第51話 あぁ、やっぱり君は【ミストSide】
時間が経てば経つほど、僕は焦っていく。
ミスト・ライヘンリッツは死ぬ。
洗脳魔法を解かない限り、それが運命だ。
けれど16歳になっても、僕は何の成果も得られていなかった。
魔法をどうかするどころか、洗脳魔法にかかっていることすら、周りに伝えられなかった。
何もしなかったわけではない。このミストフィアで闇の魔法に詳しい人物は3人いる。
ネクステス連合王国所属、ユエ・アルス・ザクセン。
エディンバラ皇国所属、クリス・ラプラス・ギリアン。
キルシュ国所属、ハンス・ナインズ・エーデルハイム。
これらのうち、ハンスに関してはキルシュ所属なので接触できない。
僕に魔法をかけたのは、キルシュの関係者だからだ。
(だからまずはエディンバラ学園で出会えるクリス教頭に接触した。去年の夏休みに、彼女と長い間顔を合わせた。けれど……)
クリス教頭は僕にかけられた魔法に気づかなかった。
闇の魔法に強いものなら、気づけるかもしれない。そんな淡い希望が消え去った。
(闇の魔法が高ければ洗脳魔法に抗える……それしか原作には書いてなかったじゃないか!)
ここにきて僕は致命的なミスに気付いた。
そもそも3人が洗脳魔法に気づけるなら、原作においても早い段階で判明しているはずだ。
にもかかわらず大惨事になるまで気づかれないなら、それはその魔法が発動するまで分からないからだろう。
つまり僕の死の運命は変わらないということになる。
この運命を変えるために、幼いころ、ウリアに近づいた。
彼女は友人として、とても素晴らしい女性だった。
そのやさしさに救われたこともある。
けれど、ウリアには僕の地獄を伝えられない。
(リフィルを救ったその力で、僕も助けて……)
なんどそう思ったか分からない。
けれどウリアは僕の地獄には気づかない。
それが辛くて、苦しくて、将来が不安で仕方がなかった。
いつか洗脳魔法が発動したとき、僕は死ぬ。
でもそのとき、僕はウリア達を殺そうとするだろう。
自分の意識がある状態で、大切な人を、自分が手にかける光景を見せられる。
それは想像を絶する地獄だろう。
(やだよ……もっとみんなと一緒にいたいよ……)
最後の望みをかけて、夏休みにルナの別荘に行くことをお願いした。
目的はルナの母親であるユエだ。
けれど、僕は半ばあきらめていた。
攻略サイトを編集していたから知っているが、ユエの闇の魔法の練度はクリス教頭と同じくらいだ。
クリス教頭に分からないなら、彼女にだって分かりっこない。
いや、もう僕の地獄を分かってくれる人はいないのかもしれない。
そう諦めかけた。
「ミストさんは……技師よね?闇の魔法が得意とかではなく?」
だから、ユエからそう言われたとき、何を言われているのかすぐに理解できなかった。
その意味を頭の中で反復させて、喜びが体を満たした。
ユエが神様に見えた。
「恐ろしいくらい精度の高い魔法です。私くらいの闇の魔法の適正でギリギリ見えるくらい。もしも早く会っていたら、見落としていたでしょう……秘匿魔法の方はずっと機能していますね。それこそ15年は経っているでしょう」
けれど、話を聞けば聞くほど不思議な気持ちになる。
早く会っていたら、見落としていた?それではまるで魔法が弱まったみたいだ。
けれどそんな描写は原作にはなかった。
「いえ……その……実は、どちらの魔法もかなり弱まっています。魔法の劣化具合が激しいので、放置していても消えるとは思います。ただ……なぜ弱まっているのかが分からなくてですね。ミストさん、なにか特別なことをしたりしましたか?」
「僕は……テスタロッサを調整していた……だけだから……」
(あぁ……そういう……ことだったんだ)
僕は同じテーブルに腰かけているウリアを見る。
他のキルシュ国民がやっていなくて、僕だけがやっていること。
原作のミストがやってなくて、僕がやっていること。
(ウリアのテスタロッサが……ウリアが助けてくれたんだ)
ウリアは主人公だ。だからこそ特別な力を持っている。
原作で洗脳魔法を解いたのは、全部で2つ。そのうちの一つはウリアの力だった。
そのことは飛び上がるほど嬉しい。
けれど。
「これ以上は考えても無理そうですね。とりあえず今の段階では手の打ちようがありません。……食事に戻りますか」
ユエの言葉に僕は顔をしかめた。
だめだ。それじゃあ間に合わない。洗脳魔法が発動するまでもう3年もない。
これじゃあ根本的な問題は解決していない。
その後の食事でも、他愛ない話でも、僕はずっと考えていた。
(どうすればいい?どうすればこの魔法を解ける?発動したときに、ウリアが解除してくれる?でも、そんな不確定なことなんて……)
考えて考えて、でも答えは出なくて、その精神状態は夜まで続いた。
けれど、寝れるわけもなく僕は寝返りを打つ。
死にたくはない。そんなの当り前だ。でもそれ以上にウリア達と敵対したくなかった。
そのくらい、僕は今の居場所を気に入っていた。
ふとそのとき、僕は感じた。
体から何かが消える感覚。重苦しいなにかから解き放たれる感覚。
慌てて上体を起こす。
僕には闇の魔法の適正なんてない。だから、分からない。分からないけど。
(き……えた?)
確信がある。洗脳魔法が消えたと、分かる。
視線をウリアに向ける。このタイミングで、洗脳魔法が消える。
こんなことができるのは、一人しかいない。
僕はベッドから出て、ウリアに近づく。
彼女はすでに寝てしまって、横向きに寝顔をさらしている。
(あぁ……やっぱり君は……僕の主人公なんだね)
ずっとプレイしていた。隅々まで知っている。
そのステータスも、性格も、容姿も、隠された能力も。
けれど数字で見れるもの以上に、ウリアは僕の主人公だった。
その手を片方だけ取って、両手で包み込む。
言葉には出さない。彼女が起きてしまうかもしれないから。
ただ心の中で感謝をして、涙を流しながらその手に縋りついた。
(ありがとう……ありがとうウリア……君のおかげで、僕は……【深淵】の魔法から解放されたよ)
この時、僕はようやく地獄から抜け出せたのだ。
「……いったい何が起きたのか分かりませんが、完全に消えています。秘匿魔法も、洗脳魔法も……ど、どういうことですか?」
次の日、ユエに確認してもらい、洗脳魔法が消えたことを確認してもらった。
ユエは戸惑っていたが、ウリア達は大喜びだ。
「消えたならいいこと!やったねミスト!」
「ルナ、これはとても珍しいケースですよ。それこそ学会などに提出するような――」
「でもミストの魔法は消えたんだよね?それを実証するのは難しくない?」
「そ、それはそうだけど……」
ユエの提案もルナが代わりに突っぱねてくれた。
思わず彼女を見ると、ルナは私にウインクをしていた。
彼女も転生者なのだから、私の事情も知っているだろう。
「さて、とりあえず私たちは自由に過ごしますか。ミストさんはユエさんのテスタロッサの観察ですか?」
「うん……ユエさん……お願い」
「え?ま、まあ構いませんが……」
ムースも話題を変えてくれる。
けれどそれ以上に微笑んでいるウリアが居ることが幸せだった。
その後ろに立つリフィルは無表情だが。
まさかと思うけど、昨日の夜のやつ、見られてた?
「これが私のテスタロッサ、新月です」
「すごい!カタストロフ級じゃないか!!素晴らしいよ!この力、このフォルム……愛人として囲いたい!!」
「…………」
「お母様、あれいつものことだから気にしないでね」
言葉を失うユエを横目に、僕は新月を観察する。
もう不安も何もない。思う存分テスタロッサを観察できるし、ずっとウリア達と一緒に居れる。
この時、僕は人生で一番の幸せを感じていた。
それは夏休みが終わっても続いた。
この先、いろんなことがあるだろう。
けれど、みんなと一緒なら乗り越えられると、そう思っていた。
夏休み明けのエディンバラ学園、大講堂に集められた僕たち生徒一同は。
「皆さんに伝えないといけないことがあります。A組の担任であるクローネ先生が自ら命を絶ちました。悲しいですが、彼女の冥福を祈りましょう」
ベリアル学園長の言葉に冷や水を浴びせられたような気持ちになった。
◆ルート開放条件
・ミストの洗脳魔法を学園卒業前に解除する
※原作ではルートが存在しません




