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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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最終決戦! その十

「それにしても、君はどこでシエル・アイスコレッタと知り合ったのだ?」

「いや、あの、偶然と言えばいいのか」

「アイスコレッタ家の人間など、そうそう出会うわけがないのに」

「あ、もう一人、いらっしゃっています。リオンさんと言って、シエル様のお孫さんらしいです」

「は!?」

「私達、リオンさんの竜に乗って、王都から来たのですが」


 先生は天井を仰ぎ、「ありえん」と呟いた。


「メル。君はどうやら、特殊な生き物や人間を呼び寄せる才能があるらしい」

「そんなものないですよ! そうですよね、ザラさん?」

「あ……えっと、そう、ね」


 ザラさんは私からそっと目をそらし、答えてくれた。話を合わせてくれた感がある。


「君は、大貴族の養子にもなったのだろう?」

「そ、それは、幻獣を養うために、なんですが」

「それでも、何かを引きつける才能がないというのか?」

「まあ、その、うん。そうですね。運が、いいのかもしれません」


 私も先生から目をそらし、明後日の方向を見てしまった。

 本当に、私の人生どうしてこうなったと聞きたい。


「あ、それはそうと、先生の台所、丸芋しかなかったのですが」

「主食だが、何か?」

「何か、じゃないですよ。また、同じものばかり食べているのですね?」

「芋は飽きない」

「そういう問題じゃありません。きちんとバランスよく食べないと、長生きできませんよ」

「もう何百年と生きている。これ以上、長生きしてどうするのだ」

「お役目から解放されたら、好きなことができるでしょう?」


 今まで、先生は邪龍の封印を見守るため、フォレ・エルフの村に居続けた。

 もしも、邪龍を倒すことができたら、外に出て自由に行動できるだろう。

 そんなことを言ったら、先生は目をパチクリさせていた。


「な、なんですか?」

「いや、長生きして、この村で魔術医を続けるように言うのだと思っていたものだから」

「両親がいつも言っていたんです。先生がいることを当たり前と思わずに、感謝しなさいって。まさか、邪龍がいるから、ここに居続けていたなんて」

「なんだと思っていたんだ?」

「隠居のハイ・エルフです」

「君は、本当に素直だな」


 だって、外出はなるべくしたくない。食事も最低限。患者がこなければ眠っている。そんな生活をしていた先生に、隠居の言葉以外当てはまらなかったのだ。


「しかし、邪龍が召喚された時代に、現在のリスリス家の両親のような柔軟な考えの者がいたら、悲劇は起きなかったのにな」

「もしかして、邪龍を召喚したのは、リスリス家の者だったのですか?」

「そうだ」

「な、なんてこった!」


 ご先祖様よ……大昔も私同様、結婚に苦労していたなんて。悲しくなる。


「村長と話し合った結果、生け贄はリスリス家からもっとも魔力値が高い者を、という話になった。もちろん、表沙汰にはされていない。邪龍を封印していると知られたら、フォレ・エルフは恐怖を感じて村から出て行ってしまう。それを防ぐために、当時の村長が邪龍ではなく、大精霊として信仰するようにしようと提案をしたのだ。邪龍も、畏れられるより、信仰されたほうが気分がいいだろうからな」


 邪龍が燃やした森を鎮火させたのはアイスコレッタ家の御方だったが、邪龍を大精霊と見なし、フォレ・エルフの森を救ってくれたことに置き換えたらしい。


「アイスコレッタ家の人は、怒らなかったのですか?」

「それを決めた当初は、すでにいなかったからな。本人は、邪龍レベルの性格破綻者だったから、知っていても何も思わなかっただろう」


 先生の師匠であるアイスコレッタ家の御方とはいったい何者なのか。恐ろしくて、詳細を聞く気にはならないけれど。


 話が一段落したところで、ウルガスがやってくる。


「あれ、ウルガス。どうしたんですか?」

「まだ話が長引きそうなので、リスリス衛生兵は先にご実家に顔を見せておくようにと、ベルリー副隊長が」

「ああ、そうでしたか。わざわざありがとうございます」

「いえ。足がしびれていたので、席を外すように命じてくれて助かりました」

「さすが、ベルリー副隊長ですね」


 家に帰る前に、先生にきちんとした食事を取らせなければ。


「今から先生の食事を作ります。台所の丸芋、もらいますね」

「ああ、構わない。せっかくだから、共に、食事を取ろう」

「ありがとうございます」


 ウルガスとザラさんの手を借りて、調理を開始する。


『アルブムチャンモ、手伝ウヨー』

「じゃあ、アルブムは芋を洗ってください」

『ハーイ』

「俺も、芋洗いしますね」

「お願いします」


 丸芋は土がこびりついた状態で置かれていた。丸芋を大きな桶に入れ、水を注ぐ。

 アルブムは器用に爪を使い、丸芋を洗っていた。


「ぐう、これ、なかなか土がこびりついて、落ちにくいです」

『爪デ剝ガスヨウニ、洗ッタライイヨ』

「あ、本当だ。落ちやすくなりました。アルブムチャンさん、ありがとうございます」

『イエイエ~』


 アルブムに芋の洗い方を習うウルガスの図は、ちょっと笑える。

 と、よそ見している場合ではない。ちゃっちゃと作って、サクッと実家に帰らなければ。


 一品目は、皮ごと切り分けた丸芋を油で揚げる。それに、大豆ソースで作ったひき肉あんをかけた、『丸芋のひき肉あんかけ』。とろっとろのあんとカリカリになるまで揚げた芋の相性は抜群なのだ。


 二品目は、すった丸芋に小麦粉を加えて団子状にし、燻製肉と乾燥野菜の出汁で作った『丸芋団子のスープ』。


 三品目は薄く切った丸芋とひき肉、チーズを交互に重ねた『丸芋グラタン』。


 四品目は、丸芋と塩猪豚を大豆ソースで煮込んだ『塩肉芋煮込み』。


「ふう。こんなものですか」


 ザラさんが手伝ってくれるので、手早く作れた。

 芋を洗ったあと、皮剝きをしてくれたアルブムとウルガスにも感謝、感謝である。

 テーブルに料理を並べた。私物のビスケットも添えておく。

 アルブムは料理を前に、両手を挙げて小躍りしていた。


『ワーオ、オイシソウ!』

「む。この妖精は、人間の料理を好むのだな」

「ええ、そうなんです」 


 そんなアルブムのことはさておいて。

 手と手を合わせていただきます。


「先生、今回の料理は、新しく手に入れた大豆ソースを使って作ったのですよ」

「聞いたことないな」

「食べてみてください」


 先生は眉間に皺を寄せながら、丸芋のひき肉あんかけを頬張る。


「むっ!!」

「どうですか?」

「これは、うまい! この深みがある味わいを、短時間で作っただと?」

「私がすごいのではなく、大豆ソースのおかげなんです」


 何時間も下ごしらえして、煮込んだ味が短時間でできるのだ。

 大豆ソースを作るさいに、それだけの時間をかけているのだろう。本当に、画期的で新しいソースだ。


 丸芋料理を、みんなでおいしく食べた。

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