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第32話 賢者、配下を憂う

「……さて、無駄話はここまでです。ここからは一分間だけ与えてあげましょう。その時間だけ私は攻めの一手も取りません。それが終わればコチラから向かいます。せめて、楽しませてくださいよ」

「イカれてやがる……!」

「イカれている……貴方達がイカれていて私達が普通なだけですよ。いえ、イカれているのではなく下等なだけでしたね。我が神に対して冒涜とも取れる行動を見せる貴方達に……慈悲は与えない」


 いや、確かにケールはイカれているよ。

 それも配下の中で一番だと言っていい。ポテンシャルだとか、才能だとかを抜いて馬鹿みたいにクソ真面目に敵を殺す事だけを考えているからな。じゃあ、カイリよりも格段に弱いかと聞かれればそうじゃない。


 元よりケールは人を殺そうという気持ちは大してないんだ。憎しみや恨みがあったとしても達観して目的を優先できるような性格、それがあるから殺気を全面に押し出すカイリやレミィ等との戦闘においては勝利を収められずにいた。


 殺気とは言わば敵を圧すための大切な一要素、戦争において士気が重要なように、戦闘においては個々人の士気が高いかどうかで戦局が一気に傾いてしまう。恐怖を覚えれば不利になる、そんな感じだ。


 だが、今回は全くもって逆。

 殺しこそ許してはいないものの自由にやっていいと僕が言っているんだ。何なら僕が本気で怒っている事を理解しているケールからすれば、殺したところで注意すらされない事は理解しているはずだからな。


 三人とも、他よりも優れているんだよ。

 だから、僕はこの三人を選んだんだ。その中の一人としての実力を見せてくれないと僕の方が困ってしまう。だって、あの子の近接戦の強さはミルファ仕込みだからね。本来の得物である槍の弱点を補うための格闘術、楽しませてもらおう。


「一、二」

「お、おい! 早く潰すぞ!」

「七、八」


 流す技術、アレはミルファのものか。

 なるほど、自己流な部分はかなりあるが基礎は全て教えて貰っているらしい。となれば、魔力操作の技術も自分で高めたと考える方が良さそうだな。まだまだ甘い部分は多いけど……だからこそ、良い。転移したての自分を見ているようだ。


「十五、十六」

「なんで! 四人がかかりで一撃も与えられねぇんだよ!」


 流して他の敵に当て、すぐに他へと対応する。

 例えるなら柳……というのは些か在り来り過ぎる例え方か。それでも分かりやすく例えるとしたらやはり柳が最適だ。豪風とまではいかないが強い風を受け流して自身へのダメージを減らす、ただ愚直に育っていく柳。


 真っ直ぐ、軸と体の全てを真っ直ぐにする。

 それがケールなりの全ての力を整えるための完璧な体勢なんだ。例えば立ったままで頭へと血液を注ぐとなれば足元に通わせるよりも必要なエネルギーは多いだろう。それと同じで真っ直ぐにする事で無駄な力を省き、通わせる魔力の微かな無駄な力すらも同時に省くんだ。


 それをあの子は一人で見つけ出した。

 ミルファの技術はあっても流しの技術だけなら彼女よりも優っているだろう。もちろん、感覚としてはミルファの方が早いかもしれない。だけど、論理的に全てを理解して十全に放てるのはケールだけだ。だからこそ、どうしても彼に大きな期待をしてしまう。


 体の力を一点に集める……簡単に口にはできるが僕でさえも感覚でしか教えられなかった事を、他の人達に教えられるような存在なんだよ。それが優秀でもなんでもないだなんてどうして言える。


 まぁ、それでも甘い部分は目立つけど、と主なりの虚勢は張らせてもらうけど。だって、魔力操作に関してはまだまだ過ぎるからね。まだまだを通り越してまだまだまだまだまだ(以下略)になってしまうよ。


「五十九、六十……やはり、一撃も当てていただけませんでしたか」

「ふ、ふざけんな!」

「……あの方なら流す暇もなく目の前が真っ暗となっていたのに……本当に口だけの輩は面白くも無いですね」


 うん、それは単純な技術の差だね。

 一応、ミルファに体術を教えたのは僕だし、未だに技術だけで戦闘したとしても万が一に負ける事はない。半世紀以上をかけて戦闘を続け培った技術が半年にも満たない者達に負けるなんて心が折れる程度では済まないからな。


「さてと、ここからは私も攻めに転じましょう。この場は言わば主のための余興の場、楽しませるために幾つもの演目を作らなければいけないでしょうからね」

「何を言っているんだ!」

「……話は静かに聞けよ。演目の前に殺すぞ」


 良い殺気だ。ここまでのものが出せるとは。

 普段からその精神で戦っていればカイリとも互角に戦える可能性があるのに……いや、そもそもは僕の配下に対して敵対心は持ち合わせていないんだもんな。そこまで求めるのはさすがに酷か。


「所詮は余興……だからこそ、私は求められる事を全うするのみです」

「はっ……!?」

「少しは受けに回れよ。素手でこれなら我が神に楽しんでいただけないだろうが」


 一瞬で頭と腹、そして足を拳で撃ち抜く技。

 言葉で聞けば簡単にイメージはできるが、それでも行動に移すとなれば体が追いつかない。圧倒的なステータスを持ってようやく成せるような人間離れした技だ。だが、それをケールは簡単そうに行ってしまっている。


 一瞬だけ本気の身体強化をかけ、そして持って三秒間のバフ効果の間に連撃を放つ。本気でやっても三発が限度なのはまだ未熟なところが多いからだ。それに受けた冒険者も一撃で沈められていないからな。でも、それは今だけの話だ。


「良いですね。それだけの耐久力が無ければ本当に思い描く演目すら作り出せませんでした。……もう一度、同じ技を貴方に当てましょう。三秒以内に覚悟を決めてください」

「な、何……を……!」

「三段突き」


 沖田総司が得意としていたとされる技。

 とはいえ、名付けをしたのは僕だし、別に見たままの技名にしただけだけど。それに沖田が行った三段突きだってケールのものとは全くもって違うものだ。


 それこそ、突く引く突くの三ステップを三段突きとした説だってあるし、突く突く突くだとしても腹とかの低い箇所へ連撃を加えた方がリスクは少ないからケールの使う技とは明確に違う。敵からの反撃無く頭と腹と足を攻撃するなんて簡単な事では無いからな。


「がっ……まだ、だ!」

「なるほど、その耐久力の高さは確かに評価しても良いかもしれません。とはいえ、傷だらけで向かってくるなど愚の骨頂。もう少し」

「講釈たれてんじゃねぇ!」

「背中はガラ空きだろうが!」


 ……いやいや、ガラ空きなわけないだろ。

 隙を見つけたと思って合わせに行ったんだろうけど少なくともタイミングが早い。こういう時はまだ傷の浅い存在を囮にしてから不意を突いた方が良いだろう。そのタイミングの違いのせいで……。


「汚い手で触るなよ。この服は我が神より頂いた最高の逸品、貴様達が拝む事すら本来はできないような代物なのだぞ」

「ひぐっ……!」

「ぐっ……!」


 髭面のおっさん同士でキスをする事になる。

 こんなの誰が見たいんだよ。仮にBL本があったとしてもオッサンよりはイケメンの方がいいだろうに。それでいてどうせ片方はヤンキーとかチンピラみたいな金髪なんだろう。そしてもちろん受け役になるのは……と、クソどうでもいい話だったな。


「ほ、ほざけェェェ!」

「よくも二人をッ!」

「……黙れよ」


 おお、速いな。一瞬で二人を踞らせるか。

 確かに速度で圧倒しているのであれば腹を一回で殴れば黙らせるのも容易……そこから連撃を加えないのは殺さないように躊躇しているからだろうかね。まぁ、演目だと言っていたのだから僕を楽しませたいのは確定かな。


「……大きな口を叩くのならもう少しだけ楽しませてくださいよ。そうでなければ私が出てきた意味が無いでしょう」

「Bランクだぞ……! なんでBランクの俺達がこうも簡単に……!」

「我が神は私達をSランクまで導くと口にしておりました。その中でも私達三人は最上位に位置するような存在、端的に言えば貴方達とは天才と凡才ほどの大きな差があるのですよ」


 あー……まぁ、間違ってはいないか。

 細かく言えば幼い時から正しい育て方をすれば誰だってSランク程度にはできるってだけ。それも理論上はって付け加える必要があるし、机上の空論だってあった。その中で飛び抜けて才能があった事は認めるけど……気にするだけ無駄か。


「どこまで行こうと多数が個の才能を超える事はありません。人は嫉妬から才能は合わされば加法にも乗法にも勝ると言いますが……現実は非道です」

「カホウ……ジョウホウ……何の話だよ!」

「はぁ……知能の無い者との会話は疲れてしまいますね。言語が同じだというのに理解して貰えないとは。いえ、こういう時は知能を合わせるべきでしたね。我が神であればそうしてくれました」


 うーん、何という煽り、誰に似たのでしょう。

 加法も乗法も知らないのは市民の出からしたら当然の事だからなぁ。それこそ、ケール達だって僕に貢ぐ道具とするために教育を施されただけ。それ以前なら今みたいな難しい言葉すら使えたかも分からない。


 それでも変わらず難しい言葉を使うのは過去の家族達を否定したいからか、それとも我が神とまで言う僕への敬意を最大限に表すためか……どちらにせよ、もう少しだけ僕の悪いところは真似しないようにさせないとね。

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