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第6話 賢者、決意する

「———きて! 起きて!」

「あぁ……まだ朝早いよ……」

「起きて! お願い! アルフ!」


 強い揺さぶり……薄らと瞳を開けてみた。

 これはフィアナ……の顔かな……何で泣いているんだ。えっと……昨日は帝国騎士と戦って……その後は睡眠に入っただけで……何か変な事でもしたか。いや、それよりも先に……。


「……おはようございます」

「アルフ!? アルフゥゥゥ!」

「ぐあっ……痛いです! フィアナ母様!」


 え! この熱烈なハグは何なんですか!?

 最高……が、行き過ぎて痛いのですが! フィアナってここまで力が強かったっけ!? いや、僕のステータスの中でも物理面は確かに弱いけどさ! これじゃあ、大好きなフィアナの二つの凹凸を楽しめやしないではないか!


 はぁ……何を言っても聞いてくれ無さそうだしアルに視線を向けておくか。ここにいるのはアルとフィアナの二人だけ……まさか、本気を出してフィアナを退けるわけにもいかないからな。フィアナに暴力を振るうのも嫌だし、本当の力を見せるのだって嫌だ。


「そのような視線を向けても助けないぞ。アルフ、お前は皆を心配させ過ぎた」

「え……僕は普通に眠りに入っただけですよ。怒られるような事など何もしておりません!」

「五日間も眠り続けた奴が何を言う!」


 五日間……それ程までに長い時間を……。

 いや、そりゃあ、二人だって心配するよな。僕も大切な人が寝たきりになった時の苦しみは知っているからさ。この痛みも……そう考えると優しさの現れだと思おう。だからと言って骨が折れそうなくらい強く抱きしめるのはどうかと思うけど!


「……そうだったのですね」

「ああ、何度も起こしたが目を覚まさなかったからな。枯渇病にでもかかったかと全員が心配していたのだぞ」


 通称、枯渇病……正式名称は魔力負荷枯渇病だったか。勝手に魔力が消費される状態になって生きているのに死んでいるような植物状態に陥ってしまう病気だ。主に成長期の魔力制御が難しい幼い子供がかかりやすい病気で……治す手段も本来は無いはずだ。まぁ、僕は治し方を知っているけど。


 まぁ、五日間も眠りについた理由は検討がつく。

 恐らくは本気を出して戦った反動でしか無いだろう。……僕も焼きが回ったものだ。確かに強敵と出逢えた興奮感はあれど、撤退しようとすれば早い段階で帰れたはずだ。だけど、奥の手まで見せて戦ってしまった。


 はは……僕の悪い癖だよなぁ……。

 アレだけの敵に、今後も戦う可能性が高い相手に手の内を見せるなんて愚の骨頂だ。でも、それだけの手を見せたかいがあったとも思っている。それは言い訳としてでは決してない。


 少し前の僕には、いや、転生する前の賢者の時から誰にも負けないだけの自分の力には強い自負があった。……勇者を除けばと付けるが、それでも勇者にすら勝てる自信は確かにあったんだ。


 だが、今の僕でも勝てない可能性のある存在がいる。元の体で果たして、あの少女に勝てるだろうか。分からない事だらけの中で確実に倒せると言える手立ては無い。デリートとかいう力は未だに何も分からないからな。


 僕も……もっと成長できるだろうか。

 ステータスだけではなく、新しい技を生み出して敵を屠れる力を作れるかな。……ううん、いや、作らないといけないんだ。二度も味わった最悪な苦しみを次こそは僕の手で何とかできるように……そこまでできてこそ、ようやく本物の賢者となれる。


 孤高の賢者は死んだ。今の僕がなるべきなのは本物の賢者であり、それをネームレス・ヒュポクレティが担う。目の前にある大切に思えてしまった人達を守るためにも。ヴァン、フィアナ、イリーナ……一応、アルも。だから……。


「この通り問題ありませんよ。体を起こす事だってできます」

「それで心配しないわけがないでしょ! 今日はずっと私が見ているから!」

「いえ……あの……はい……」


 うん、どうせ、無駄だろう。

 フィアナがそこまで言うのだ。僕も今日は良い休日だと思ってワガママを聞いておこう。皆の前にいるとしても好きな事はできるからな。それこそ、別次元に置いてあるギンの修復に励んでもいい。一日でどうにかできるわけではないけど早く直せて困る事は何も無い。


 数日後、そこから僕の計画が動き出す。

 その時は……ギンなどという仮初の姿は使用しない。今の僕には削られた経験値すらも愛おしいんだ。全てを自分の力にするために戦わなくてはいけない状況で逃げの選択は取らない。


 今の僕は強くなっている実感があっても弱点は多く残っているんだ。物理面はもちろん、魔法に頼り過ぎる戦い方も必ず報いが来るだろう。それだけ魔法のメリットは多くあり、デメリットも多くある諸刃の剣に近いものなんだ。


 現に少女との戦いで魔法の弱点が多く現れてしまった。例えば速度での負けてしまえば魔法の特性上、即座に反応して放つ事ができない。もちろん、必ずしも放てないわけでは無いが威力が極端に落ちてしまうデメリットが痛過ぎる。


 それこそ、あの少女相手なら目眩しにすらなりはしなかっただろう。僕の奥の手である運命之采配であったり、感染猛毒を使用してようやく少し劣る程の強さがあるのであれば……ちゃちな魔法なんて自身の隙を晒す行為と変わらない。


 だから、今は物理面での強化が先決だろう。

 賢者の時でも強くなるために努力したが……あの時は成長に限界があったからな。途中で逃げてしまったが、もうそんな理由で甘えたりはしない。それで物理面での効率的な強化だけど……。


 魔法面での強化はイメージ能力を鍛える事が個人的には最善だと思っている。では、その対となる物理面はというと……ほとんど筋トレみたいなもので運動する事が一番の強化に繋がるからなぁ。


 だから、今の今まで強化できなかった部分でもあったわけだし。でも、これは間違いなく正しいと思っている。短い期間、筋トレをしただけの体でオークくらいなら力比べで負けずにいられる程は筋力がついたんだ。


 とはいえ、奈落までの道が整った今とっては幾らでもより効率的に強化できる方法はある。それこそ……安全策ばかりを考えていられる暇は無さそうだ。今の僕は王国の人間、表立って戦う事は無かろうと帝国の騎士とは相性が悪い。


 あそこにいたのも……恐らくは国境線上での敵国の監視だろう。もしかしたら、また彼女と会えるかもしれないな。その時はしっかりと本物の僕として倒してあげないといけない。


 次は……撤退するのはそちらの方だよ。

 奈落付近にいるマウス達を内部へと進行させる。中へ入れるのは消される可能性も含めて素早さが高いものだけでいい。数で言えば二十程、今の体で安心して戦えるのは三階層までが限度か。三階層までの簡単なマップを描いておくのは確実に必要だろうな。


 僕の目標は拠点を置いた十階層。

 そこに僕が作った最上級の魔道具達がある。まずはそれを手に入れてから……それが無ければ安全に帝国とは戦えないだろう。やるからには帝国相手だろうと殺すつもりでいく。当たり前の事だ、そして騎士も同じ事をしてくるだろう。


 戦いになればアルやヴァンは戦線へ出なければいけなくなる。もしかしたらフィアナも同じようになるかもな。その時にイリーナを守れるのは間違いなく僕だけ、もっと言えば今まで通りの日常を守るのなら村すらも……。


 ああ……楽しみになってきたじゃないか。






「アルフ! 似合っているわ!」

「やはり奥様の御子息! 女物の服すらも着こなすとは!」

「それなら次はこっちを着て!」

「えっと……はい」


 不満そうな目を向けても聞いてはくれない。

 そう、この僕だけのファッションショーがフィアナなりのお願いなのだ。……これを聞いていれば早くに自由な時間を手に入れられる。そうなれば奈落にだっていけるんだ。


 そのためなら多少の恥は我慢しよう。

 だから……早く気が済んでくれ……! この地獄を終わらせてくれ! さもなければ……お婿に行けなくなっちゃうよ……!


「きゃー! ドレスも似合うなんて最高よ!」

「次は趣向を変えてこちらはどうでしょうか!」

「いいわね! 色々な物を着せてみましょう! これもきっと似合うわ!」


 スケスケの服三連星……嫌だ……。

 助けて……誰か……たす……け……て……。

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