第22話 サポートキャラ、ユウリィ【エヴァSide】
「いきなり声かけてごめんね。僕はユウリィ・フェンデ。一応クラスメイトなんだけれど、覚えているかな?」
「……何の用?」
エディンバラ学園の準備舎。
午前中に相変わらず実力至上主義の貴族の子供たちとやり取りをしたその日だった。
午前中に発したときよりも低い声で、私は目の前の少女に言い放った。
「そんなに睨まないでよ。僕はこの準備舎で頑張りたいんだ。恥ずかしい話だけど、僕も適性がそこまで高くはないんだよ。でも僕以上に適正に恵まれていないのに頑張っている人がいる。僕はそんなウリアくんと一緒に成長したいんだ。ダメかな?ウリアくん」
問題の少女、ユウリィ・フェンデはお姉様だけを見てそう言った。
その目には私たちの姿は映っていないようにさえ見える。
彼女は原作エヴァラスにおける、サポートキャラだ。
学園編では各攻略対象の情報をくれたり、成長に役立つアイテムをくれる。
彼女はその後、卒業後編でウリアと同じ魔法小隊のメンバーになる。
この卒業後編はRPGパートになる。ストーリーはあるものの、戦闘がメインだ。
そしてパーティメンバーは4人で、ユウリィは固定となっている。
つまり原作で、ユウリィとは最後まで付き合うことになる。
彼女はRPGパートでも大活躍だ。他のキャラが持っていない個性を、彼女は持っている。
ユウリィは頼れるキャラだと、そう思えるだろう。
しかしゲームを深くプレイすればするほど、ユウリィ・フェンデはプレイヤーを悩ませる。
エヴァラスはクソゲーであり、鬱ゲーだ。
鬱ゲーの原因を担っているのが、ユウリィなのである。
(けど……条件はそもそも破綻している。むしろ仲間に引き入れた方がいい?でも、準備舎だと早すぎる気も……)
原作でユウリィが鬱ゲーの原因となるのは、ウリアを「始めて」必要とした人だからだ。
この世界では、お姉様を最初に必要としたのは、もちろん私達。
だからこそ、原作の流れになることはない。
けれど、とはいえ安心しきっていいわけではない。
この世界はすぐに流れが変わる。原作にない流れで、ユウリィがお姉様にとって害になることもあるだろう。
ユウリィが転生者なら問題ないのだが、そうでないのなら扱いが難しい。
近くにおいて監視した方が良いか。
それとも遠ざけた方が良いか。
かなりの悩みどころだ。
「申し訳ありませんが、私たちは先ほどクラスメイトにあのような態度を取ったばかりです。そんなすぐにあなたを引き入れるわけには――」
「僕はどちらかというと、ウリアくんに決めてほしいんだ。ウリアくんが嫌なら僕は身を引く。それに、ウリアくんがOKでも、他の人が微妙と思うなら、それでも身を引こう。ウリアくんがOKをしてくれたということがそもそも嬉しいからね」
それを分かっているからこそ、ロゼリアも一度は断ろうとしたのだろう。
おそらくよく考えたうえで、後から仲間に引き入れるつもりか。
しかしユウリィは私たちなど眼中にないかのように、お姉様だけを見続けている。
効果はないかもしれないけれど、とりあえずお姉様に断らせるためにも、他のメンバーに意見を言わせたいところ。
「……構わない」
「私はちょっとなぁ……ウリアがいいなら別にいいけど」
「私としては、そういった理由があるならいいと思います」
……は?
私は耳を疑った。ルナの言い方は分かる。
考えていることは私やロゼリアと同じだろう。その上でお姉様を敬愛しているから、判断をお姉様に委ねている。
ミストに関してはユウリィを受け入れる理由もなんとなく読み取れる。
彼女は作中でもっとも悲惨な死を迎えるからだ。
それを回避するには強い闇の魔法か、お姉様が必要だ。
けれどその可能性をユウリィにも見出しているのだろう。
だが、ムースは分からない。
彼女が転生者なのは性格や口調から間違いない。
けれど、ムースはミストと違ってユウリィに期待する必要がない。
仮に受け入れるとしても、少しは悩むそぶりを見せるはずだ。
けれどムースの表情を見ると、歓迎しているようにさえ思える。
深いところまで、考えていない?
ムースがなぜユウリィの加入に全面的に賛成なのかは分からない。
だが、まずいことになった。
「ウリアくん、どうかな?」
私たちの視線がお姉様に集まる。
ユウリィを仲間に入れるかどうかは、お姉様に一任されてしまった。
そして原作での設定を考えるなら、お姉様はおそらく受け入れてしまう。
これは、しっかりとユウリィを見張る必要があるかもしれない。
それにムースについても少し気がかりだ。
そんなことを考えたとき。
「ごめんなさい」
お姉様が頭を下げて断った。
私も他の皆も、目を丸くしている。
ユウリィも言葉が出ないようだった。目を丸くしてお姉様を見つめている。
「そ、そうか。ごめんね無理言って」
そう言ってユウリィは気まずそうに去って行った。
流石に断られるとは思っていなかったのだろう。
私もお姉様が断るとは思っていなかった。
「お姉様、良かったの?やる気もあったみたいだけど」
思わず私はそんなことを聞いてしまっていた。
お姉様は私を見て、不思議そうに首を傾げた。
「エヴァ、反対じゃないの?」
「そ、そうだけど、お姉様は賛成するかなと思っていたから」
「あぁ……うーん、なんだろう。いろいろ理由はあるんだけど、私の事ばかりでエヴァたちの事を見てなかったからかなぁ」
原作で、主人公のウリアとユウリィは必ず親友になる。
それはゲームで決まっていることだ。
でもお姉様は自分の意志でユウリィを拒絶した。
ゲームではお姉様の周りには誰もいない。
けれど今は私たちが居る。その違いが、原作とは違う流れを生んだのだろう。
嬉しくはあるけれど、もうこの世界が原作とは違う流れになっている事を改めて知らされた。
だんだんと原作の知識が通用しなくなる気がして、少し不安になった。
(ユウリィが仲間にならない……かぁ……)
小さくなっていく彼女の背中を見ながら、私は考える。
逃した魚は大きすぎるように思えた。
仲間は少しでも多い方がいいけれど、今回ばかりは仕方がない。
攻略対象はストーリー的には居なくても問題がない。
けれど、ユウリィは貢献の度合いが違う。
彼女の抜けた穴を、私達で埋めなければならない。
私たちは14歳。時間はもう5年しかない。
今でもロゼリア達と訓練はしている。けれど、もっと力を手に入れるには。
私は脳裏に一組の男女を思い浮かべる。
まずは彼らに認めてもらうことから始めなくてはならない。
ポケットに手を入れて、その中にある便せんの感触を確かめながら、私は決意した。




