を流し込む。
「ふむ、豪華な迎えではないか」
「誰───!」
おっと、誰か話し始めていたな。
全員を壁付近に張った結界に叩き付けられたせいで止まってしまったけど……三下の言葉くらい聞いてやるべきだったか。聞くだけの価値があるか分からないから無意味でしかないだろうけど。それにララのような美しい声ならまだしも僕の邪魔をするような輩の音なんて……虫唾が走る。
「囀るな、耳障りだ」
全員に威圧をかけて黙らせてやった。
本音を言えば、このまま自害を命じるだけで殺せるだろうが……ララとの約束の手前、そんな事を出来る訳もない。とはいえ、何もしないままで終わるのも癪だ。軽く右腕を振って伸ばす。理由なんて無い、ただカッコイイからだ。まぁ、黒子のような姿で統一しているのは少しばかり厨二病を擽られてしまうけど……試しにケールにでも着せてみるか。
……と、話が脱線しそうだったな。
「我が名は孤高の賢者、過去のロレーヌ家との盟約により地獄から姿を現した英霊なり。諸君らは我が同胞に手を出したのだ。精々、我を楽しませてから世を去ると良い」
軽く指を弾いてから威圧を解いてやる。
逃げようとすれば逃げられるだろうが、動きからして戦う覚悟くらいは持っているらしい。それならそれでいいんだ。後は僕の方で好きに戦えるってものだからね。一先ずは他に意識を向けられても悲しいからな。
「獣之咆哮」
全員の意識を向けさせた上で全てを刈り取る。
声を出さないように命令しているせいで何も言わずに向かってきたが……この程度の速度なら容易に殺せるんだよなぁ。殺していいのならさっさと終わらせられるのに逆に難しい話だな。
仕方が無いから固定のナイフは投げてやる。
さすがに手を抜き過ぎたかな。一部の敵は躱して迫ってきている。とはいえ、四人の肩を切れたお陰で得物を落としてくれた。それに躱したところで意味は無いんだよなぁ。だって、それは俺の手数を増やすだけの行為でしかない。
「麻痺」
最低出力にまで落とした雷の連撃。
出力を間違えれば丸焦げにして、ハイしゅーりょーだから落としたというのに。どうにも頭が弱弱なせいで足を止めて今の状況を確認しているよ。本来ならさっさと殺して終わりだというのに大きな隙すらも逃さないといけないなんて……はぁ、本当に面倒臭いなぁ。
……ララのためだから少しくらいは許すか。
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