リスリス、ザラの実家へ行く! その十三
店員さんが筒状の魔法瓶を三つもってきてくれる。ザラさんが注文していたものらしい。
「ザラさん、これは?」
「レインディアの肉団子のシチューよ」
魔石が仕込まれた魔法瓶は、料理を常にアツアツの状態で保ってくれる優れものなのだ。
アルブムは喜んで受け取っていたが、私は食べたばかりなのに、と思ってしまう。
ザラさんの村まで、レインディアのソリに乗って三時間ほどだと話していた。次の食事を心配するほどの時間はかからない。
「ザラさん、それはなんなのですか?」
「行動食よ」
「あ!」
ここで、思い出す。
寒い場所は、体が体温を維持するために、何もせずとも力を消費してしまうのだ。
極寒の中、何も食べずに過ごした結果、凍死してしまうことは大いにあり得る。
こまめに栄養補給することが、何より重要になるのだ。
「遠征のときも、メルちゃんは行動食を用意してくれたわね」
「そうでしたね」
乾燥果物たっぷりのクッキーに、蜂蜜のキャラメル、ナッツ入りのチョコレートなど。
寒い場所でも凍らない行動食をいろいろ用意していた。
「すみません、観光気分でいたので、すっかり忘れていました」
「大丈夫よ。今回は私が、いろいろ用意していたから」
ちなみに、行動食は売店でも売っているらしい。行き先によって、どれだけの行動食が必要かも、相談にのってくれるようだ。
「でも、売店は観光客料金だから、高いのよね」
「なるほど」
ザラさんは可愛らしい手作りポーチに入った行動食のセットを、渡してくれた。
私のは、アメリアの顔が刺繍されたものだった。
「わー、可愛い! もしかして、アメリアの刺繍はザラさんのお手製ですか?」
「ええ。幻獣保護局の使用人がものすごい顔で見ていたから、作るのが大変だったわ」
「これ、見たら欲しくなったのでしょうね」
自宅の使用人は全員、幻獣保護局の人達だ。一見して普通の人達だけれど、幻獣が絡んだら目つきがぎらつくのが特徴だろう。
アルブムの分のポーチは、骨付き肉が刺繍してある。アルブムは目を輝かせながら、ザラさんに『アリガトー!』と感謝の気持ちを伝えていた。
中には、手作りのスノークッキーに焼きチョコレート、乾燥果物入りのビスケットなどが入っている。どれもおいしそうだ。
「この辺りでは、どれくらいの間隔で行動食を食べるのですか?」
以前、任務で行った雪山では、一時間に一回は軽食を食べていた。ここはそこよりも寒いだろう。
「歩いているのならば、二十分くらいに一回は必要ね。私達はレインディアの引くソリに乗るから、四十分に一回くらいでいいかしら」
「なるほど、了解です」
アルブムはさっそく、ザラさん特製のスノークッキーを食べていた。
なんだか、この旅行中だけでアルブムの体形がぽよんぽよんになった気がするが……。
雪国減量をしたほうがいいのでは? と思ってしまう。
そんなことはさて措いて。
ザラさんの実家目指して、出発だ!
レインディアのソリ乗り場は、街の出口のほうにあった。
ザラさんが予約していたので、ソリを繋げた状態で待っている。
「あれが、レインディアですか!」
想像していたよりも、二回りほど大きかった。
見た目は鹿に近い。二本の角を生やしていて、目はくりっとしていて可愛い。最大の特徴は、もっふもふの毛並みだろう。
ソリは剥き出しの身で乗るものだと思っていたが、馬車みたいに個室だった。
魔法の技術で作られた、箱状のガラスに座席が取り付けられている。
中から手綱を握り、レインディアを操縦するらしい。
「御者がいらない場合は、半額以下の値段で乗れるのよ」
「そうなのですね」
今回は、ザラさんが村まで操縦してくれるようだ。
さっそく、中に乗り込む。
「わっ、温かい」
中には魔石暖房が備え付けられていた。
「あら、魔石暖房が取り付けられるようになったのね。私が王都に行ったときは、なかったのよ。一応個室だったけれど、寒くて寒くて」
「大変だったのですね」
「ええ。よかったわ。メルちゃんを寒い中付き合わせるのは悪いから。行動食は、いらなかったわね」
「そんなことないですよ。旅のおやつは、なんだかワクワクしますので」
「別腹ってことね」
「ええ」
座席の隙間に差し込んでいたニクスが、小さな声で『あと少しで粉雪だねん』と呟いていた。よほど、楽しみらしい。アルブムは『粉雪ニ、樹液シロップカケテ、食ベヨ』などと発言していた。
やはり、ザラさんの村に到着したら、アルブムを減量させなければ。
決意を新たに、レインディアのソリは出発する。




