第27話 賢者、一足先に暗躍する
「ここが、ロレーヌの街ですか」
「ああ……とはいえ、我が知っている時に比べれば数段と発展しているがな。まぁ、ここなら三人とも多少の休暇には繋がるだろう」
「それって何年前の話なんですか。ロレーヌ領といえば第三の王都と呼ばれるような都市ですよ」
ふーん、そこまで発展していたのか。
レミィの疑問も当然だよな……少なくとも五十年は経っているんだ。それだけの年月が経っていて発展していない方がおかしい。王家の血筋でありながら伯爵に核落ちした理由は分からないが……能無しなのは確実にないだろう。だって、僕の有用性を一番に理解していた家系なんだし。
「奈落に篭もりすぎて忘れたな。時を教えてくれた阿呆もいつしか来なくなったから……少なくとも半世紀は経っているとしか言えない」
「あー、それなら仕方ないですね。半世紀もあれば有能な領主は街を大都市に変化させますから」
「それ程までにロレーヌ家は有能な領主だったという事だ。だからこそ、我も微かながらに助力したいと思っているのだよ」
というか、僕の才能を理解する人達が無能なわけが無いんだよな。勇者は……まぁ、アイツは理解していて追放した節があるから無視するとして、クーベル王国のクソ貴族共は僕の追放に肯定的だったからな。
「君達をここに連れて来た一番の理由がその家に関してだ。単刀直入に言おう、ロレーヌ家を守れ。あの家には我が懇意にしていた大切な存在達がいるのだからな」
「なるほど、よく理解しているからこそ、ここまでの繁栄は当然だと感じるのですね」
「……そうでなければ困るのだよ。あの家系は我を最初に世界最強たらしめる才能があると教えてくれた場所なのだ。だからこそ、我は我で手助けをしていたのだがな」
とはいえ、それもかなり昔の話だ。
あの一件以来、僕はロレーヌ家との関係を断絶していた。その時の公爵領主は僕にいてもいいと言ってくれていたさ。だけど、それではあの家に大きな迷惑がかかる事は目に見えていた。悪者は一人だけでいい、その罪を背負える人が背負えばそれでいいんだ。
でも……伯爵家になったのは僕の責任なのかもしれない。分からない事ではあるよ。だが……いや、そこを悩み続けていても意味が無いか。今はただ、あの時の恩を静かに返していくだけだ。
「それともう一つ、君達にはやってもらいたい事があってね」
「ええ、お任せ下さい」
「はは、ケール……その返答は嬉しいが話を聞いた上で返してくれ。立ち話もなんだ、良い店を知っているからそこで軽食でも取りながら話をしようではないか」
この日のために……というのは嘘だがミルファとデートをする時のために良い店はリサーチ済みだからな。バレディからのオススメとかも聞いているから時間があれば行きたいな。まぁ、予約もしていないから難しいだろうけど。
「と、その前に一つだけ皆に贈り物がある」
「贈り物!?」
「良い装備!」
「まさか、側仕えをさせて頂けただけでは済まずに贈り物までとは……忠義を」
「待て待て待て、そこまで大層なものでは無い。一先ず、そこの路地裏へと向かおう」
良い装備、と言われると少し違うんだよな。
贈り物として渡そうとしているのは今回の任務で確実に必要となるものなだけであって、ミルファとかに渡したような完全なステータスを底上げするための装備品とは違うものだ。まぁ、弱い装備かと聞かれれば首を横に振るけどさ。
「君達に渡すのは変化の時計と呼ばれる見た目を変えられる魔道具だ。既に変身用の体は作っておいたからな。この街で過ごす間は偽物の体で暮らしていて欲しい」
「……変化しかできないのですか」
「変化が主ではあるがステータスにも多少の補正がかかる。我にとっては多少だが……まぁ、市場に出せはしない程の強化がなされるだろう」
変化の時計のコアはブラッドマンティスと呼ばれるSSSランクのものだからな。僕であってもおいそれと手に入れられるものでは無かったし、今の僕でも量産する事はできないような高価値な代物となっている。
「あのさぁ……神から頂けた物に対して文句を言うのはどういう意味なの」
「変化以外にも効果があるかを聞くのは当たり前じゃないの。それ以外にも能力があるのなら活用するべきだし、戦力増強としても話を聞いた方が良いと思うけど」
「神から与えられただけで至高なのよ。能力なんて使って理解すればいいだけの事、その程度もできないなんて本当に怠惰なのね」
「怠惰で結構、貴方はそうやって手間を省き続ければいいじゃない。ただ私には押し付けようとしないでくれるかしら」
うーん、また喧嘩ですかい……。
なんというか、本当に仲が悪い二人なんだな。とはいえ、上位の強さを持つ二人だから一緒に組む可能性は低くは無いんだ。仲が悪いままでいられては困るんだよ。となれば……。
「どっちもどっちだな。一つだけ言わせて貰えるとすれば我は質問を多くして欲しいと思っているぞ」
「……それは何故でしょうか」
「配下が何に対して疑問を抱いているのか、それは読心術でも無ければ分からない話だ。であれば、配下の方から聞いてくれた方が楽でいい。手間という面で考えるのであれば後から起こるかもしれない危険性を回避できるのであれば、質問をしてもらった方がよっぽど効率的だな」
レミィは満面の笑みを浮かべて見せた。
だが、残念だったな。僕はどっちもどっちだと言ったんだ。レミィの行動の良かったところを挙げたまでで悪い点ももちろんある。というか、そこを指摘するために口にしたに過ぎない。
「とはいえ、レミィはレミィで怠惰なのも認めるべき話だろう。信用というのは大切なものだからな。どれだけレミィが正しい事を口にしていたとしても普段の行いが全てを決めかねない。そこは理解してもらおうか」
「むぅ……分かりましたよ」
「であれば、この話はここで終わりだ。何度も言うが我は二人を大切に思っている。お互いの事を知るために喧嘩はするべきだと思うが対立はするな。カイリにはカイリの考えが、レミィにはレミィの考えがある事を理解しろ。それだけだ」
二人とも大切だと言ったら両方が笑顔を浮かべ始めたよ。え、なに、それさえあれば他はどうでもいいの。……いや、レミィはレミィでカイリ並の高い忠誠心があるんだよなぁ。方向性が違うってだけで似たような狂気は間違いなくあるんだ。
「先に言わせてもらうが、この魔道具は我の最高傑作の中の一つといってもいい装備だ。それを君達に託す意味……言わずとも分かるだろう」
三人全員がゴクリと息を飲んだ。
まぁ、嘘では無いからな。仮によく分からん奴から欲しいと言われて大金を出されたとしても売れないような魔道具だ。この魔道具はあの世界最強の勇者の目すらも騙した実績もあるし……。
「では、装備したうえで魔力を流してくれ。そうすれば全員の姿が変わるはずだ」
三人が静かに首を縦に振った。
若干、訝しんでいるのか……まぁ、それならそれでいい。使ってみないと効果が分からない事だってあるよな。それに僕が口を酸っぱくする程に価値のある物だと知っていれば多少は興味だって湧いてしまうだろう。
「……成功したみたいだな」
「これは……」
「視線が高くなった……?」
「なるほどね……」
うんうん、狙い通りの姿に変化したな。カイリは子供っぽさの残る女子大生みたいな感じで、ケールは優しさが垣間見える美青年、レミィは大人っぽい美女だ。これらは僕が三人をイメージしながら作った仮の姿だからね。
「体を動かしてみて不自然なところは無いか」
「……特に無いです」
「視線が……少し慣れが必要ですね」
「胸……ちょっと重たいかも」
ああ……まぁ、その感想は当たり前か。
カイリだけ元の姿と大して変化は無いからな。胸は小さく身長も十センチ程度高くなっただけ。それに対してケールは百八十センチ近い身長に、レミィはEカップの百七十センチ程度の大人っぽい女性になっている。もとから成長期の割に少し大きめだったとしても重さの変化はかなりのもののはずだ。
「……カイリが羨ましいわ」
「ふん、本当に嫌味っぽい奴ね」
「今は喧嘩するなよ。その姿は任務の間だけの仮初の姿だからな。終わり次第、その体は消して新しいものを入れるから気にするだけ無駄だ」
実際、どっちも僕の好みを混ぜ込んで作り出したものだし。貧乳も巨乳もどちらも最高なんだよな。そこに対してあーだこーだと喧嘩をされても困ってしまう。
「変化も済んだところだ。少し休める場所にでも行こうでは無いか」
個人的に行ってみたかった場所でもあるからな。
もし良い場所だったら今度はミルファと一緒に来よう。微妙だった時は……まぁ、その時はその時って事で。




