最終決戦! その十三
いったい、どのようなチーム分けをするのだろうか。
私とアルブムは食材探しチームであることは確実だけれど。
ウルガスは手と手を合わせ、ガルさんやベルリー副隊長、ザラさんや私と一緒がいいですと祈っていた。
隊長はジロリと睨むように各々を見たあと、発表した。
食材探しは――隊長、ベルリー副隊長、ザラさん、ガルさん、ウルガス、リーゼロッテとアルブム、私、アメリアとステラ、エスメラルダ、スラちゃん、それからニクスに決まった。
きちんと幻獣や妖精、精霊の名前まで呼んでくれる隊長の優しさよ。
一方、シエル様の捜索は、リオンさん、リヒテンベルガー侯爵、ミル、ランス。
戦力を均等にした結果らしい。
リオンさん一人で、いち小隊以上の戦力があるという。リヒテンベルガー侯爵はシエル様に何かあったときのために、付けておくようだ。ランスは森に慣れているので、案内人というわけである。
ウルガスは慣れていない人達のチームでないとわかり、明らかにホッとした様子を見せていた。
「珍しいわね。こういうのでメルちゃんと一緒になることは、ほぼなかったのに」
「そうですね」
とりあえず、夕方までにここに戻ってくることを約束し、離れ離れとなった。
「まず、水がほしいな。あとは、肉」
隊長は実に山賊らしい発言をする。
「隊長、野生の獣は臭いがきついので、魚がいいですよ」
「魚じゃ力がでないだろうが」
「臭み消しや、調味料もないですし」
肉を食べるのならば、最低でも塩がほしい。この森の中で、塩なんか採れるわけ――。
突然、地震が発生する。
「どわー!」
色気がまったくない悲鳴をあげる私を、近くにいたベルリー副隊長が抱きしめ、身を挺して守ってくれた。
『アアアア、アルブムチャンガー、上下ニ、ユレルウ~~!!』
『キュ、キュウウウウウ!!』
賑やかなアルブムとエスメラルダの首根っこをステラが銜え、アメリアのもとへ運んで行く。
すると、アメリアがそっと翼を被せた。たちまち、アルブムとエスメラルダは大人しくなる。
それを見たリーゼロッテが、心底羨ましそうな顔をしていた。
『ク、クエ……』
それに気付いたアメリアは、リーゼロッテに「きてもいいよ」と声をかけていた。
通訳してやると、リーゼロッテは喜んで駆け寄る。
地震はいっそう、激しくなった。
「わわっ!」
「リスリス衛生兵、耐えるんだ」
「は、はい」
視界の端に、ザラさんが見えた。私とベルリー副隊長を、切なそうに眺めている。
きっと、ザラさんも私を助けようと手を差し伸べてくれたのだろう。
それよりも、ベルリー副隊長のほうが早かったのだ。
「ぎゃあ!」
ウルガスがバランスを崩し、地面をゴロゴロ転がっていく。
隊長が足でウルガスを踏んで止め、山賊顔負けの凶相を浮かべつつ叫んだ。
「クソ、突然、なんなんだ!?」
地震は止まらない。
耳を澄ませたら、ズシン、ズシンと大きな生き物の足音が聞こえた。
「えっ!?」
「リスリス、どうした!?」
「これ、地震じゃなくて、何か、巨大生物が歩いたことによる、震動です」
「はあ、なんだと!?」
「あ、あれ、なんですかー!?」
ウルガスが叫ぶ。視線を移した先に、ありえない光景が広がっていた。
「森が、移動してるー!!」
木々が、わさわさと動いていた。いったい、何が起こっているというのか。
「ま、魔物、ですか? 樹人、みたいな」
「いいえ、違うわ! あれは、幻獣よ!」
リーゼロッテがぴしゃりと訂正してくれる。
「げ、幻獣、ですか?」
「ええ。森林大亀よ!」
「森林大亀……!」
とんでもなく大きな亀で、一年のほとんどを眠って過ごすのんびり屋の幻獣らしい。
数はそれなりに生息しているようだが、とにかく動かないので発見できないのだという。
「生きている間に、森林大亀に出会えるなんて!」
「おい、ガル。リヒテンベルガーの首根っこ掴んでおけ」
ガルさんはリーゼロッテの首根っこを掴むという乱暴なことはせずに、そっと肩に手を添えるだけにしていた。スラちゃんは、リーゼロッテの暴走を止めるためか、腰に巻き付いている。
『アー!!』
アルブムが突然叫ぶ。いつの間にか、アメリアの翼の下から這い出たようだ。
「アルブム、どうかしたのですか?」
『アノ亀ノ背中ニ、水晶岩塩ガ、生エテイルヨ!』
「水晶岩塩、ですか!?」
なんでも、超絶希少な塩らしい。
「水晶岩塩って、貴族達がこぞってほしがる宝石じゃないか」
「ええー! 塩なのに、宝石なんですか?」
「ああ」
隊長が説明してくれる。なんでも、水晶岩塩は宝石にも加工され、人気が高いのだとか。高値で取引されていると。
「一回、水晶岩塩だけで味付けされた肉を食べたことがあるが、最高にうまかった」
隊長の発言後、皆、顔を見合わせる。
「塩は、ほしいわね」
「そうだな」
ザラさんとベルリー副隊長は賛成のようだ。
「最高級の塩を振ったお肉、食べたいですー」
ウルガスの言葉に、ガルさんも頷く。
「森林大亀、どんな生態なのかしら!?」
リーゼロッテの発言を聞いたスラちゃんが、腰の拘束をきゅっと強めていた。
「おい、リヒテンベルガー。アレは凶暴な幻獣なのか?」
「いいえ。大人しくて、穏やかな性格よ」
「だったら、水晶岩塩を採りに行くぞ!!」
隊長は山賊が強奪行為を働くような迫力で叫んだ。




