第28話 賢者、小さなミスをする
「すごく綺麗ですね」
「何でもロレーヌの街の中でも随一のカフェらしい。主に男女で来るのが鉄板と聞いたが……まぁ、男女二人ずついるから変に勘繰られたりはしないだろう」
ミルファと来るのに値するかどうか。
そこもあるけど一番は個室があるかどうかが問題だからな。静域をかけていたとはいえ、まさか普通の席でロレーヌ領にて何をするかなんて言えるわけも無い。必ずしも僕の静域を見破れる人がいないとは言い切れないからな。
白い外壁の『憩』という名のカフェ。
一見すると憩と書かれた看板が目立つだけのカフェだが、僕がここを選んだのには理由がある。それはパンケーキとかの甘い物と共に数点の日本食が提供されているからだ。この世界に来てから日本食なんて食べれていないからな。やはり、食べられるのなら食べたいという気持ちはある。
「我が神、一つ質問がございます」
「……言ってみてくれ」
「誰を神の隣に座らせるのでしょうか」
……はぁ、三人ともそれを気にしていたのか。
特にカイリとレミィ……そんなにソワソワしてしまう程の事なのかねぇ。別に僕の隣になったとしても十分とかでしかないはずなのに……いや、こういうのはクラスで好きな子が隣に来るのと同じ感覚なんだろう。
もしかしたら、お近付きになれるかも……そんな淡い恋心のために僕はしっかりと対応してあげなければいけない。というのは、冗談だけど……強いて言うのなら理由があるべきだよな。
「四人が座れる個室があるのなら奥が僕とレミィで、手前がカイリとケールだ。気遣いができる点からしてケールがレミィの隣の方がいいだろう。強さの観点からしてカイリはいざと言う時に僕を守れるように隣に座るように」
「はい! この身に代えてもお守りします!」
「強さ……私がカイリよりも弱い……?」
「……さすがに勝てませんか」
落胆した者が二名、息を荒らげる者一名。
なんというか……ここまで対照的に勝者と敗者で分かれてしまうのか。いや、それでも普段の行いが微妙なレミィが悪いと思うんだ。レミィがしっかりと動いていれば強さが曖昧な分だけ決め方も変わっただろうし。
「納得できない……!」
「はぁ? ネームレス様が直に決めて頂いた事なのよ。それの何が納得できないの?」
「アンタが隣はまぁ百歩、いや、百万歩許してあげてもいいわ。でも、アンタよりも弱いと言われた事が納得いかないのよ!」
おうおう、珍しく感情的な姿を見せているな。
そこまでカイリに対して対抗的な考えを持っていたのか。もしそうであれば少しばかり申し訳ない言い方をしたな。ここはさっさとレミィに謝罪をして……。
「じゃあ、なに? 私とやり合う気なの?」
「ええ! ぶっ飛ばして私の方が強い事を証明してあげるわ!」
「ふーん、なら、やってあげるわよ!」
お互いが自身の得物を表に出した。
危ないな、咄嗟に周囲に幻惑魔法を放ったから不思議がられてはいないが……本気で戦い始めたら簡単に壊れてしまうだろう。それに今は暗躍するために身分や姿を偽ってここに来ているんだ。さすがに二人を許す訳にはいかないか。
「はい、止まれ」
「力が……!」
「これは……!」
「戦闘を行って実力を確かめ合うのは良い事だ。だが、場所くらいは弁えてもらおうか。それができないのであれば例え君達であろうと……二度と立ち上がれないようにするぞ」
もちろん、そんな事をする気は無いけど。
ただ、本気で威圧をかけておいて損は無い問題のはずだ。高々と軽く考えていた僕の落ち度ではあったが暴走しがちな点は如何せん、さっさと治して欲しい悪癖のようなものだからな。
「良いか、我は三人にしか頼めない任務だと思ったから呼んだのだよ。その任務の支障を来たすような事をして我が喜ぶとでも思っていたのか」
「す、すみま」
「謝罪など要らない。もしも、本心から申し訳なく思うのであれば結果で示せ。なに、この程度で二人を嫌ったりはしない。ただ、少しだけ考えを改めて欲しいのだよ」
これが奈落の中で、なら確実に許していた。
というか、僕は喜んで二人の戦いを見ていただろう。こうやって本気で怒っているのは僕並に強い人がいるかもしれない中で、本気で戦闘を行うという事がどれだけリスキーなのかを考えて欲しかったからだ。
「我のために生きると決めたのであれば我の害となる事は極力、避ける事だ。そこに自分や仲間の命が関わっていないのであれば逃げる事だって選んでよい。我が喜びそうな考えのもとで何をするか決める事だな」
「もちろんです。後は結果で示してみせます」
「……分かりました。敬愛するネームレス様が決めた事です。ワガママは言わずに受け止め、結果を示してみせます」
「それでいい。では、この事は不問とする。これ以上、どうでも良い事に時間をかけても無意味だからな」
まぁ、僕は僕で少しだけ考え直さないとね。
浅はかだった、レミィはカイリに対して強い敵対心を持っているんだ。それはカイリからレミィに対しても言える。自身の強さという点に関しては二人とも気にしている部分だったのに……はぁ、本当に僕って馬鹿だよなぁ。
俯いて申し訳なさそうにする二人を横目に先に憩の中に入る。甘ったるい、それが入ってすぐに思った感想だ。恐らく男女が甘ったるいパンケーキを一緒に摘みながら、甘ったるい愛の言葉をかけあって、甘ったるい雰囲気のまま、甘ったるいホテルへと直行するのだろう。
感染猛毒を使いかけたがギリギリ耐えた。
はぁ……Be cool、冷静になれ。こんな人達を殺したところで何の意味も無いじゃないか。それに今度は僕がミルファと一緒にここに来ればいいだけの事だろ。何をそんなに焦って苛立ちを覚える必要があるというんだ。
「いらっしゃいませ、四名様ですか」
「ええ、二対二です。ただ四人で仲良く遊んでいる途中なので、できれば個室で」
「ああ、了解しました」
できる限り、含みを持たせて伝えておく。
個室で何かをする、いやいや、そんなカラオケに来る高校生カップルじゃないんだからさ。アホみたいな事は当たり前だけどする気も無い。まぁ、ミルファがいたら話は変わっていたかもしれないけど。
「おー、すごく品数が多いね」
「砕けた言い方……どうかしたのですか」
「うーん、仮にも男女の関係がある二組だと思われているんだよ。それなら主従関係のような固い言い方はしない方がいいと思わない」
曲がりなりにも男女のカップル。
傍から見たら僕達ってそういう風に見られるわけだからね。それなのに女性に対して「我の言いたい事は察せられるだろう」とか言ってみろよ。亭主関白もいいところのヤバい男だろ。ただでさえ、孤高の賢者とかいう厨二プンプンの臭い二つ名があるのにさ。
いや、カッコイイと思うよ。
めちゃくちゃ、好きな二つ名ではあるんだけど孤高は好きでなったわけではないというか……むしろ、仲間が欲しくても作れない状況だったから独りぼっちになってしまっただけなんです。孤高というよりはボッチな賢者なんだよ。
「さすが主様です」
「はぁ……砕けた言い方の時も良い……!」
「カメラ買っておけば良かったな……」
うーん、三人ともなんか怖いんだけど。
ま、まぁ、嫌がられるよりは数倍マシか。さっきの話し方は普段の僕と殆ど一緒だからね。仮に普段通り接してしまっても嫌がられはしないって分かったんだ。先生の事を「お母さん」って間違えてしまうのと一緒だな。
「じゃあ、何を頼もうか。それらを摘みながら本題に入ろう。腹が減っては戦は出来ぬって言うからね」
「そ、それなら!」
「私は!」
「えーと、これで!」
うんうん、遠慮しない事は良い事だよ。
さてと、残り三十分しか無いから早く来て欲しいね。僕の場合は皆の二倍はご飯を食べないといけないわけだし……はぁ、イリーナが気合いを入れていない事を祈るよ。
なろうも凄い変わりましたね……なのに、個人的に望むものは実装してくれないという事実。まぁ、書いていて不備が無い時点で「なろう」の素晴らしさがよく分かるのですが……慣れれば楽になるんでしょうねぇ……。
前の「なろう」の方が好きなんて言ったら怒られますかね。それでも元カノの方が……くっ、天は我に七難八苦を与えたまうか……! ちょっと今カノ(カクヨム)に体を許すか悩み中です。