第52話 新しい先生は人気者
夜に2話投稿予定です!
夏休み明けのエディンバラ学園。
そこで私たちは衝撃の事実を聞かされた。
クローネ先生が、死んだ。
信じられないという気持ちが強い。
クローネ先生はおっとりとした話し方で、なにか悩みを感じている風には見えなかった。
ショックを受けていると教室の前の扉が開く。
入ってきたのは、見覚えのない男性の教師だった。
「こんにちは皆さん、クローネ先生の代わりにAクラスを担当することになったロッド・サイモンです。よろしくお願いします」
教卓に立ってそう言った先生は黒板に名前を書いていく。
ロッド・サイモン先生。この学園の先生は何人か知っているが、聞いたことのない先生だ。
新しく赴任してきた先生だろうか。
「得意魔法は全魔法です。一方で実技は得意ではありません。クローネ先生と同じく魔法の座学を全面的に担当する予定です。ちなみにここに赴任する前は国内の魔法師団で研究職をしていました」
すらすらと自己紹介をするロッド先生。
彼は眼鏡をかけた細目長身の男性だった。常にほほえみを絶やさない、接しやすいタイプのように思える。
そんな彼が、残念そうに首を下に向けた。
「……クローネ先生のことは残念に思います……しかし、私は彼女の分も熱心に皆さんに指導していきます。よろしくお願いします」
最後に深く頭を下げて、ロッド先生は自己紹介を終えた。
準備者の時のシール先生と同じく、私たちに寄り添ってくれる先生のように思えた。
しかし横を見ると、エヴァはじっと先生のことを見ていた。
後ろに視線を向けてみると、いつもは退屈そうな表情をしているルナも険しい表情で先生を見ている。
「さて、それでは授業の方を始めていきましょうか。とはいえ今日は集会もありましたので、深くはできませんね。どなたか、以前の授業ではどこをやったのか教えていただけますか?」
2人の様子が少し気になっていると、ロッド先生が授業を開始した。
生徒の一人が教科書のページを教えると、先生は頷いて教科書を確認した。
「なるほど、ウインドランスの魔法ですか。風の中級魔法ですね。では皆さん、いったん教科書は閉じてください。……閉じましたね?」
先生は私たちに教科書を閉じるように説明する。
私は言われたとおりにすると、先生は手をたたいた。
「さて皆さん、魔法を扱う上で最も大事なものは何ですか?自分の魔力の大きさ?その制御力?それとも魔法のイメージでしょうか?」
先生の言葉に少し考える。
私は、イメージが大事だと思っている。というよりもリフィル達からもそう習っているからだ。
けれど先生は首を横に振る。
「確かにこれらはとても大事でしょう。けれど一番大事ではない。最も大事なのは、その原理です。魔法はどうやってできているか。知っていても行うのは難しい」
先生はそこまで説明して右手を開いた。
「大事なのは原理を知ったうえでそれをイメージして、さらに実行することです。魔法は私たちの体内の魔力を使用して発動します。自分の奥底にある大きな海。そこからバケツで水を汲むイメージです」
先生の言うとおりに手を開いて、目をつぶってイメージをする。
「その水を手まで運んでくる。運んできた水はバケツから飛び出し、鋭利な刃物になります。崩れないで……その水は皆さんのイメージ。この世界は夢の世界です。水は、地面には落ちない」
言われたとおりに想像を膨らませる。
真っ白い水を、透明なバケツに入れて運ぶ。
その水が次第に浮かび上がる。
手のひらがざわつくのを感じる。
魔力を制御しながら、頭の中に刃のイメージを作り上げる。
私のテスタロッサ、マリアの刃を。
「素晴らしい!」
先生の言葉に私は目を開けた。
そこには風の刃が天井を向いていた。
いままでウインドランスは練習したことがあったけど、ここまで安定したのは初めてだ。
周りを見回してみると、教室内の全生徒が成功しているようだった。
「バーネット君、もっと気持ちを落ち着かせて!」
「ヤードさん、もう少し出力を上げてみよう!ただし、上げすぎないで!」
「アルスさん、それでは威力は高いものの、消費の魔力が大きくなりすぎてしまうよ!」
ロッド先生は教室内を回りながら生徒にアドバイスをしていく。
そのどれもが効果的で、アドバイスを受けた生徒はウインドランスのレベルをどんどん高めていく。
「素晴らしいねアルトリウス姉妹!妹さんは完璧、お姉さんは小さいながらもすごい密度だ!」
ある程度のアドバイスを終えたロッド先生は教卓に戻る。
その表情は心底楽しそうで、とても好感が持てた。
彼は手を叩き、教室中の注目を集める。
「みんな流石だ!よく勉強しているね!それじゃあ最後だ!魔法は作り出したらどうしたい?そりゃあ放ちたいはずさ。なら最後は、これしかない!」
先生はハイテンションで右手の人差し指を振る。
すると先生の目の前にたくさんのパネルが現れた。
私はその並びを見て、この教室の席の見取り図だと気づいた。
「この大きなパネルの一つ一つが君たちの席と対応している。遠慮はいらない。僕はこう見えても魔法に関してだけは自信がある。さあ遠慮なく打ち込んで威力を確認したまえ。こんな風にね!」
右手をパネル群の一番上、教卓のパネルに向けて魔法を放つ。
先生の放った魔法はパネルに激突し、大きな音を響かせた。
それに倣うように、たくさんの生徒が魔法をパネルに向けて放っていく。
私も自分の席のパネルに向けて魔法を放った。
ウインドランスは今まで聞いたことがないような大きな音を立てて、霧散した。
「エクセレント!いいね!」
ロッド先生はそう言って手を叩き、ニコニコとしながら口を素早く動かす。
「さて、もっとと言いたいところだけど今日はここらへんまでだよ。また明日、楽しい魔法の理論を学ぼう。それじゃあ皆、実技の授業へ行っておいで」
こうしてロッド先生の初回の授業は幕を閉じた。
教室中は大熱狂で、興奮冷めやらぬ様子だった。
私自身も、今までにないウインドランスの威力に舞い上がっていた。
だからこそ、エヴァ達の先生に向ける厳しい視線には気づかなかった。
ロッド先生の授業を終えて、私たちは実技の授業へと移動する。
更衣室で動きやすい服に着替えながら、エヴァに話しかけた。
「すごい分かりやすかったね。ロッド先生の授業」
「……そうだね。今までにないタイプの授業だったよ」
服を着替えながら、エヴァは答える。
どこか抑揚がないその返答は、彼女が何かを考えているときの癖だ。
「国内の研究機関と言っていましたね。おそらく魔法理論を研究する部署だと思います。そういった研究機関があると聞いたことがありますので」
着替え途中のロゼリアさまの言葉に彼女を無意識に見る。
17歳とは思えない彼女のプロポーションは見ていてこっちが恥ずかしくなってしまうくらいだ。
みずみずしい肌に白い下着がまぶしくて、思わずすぐに目を背けてしまった。
「でもウリアのウインドランス、すごい密度だったよ!あれ大きくなればかなりの威力なんじゃない?」
「う、うん。大きくするのが大変なんだけどね」
後ろから着替え終わったルナが抱き着いてくる。
そのまま彼女に服のジッパーを上げられてしまう。
一言ありがとうと礼を言って、私はロッカーのズボンに手をかけた。
「けれど、あのクローネ先生が自殺すると思いますか?どちらかというと自殺とは程遠い人のように思えるのですが」
「あぁ見せていただけで、実はいろんなことを考えている人だったとか?ムースもよく人は見かけによらないって言うじゃん」
「まあそれはそうですが、クローネ先生の場合は別というかなんというか……」
「……うーん、まあ言われてみればそうだよね。っていうかムース、早く着替えちゃいなよ」
「あ、失礼しました」
緑色の下着姿で考え込んでいた彼女は顔を真っ赤にして手を素早く動かして着替えを続ける。
私たちの友達は皆、深く考え込むと他がおろそかになってしまうようだ。
「まあ、考えたところで仕方がないんじゃないかな。クローネ先生は亡くなってしまったんだからさ」
ユウリィの言葉に私は頷く。
私たちはただの学生だ。事件を解決する騎士団でもないし、秘密を解明する探偵でもない。
クローネ先生のことを頭から追いやり、私はみんなと一緒に更衣室を出た。
◆ルート開放条件
・■■【■■】により、クローネ・マッシリアが死亡している
※原作ではルートが存在しません
読んでいただきありがとうございます!
「おもしろい!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、
ブックマークや、広告の下にある★★★★★を入れていただけますと嬉しいです!
執筆のモチベになります!




