第21話 適性の低いものたち
準備舎に入学して、私は充実した日々を送っていた。
午前中は授業に集中し、午後はエヴァ達と一緒に訓練をする。
その中にルナやムースさんが加わって、大変だけれども楽しい日々を送っていた。
それに変化が起きたのは、しばらく経ってからだった。
「ローズ様、私達も訓練に入れてください」
「どうか自分達もお願いします!」
「私達にも、ぜひともご指導を!」
ロゼリアさまの席に周りに集まる生徒たち。
私たちが放課後に訓練をしていることを知り、それに参加したいのだという。
「ごめんなさい。今はこれ以上人を増やすつもりはないんです」
「そんな!?特定の日だけでも良いので!」
「そういった問題ではなく……」
ロゼリアさまはあまり乗り気じゃないみたいだ。
やがて教室の扉が開き、職員室に用事で出かけていたエヴァが帰ってくる。
エヴァは囲まれているロゼリアさまを見ると、顔をしかめた。
「何をしているの?」
「……エ、エヴァ様には関係ありません」
「私達の訓練に参加したいそうですよ」
ロゼリアさまの言葉に、エヴァは鼻で笑う。
「おかしいこと言わないでよ。ロゼリア様の訓練には私も参加しているの。関係ないわけないでしょ」
「…………」
「なに?図星だから黙るの?ロゼリア様なら親切だし、優しいから行けると思った?悪いけど、あなたたちに使う時間なんてない」
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない!」
叫ぶ令嬢を一目見て、エヴァは睨み付ける。
「出来の悪い姉をもって大変ですね」
「っ!」
「ありがたい忠告は、一言一句違えることなく覚えているけど?」
睨み付けた令嬢の顔が、真っ青になる。
エヴァを支援するように、ロゼリアさまも低い声を出した。
「この場にいる誰がそういった言葉を吐いたのか。私も覚えています」
「……私達は、エヴァ様を思って……」
「どこがよ。お前たちがお姉様を受け入れられないだけでしょう」
歴代最低の適正値。それが私の適性。
高い適性を持つ貴族の子供たちにとって、私は紛れ込んだ異物なのだろう。
「分かっているの?私達と訓練するってことは、お姉様も一緒なんだけど」
「……エディンバラ皇国は実力至上主義のはずです」
「確かにその通りです。とはいえ、それは人の心まで決めるものではないですよ」
ロゼリアさまの低すぎる声に、子供たちはうつむく。
「……優秀な人間は……優秀な人間と付き合うべきです」
「なら……君達は優秀じゃない」
寝ていると思っていたミストが顔だけを向けて子供たちに告げる。
今まで聞いたことのない低い声に、彼女が怒っていることがよく分かった。
「…………」
「あんた達はあんた達で一緒に居なさいよ。私たちはお姉様と一緒に居る。お前達には関わらない。だから、お前達も関わるな」
「それがいいですね。相容れないのに、無理に付き合う必要はありません。私も、自分が優秀だと思い込んでいる人には付き合いきれませんので」
ロゼリアさまの言葉に、教室中が言葉を失う。
家の階級だけなら、アルトリウス家と同じか、それよりも高い家出身の令嬢、令息もいる。
エヴァだけならば、いくらでも言いようはあっただろう。
けれど、この国トップのロゼリアさまの言葉には逆らえない。
エディンバラ学園は確かに身分を重視しない。
けれどそれは教育の話であり、個人の心情までは変えられない。
言い合いをしていた数人の生徒は、悔しそうに顔を歪めて私たちから距離を取った。
けれど振り向き際に私をすごい目でにらんでいて、少し怖くなってしまった。
「ウリアさん、ちょっといいかい?」
その日の放課後、私は後ろから急に話しかけられた。
振り返ると、知らない生徒が立っていた。クラスメイトだったとは思うが、面識はない。
短めの黒い髪に、黒い瞳が私を捉えている。
黒髪黒目は、この世界で初めて見る。日本ではよく見たのだが。
「いきなり声かけてごめんね。僕はユウリィ・フェンデ。一応クラスメイトなんだけど、覚えているかな?」
「……何の用?」
私の前にエヴァが出て返事をする。こんな風に行動するエヴァは久しぶりだ。
とはいえ、ユウリィさんと面識はないはずだが。
「そんなに睨まないでよ。僕はこの準備舎で頑張りたいんだ。恥ずかしい話だけど、僕も適性がそこまで高くはないんだよ。でも僕以上に適正に恵まれていないのに頑張っている人がいる。僕はそんなウリアくんと一緒に成長したいんだ。ダメかな?ウリアくん」
ユウリィさんはまっすぐな目で私を見つめてくる。
その目には純粋な好意や尊敬が見て取れた。
けれどその一方で、その目には私しか映していないように見えた。
「申し訳ありませんが、私たちは先ほどクラスメイトにあのような態度を取ったばかりです。そんなすぐにあなたを引き入れるわけには――」
「僕はどちらかというと、ウリアくんに決めてほしいんだ。ウリアくんが嫌なら僕は身を引く。それに、ウリアくんがOKでも、他の人が微妙と思うなら、それでも身を引こう。ウリアくんがOKをしてくれたということがそもそも嬉しいからね」
私の中に不思議な気持ちが目覚める。
ユウリィさんを引き入れてもいい、そんな気持ちが。
でもそれはそう思わされているような、そんな不思議な気持ちだった。
「……構わない」
「私はちょっとなぁ……ウリアがいいなら別にいいけど」
「私としてはそういった理由があるならいいと思います」
ミスト、ムースさんは賛成派、ルナは私に任せる感じだった。
これだけ人数がいれば、意見も分かれるだろう。
「ウリアくん、どうかな?」
ユウリィさんが私だけを見て聞いてくる。
私と同じ境遇の人。低い適性に悩んでいる人。
この人といっしょなら、私はもっと成長できるだろう。
「……ごめんなさい」
彼女に向かって、私は頭を下げた。
なぜだか分からないけれど、私はユウリィさんをなんの理屈もなしに好んでいる。
それが気持ち悪く感じ、私は思わず断りを入れていた。




