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第33話 賢者、配下のために動く

「そうですね、簡単に言えば誰よりも優秀な指導者達を持ち、そして天才と同等の才能と誰にも負けないだけの努力する力を持つ存在にはどうしたところで手が届かない、という事ですよ」

「何を言って……」

「私が主やドラン様に手が届かないように、最初からどうにかできる話では無いのです。才能に関しては御二方に勝てる気もありませんが、指導者と努力という面においては飲んだくれている貴方とは大きな差がある」


 才能の差ね……それは恐らく三名ならば他の人達に比べて負けない要素だと思う。冒険者ギルドに来て分かったがどうも世界とは想像以上に残酷なものらしい。まさか、僕が大して才能が無いと思っていた子達であっても磨けば輝く宝石だったとはね。


「私はどう頑張ったところでネームレス様にもドラン様にも勝てる可能性がありません。それは私よりも強い彼女達にも言える事です。そんな我が主が私の力を求めて同行を許してくれたのです」

「し、死ねェッ!」

「ま、待て!」


 表情を変えず近付いてきた男の腕を捕らえる。

 そのまま腕を静かに反転させたかと思うと男の体が地面へと叩き付けられた。魔力の応用、本当に僕の教えた事を身体へと叩き込んでいるらしい。僕が教えたとはいえ、しっかりと技術として扱えたのは数人しかいなかったぞ。


「あ……ああ……!」

「ああ! あの方ならば! きっと剣を腕で受けずとも破壊する事が可能でした! なのに! 私はどうでしょう! 腕で受けたとしても壊せずに長たらしく楽しませる要素を作り出せずにいる! 本当に愚かで弱くて詰まらない最悪な配下です!」

「な、何なんだよ……! お前は! お前達はッ!」


 いや、それは確実に違うと否定したい。

 戦闘におけるセンスとは言わば目だと僕は思っている。何をどうするべきなのか、その先に何があるのかを見る誰よりも良い目が無ければいけない。一瞬の間に全てを見通して状況を判断する目、そして頭をフル回転させなければいけないんだ。頭は経験でどうとでもなるがセンスと同義である目は成長に限界がある。


 だが、幼く目の良いケールは間違いなく優秀だと僕は思っている。天才だとかの指標は悪いけど少しも分からない。僕にとっての天才は歴代最強と言われた元パーティメンバーの勇者だ。アイツと比べれば大体は非凡に落ちてしまう。でも、確実に優秀だと胸を張って言えはするな。


「……私もイラついているのですよ」

「な、何が……」

「大切な仲間を傷付けられて……絶対にぶちのめしてやる。後悔しても遅い! ただ悲鳴のみを私達に聞かせるがいい!」


 だが……さすがにヒートアップし過ぎか。

 カイリは当然、邪険にされた僕への対応だとでも思っているのか喜ぶだけ。レミィだって嬉しそうに小声で「殺せ」と呟くだけだ。このままだと良い結果にはならないよな。


「あの方は……優しく私をお傍に付かせてくれる。ならば、だからこそ、私はあの方の優しさに少しでも報いたい。……少しだけ本気を出すといたしましょう。ここからは殺す気でいきます。せいぜい死なずに生き残ってください」

「本、気……まだ……?」

「知らしめろ、この不完全で不細工な技を」


 普段のケールでは予想できない酷く低いドスの効いた声、それが淡々と強い殺気を目の前に立つ敵へと注がれていく。体全体に集められた魔力が構えと共に心臓へと集められる。


「苦しめ、そして我が主の威光を知れ」


 技や魔法の詠唱口上は誰だって好きなように書き換えられる。それは最初のうちに奴隷達へと教えこんだ事だ。要は詠唱なんて技を発動させるための想像力の補填でしかない、と。そこに僕の事が現れたのであればそれは本心からの忠誠心の表れと言ってもいい。


「天を喰らい、我が望むままの力を与えよ」

「ひっ……い、いや……!」

毒喰ヴェノム


 ケールの体が漆黒へと染まっていく。

 ああ、これは僕が教えた技だ。だからこそ、この技の危険性はケール以上に知っている。ケールに対しての危険性ではない。技を食らった相手に関わる危険性だ。既に相手は気絶して動ける状態にない。だったら……。


「はい、止まれー。それ以上はさすがに死ぬぞー」

「なっ……わ、我が神でしたか……」

「ああ、お前を安全に止められるのなんて僕だけだろう。まさか、本気を出したとして僕に足元でも叶うと思っていたのかい」


 こう見えて思いっきり身体に強化を張って魔力の膜を作ってから触っているんだ。こんなのはドランと模擬戦でもしなければしていないレベルの対応だよ。足元でも、とは言ったが股下辺りまでは届いているだろうな。


「我が神に少しでも勝るとは思っておりません。ですが、欲を言うのであれば多少なりとも傷を与えたかったものです」

「不完全でなければ、もしかしたらね。それに波動拳も使わずに傷とは……少しばかり僕をバカにし過ぎだよ」

「……そう言っていただけると努力した甲斐を強く見い出せます。主の助けとなるために培った技術が価値あるものであれば……尚更……」


 毒喰……アレは毒魔法を纏った一撃だ。

 それこそ、毒に対しての耐性が無ければ一撃で殺す事さえできる攻撃。もしも、その毒への知識と応用が完璧なものになれば僕の耐性なんて簡単に剥せるだろうな。とはいえ、毒魔法は僕の得意分野だ。簡単に僕を越えられると思わないでもらいたいね。


「さてと……長い事、傍観していられるのですね」

「……バレていたか。一応は元SSランク冒険者なんだがな」

「SSなんて大した事がありませんよ。所詮は人が築いた雑魚が見出した評価の指標です」


 それに見ていた感じ、僕達が生きていた時代に比べてランクの価値観が下がっている。アイツらでBランクだなんて……僕が生きてきた世界ならDランクの上位が関の山だと言うのに……平和が彼らを変えたのかね。


「……惨いな」

「その種を撒いたのは他でも無い彼等でしょう。構いもせずに酒を楽しめば関わる事すらもなかったというのに」


 本気の威圧を向けて笑顔を見せておいた。

 僕は……怒っている。端的に言えば不快だ。ケールに任せたのは怒りに任せて動かないため、僕が怒りを認めて動いていたのであれば半壊で済むかすら分からなかった。それだけ……気分が悪い。


「まさか、私達に非があるとでも。もし、そうであればギルドごと敵に回しても良いと思っておりますが」

「……冗談はよしてくれ。善悪の判断も強者の区別だって持っている。今のはただの感想だ」

「それならば良かったです」


 ただ見詰めていただけ……なのに、目に脅えが見え始めたな。そんなに僕の顔が怖いか、それとも後ろに立つ三人の威圧が恐れに見合うものだったのかね。だが、どうでもいい話だ。


「もしも非があると言われれば笑顔では済ませられませんでした」

「……ふっ、これほど恐ろしい事は無いな」

「いえいえ、僕達なんて一般人の端くれ。ギルドマスターを脅す事なんて不可能ですよ」


 そう、僕であるアルフなら不可能だ。

 でも、ネームレスである僕なら大した問題とはならない。孤高の賢者、それは王国の最大の敵とまで言われた存在だからな。未だに伝承が残っているあたり相当な恨みを覚えられているらしい。


「ですが……殺し合いたいというのなら話は変わってきますが、ね」

「ッ……! や! やめてくれ! 無駄に命を捨てる気は毛頭無い!」

「……冗談ですよ。お気にせず」


 高々、冗談に対してそこまで怯えなくても良いじゃないか。僕だって無駄な殺生をしたいわけではない。もしも、戦いたいと言われた時の対応を口にしただけだというのに……。


「では、記憶を改竄させておきましょう。あ、安心してください。ギルドマスターの貴方の記憶を改竄する気はありませんから」

「……くそ、脅しか」

「脅しではありませんよ。これは僕達のような被害者を生み出させないための行動です。折角、将来有望な人が現れたのに消されてしまっては冒険者界隈が壊れてしまうではありませんか」


 これに関しては事実だ。僕も、あの勇者でさえも戦闘技術を学ぶまでは一般の兵士にも勝てやしなかった。とはいえ、アイツは三日もすれば一度たりとも負けない程の強さを手に入れていたけど。


 さてと、まずはケールに敗れた奴隷達を拠点の懲罰房へと送って……そこから全員の記憶を消す。最初から何も無かったかのように、それでいてギルドマスターは僕達の登録証を作るために来たとすれば辻褄は合うだろう。そう、アイツらは最初からここには来ていないんだよ。




「……おい、あの青年はSSランク、他はSランクで登録しておけ。俺の権限で通せば無理なく済ませられるはずだ」

「え……いいのですか?」

「こんな災害のような奴らは手を出されないようにしておく方が確実に良い」


 へー、SSランクを簡単に渡すとはね。

 Sランク以上は年に五回しか渡せないものだ。そしてSSランクとなればギルドマスターが冒険者ギルド本部に打診をしてようやく出せるかどうかが決まるようなもの。それを一人の勝手な判断で出すなんて普通は無理だな。


 つまり……それなりに地位は高い、か。

 一年に一人は勝手にランクを決められる存在、それでいて元SSランクとなれば……幹部程度の扱いは受けているのかね。それならもう少しだけ揺さぶって恩でも売った方が良さそうだ。


「災害とは失礼ですね」

「それなら厄災だな。どちらにせよ、俺では手を出せないレベルである事には変わりない。恐らく剣聖であっても不可能だろうな」

「そんな方が……?」

「あ、安心してください。僕達が来たのはダンジョンに潜るためですので。もしも、ここにいる人達では解決できない依頼があるのならやっておきますよ。ギルマスから受けた恩は返したいので」


 手をヒラヒラさせて笑って見せる。

 おうおう、さっきとは打って変わって受付嬢の顔が綻んだな。今の顔は元々のトーマと瓜二つにしていたから……意外とイケメンだったのか。いやいや、それならあんな酷い扱いを受けるわけが無いよな。


 それにどこまで行っても王国の女である事には変わらない。どうせ、後には殺してしまう存在なんだ。今は適当に対応しておこう。それに後々でミルファに何て言われるか分かったものじゃない。僕はミルファが大好きなのに勘違いされても困るよ。


「……この街三つのダンジョンの完全攻略をしてくれ、と言ったらできるのか」

「所詮は三十階層ごとき、その程度で僕が止まるとでも思っているのですか?」

「……すまないな、だとしたら、明日にでも来てくれると助かるよ。俺じゃないと達成できない依頼が数件あったんだ」


 SSランクでようやくな案件……高難易度な依頼を受けさせてもらえると捉えていいよな。それならカイリ達の育成にはちょうど良さそうだ。格上と戦わせてあげられる機会なんて奈落の中だと少ないし、ものによっては対人戦も絡むだろう。もっと言えば知能戦だってあるかもしれない。


「その分、報酬は弾んでくださいよ。ここには五日間はいる予定なので……八件は解決しておいてあげますから」

「一日二件か……分かったよ、まとめておく」

「はいはい、よしなに」


 運良く……とは言えないが高ランクの冒険者証を貰えたからな。これで二つのダンジョンの最深部までは行けるようになった。まぁ、所詮は時間が経てばバレる事なんだ。遊び回って旅行が有意義なものだったとすればいい。


 後で驚けばいいさ……依頼を頼んでいた相手が孤高の賢者だった事に。その時の顔が見れないのはとても残念だが……僕に目をつけられた事を死ぬまで悩めばいいさ。

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