第20話 月狼族の長の娘とエルフのお姫さま
教室で友達になったルナに
「ルナって……ルナって呼んでください!」
と強く言われ、お互いに敬語を使わないことを条件にそれを受け入れた。
私の左にはルナがとても嬉しそうに歩いていて、尻尾がぶんぶんと振られている。
モフモフしていて、とても可愛い。
「……ルナはネクステスの月狼族?」
かなり不機嫌そうなエヴァがルナに質問をする。
教室のときも不機嫌だったが、今はさらに機嫌が悪い。
「うんそうだよ。月狼族らしく格闘にも自信があるけど、魔法も得意なんだ。学園では第1寮に入るつもり」
「……そう」
今ので、ますますエヴァの機嫌が悪くなった気がする。
そんな私たちは6人で行動を共にしていた。
「ありがとうございます。私も入れて頂いて」
「あ、全然大丈夫ですよ」
少し前に出てペコリと頭を下げた金髪の少女に、私は返事をする。
リフィルさんと同じエルフで、淡い緑の目を持つ優しげな雰囲気の、しかし芯の強さを感じるのは、ムース・ユグドラシルさんだ。
教室で準備舎を回ってみようと決めた私たち。
そこに入れてほしいと言ってきたのが彼女だった。
ムースさんはユグドラシル国のお姫様らしい。
つまりロゼリアさまと同じ、国でもっとも身分の高い人、ということだ。
けれど彼女はかしこまられるのが嫌いみたいで、ムースさん、と呼んでほしいとのことだった。
王族とか皇族の人は、皆こんな穏やかで優しい人が多いのだろうか?
よくよく考えてみると、ロゼリアさまの弟であるアークさまも穏やかな人だった。
「ムースさんは、魔法が得意なんですか?」
「はい。私はエルフなので風や地、水といった属性が得意なんです。これらの属性ならばローズ様にだって負けませんよ」
「まあ、これは私も研鑽を積まなくてはなりませんね。それに皆さんと同じで、ロゼリアで良いですよ」
ロゼリアさまとムースさんが他愛のない会話をする。
ロゼリアさま、あんなに強いのにまだまだ努力するなんてすごい。
私たち6人は他愛のない話をしながら、いろんな部屋を回る。
医務室や、ロゼリアさまが演説した大講堂、職員室など大まかな場所を覚えた。
その後、訓練場を訪れる。
準備舎の訓練場は学園のそれと比べると小さいらしい。
けれど設備としては十分な広さだ。
「ここで実技試験やチーム戦をするんですね」
「学園の先輩と戦えるなんて、すごい経験ですよね」
ロゼリアさまの言葉に、私は食い気味に返す。
まだまだ先だが、私の頭の中はそのことでいっぱいだった。
もちろん、毎日の授業も楽しみだが。
「お姉様、その日のために頑張ろうね」
「私も力を貸しますよ。ウリアさん」
「……マリアは任せて」
エヴァ、ロゼリアさま、ミストが温かい言葉をくれる。
その言葉に、私は大きく頷いた。
「ウリア、皆と一緒に訓練してるの?」
「うん。エヴァやロゼリアさまたちと一緒に訓練してるんだ」
「え?私も!私もそれに入れて!格闘や闇の魔法なら強いよ!」
闇の魔法という言葉に私は驚く。
魔法は無属性を除くと全部で6つある。
その中で、地水火風は強弱関係がある。
水は火に、風は水に、地は風に、火は地に強い。
火←水←風←地←火と1周回っているのだ。
一方で、闇は光に強く、闇はどれに対しても弱くない。
つまり、闇は弱点がない唯一の属性だ。
けれどその分習得は難しく、エディンバラ皇国内でも使える人は限られるという。
特別な才能を持つルナが、とても羨ましく感じた。
「あの……その訓練に私も参加してもいいですか?私も魔法は得意ですし、ロゼリア様達と訓練ができるのはまたとない機会だと思うんです。もちろんウリアさんの邪魔はしません」
「……私はどっちでもいいよ、お姉様」
「……そうですね。私も構いません」
ムースさんの言葉に、エヴァとロゼリアさまが判断を私に委ねた。
ミストも賛成のようで、眠たげな瞳で私を見た後に頷いてくれた。
「ルナ、ムースさん、よろしくお願いします!」
「やったぁー!」
「ありがとうござます」
「ふふっ、ルナ喜び過ぎだよ」
手を上げて喜ぶルナが可愛くて、思わずエヴァにやるみたいに頭を撫でてしまった。
手にルナの耳のモフモフが伝わる。あ、これすごい気持ちいい
「う、ううう、ウリア!?」
ルナは顔を真っ赤にして目をぐるぐる回している。
次の瞬間、手首を掴まれ、下げさせられた。それをしたエヴァはむすーっとした顔で横を向いている。
その様子がほほえましくて、私はエヴァの頭を撫でた。
まんざらでもなさそうに撫でられていたエヴァは、やがて我に返ると私の手を取って辞めさせた。
「つ、次の部屋行こう!」
そういって歩き出すエヴァに、苦笑いをしながら私はついていった。
「素晴らしい!準備舎とはいえこれだけの設備!学園に行けばどれだけのものが……あぁ、ここでマリアを調整する日が待ち遠しいよ!!」
「……誰、あれ?」
「……み、ミストさん?」
テスタロッサ技術室にやってきた私たちは、部屋に入った瞬間にスイッチが切り替わったミストに圧倒されていた。
私たちは慣れているけれど、今日初対面のルナとムースさんは驚いている。
「気にしないであげて。ミストはテスタロッサバカだから」
「む?バカとは失礼だね!僕はただテスタロッサを愛しているだけさ!」
「ま、まるで別人だけど……」
呟いたルナをばっと見て、ミストは彼女の手を取る。
「ルナ君!どうだい?君のテスタロッサ、僕に預けてみないかい?」
「え?いいの!?ぜひともお願い!」
ミストの名前は他国にも知られているようで、ルナは二つ返事でOKした。
そのままミストはムースさんにも顔を向ける。
「ムース君もどうかな!?」
「……ごめんなさい、私は侍女が専用の技師を兼ねているので……」
「そうか……それは残念だ」
がっくりと肩を落とすミスト。
その様子を見て、ルナがムースさんに話しかける。
「良いんですか?歴代最年少で高位技師資格を取得した天才ですよ?」
「私に対して敬語は不要ですよ。ルナさんも、皆さんも。私は癖ですが」
「無理ですよムースさん。私も8歳の頃から言っていますが、ウリアさんもエヴァさんも変わらないので」
ロゼリアさまが敬語なのに、私たちだけ敬語を外すなんて出来ない。
たまにエヴァは外れているときがあるけど。
ムースさんに対しても多分無理だろうなと、我ながら思う。
話を聞いていたミストは、流れを戻すように大きな声を上げた。
「んー、話が変な方向に行っているけど、テスタロッサは専属の技師が近くにいる場合は他の人に任せない方がいいんだよ!専属の人が混乱しちゃうからね!」
「あ、そうなんだ。でもそれなら私のは国の高位技師さんに前に調節してもらったけど……」
ルナはネクステス王国のアルス家出身。
アルス家は貴族なので、当然お抱えの専属技師もいるだろう。
しかし、ミストはそれでも平気だと告げる。
「ムース君みたいに専属技師がすぐそばにいないなら大丈夫だよ。ただ、これから先僕以外の調整が受けられなくなっても知らないよ?」
「すごい自信!!」
「ははは!僕はテスタロッサに関しては誰にも負ける気がしないからね!」
どんどん調子に乗るミストと、どんどん目を輝かせるルナ。
その2人のやり取りに、エヴァは頭を押さえていた。
「本当にテスタロッサに関しては右に出る者はいないから厄介なんですよね」
ロゼリアさまも苦笑いだ。
ムースさんも微笑んでいる。
ルナ、ムースさん、さっそく2人の友達が出来て、私はホクホクだった。




