挿話 ザラとリーゼロッテの送別会をするために その二
川魚を平らげたあとも、ルビー海老探しを再開させる。
「では、エスメラルダはここで大人しくしていてくださいね」
『キュキュッ!?』
「ん?」
エスメラルダが何かを発見したようで、私に退くように急かす。
「何を発見したのですか?」
『キュウキュキュッ!!』
「え!?」
水面に、真っ赤な魚影ならぬ海老影を発見したようだ。慌てて川に近づき、水面をのぞき込んだ。
「──あ!」
水面に、大きく真っ赤な影が浮かんでいた。間違いなく、ルビー海老だろう。
私はガルさんを振り返る。スラちゃんはすぐさまガルさんの槍に巻き付き、やる気を見せていた。
スラちゃんは、ルビー海老探索用だけではなく、捕獲もするのか。
すぐさま、ガルさんは赤い海老影のほうに向かって、スラちゃんが付いた槍を振る。
スラちゃんは糸のように伸び、川の中へと飛び込んだ。
そして──ガルさんが思いっきり槍を引く。
「わっ!!」
スラちゃんはルビー海老に巻き付いていた。それを、釣りと同じ方法で陸に上げる。
水しぶきを上げながら、ルビー海老が釣れた。
美しいルビー色の殻が、太陽の光に反射してキラキラと輝いている。
なんて美しい海老なのか。うっとり見つめていたのも束の間のこと。
地面でビッチビッチと派手に跳ねるルビー海老に、慄いてしまった。
すぐさま、スラちゃんがルビー海老を呑み込んで絞めてくれたようだ。
ついでに、泥抜きもしてくれる。
「これくらい大きかったら、全員分余裕でありますね!」
メインとなる食材を得たあとは、その他の食材を集める。
旬である山栗や木の実、キノコなどを集めた。アルブムもいたので、籠の中は秋の味覚でいっぱいになった。
「あとは、市場で足りない食材を買い足せばいいですね」
明日は、半日働くだけで、それ以降は休日扱いとなっている。昼過ぎから、パーティーの準備を始めるのだ。
「ガルさん、料理も頑張りましょうね!」
ガルさんはキリリとした表情で、頷いていた。
◇◇◇
そして──パーティーの準備の時間を迎える。
お楽しみ係のウルガスは、顔色を真っ青にしていた。
「俺、もう、吐きそうです」
「頑張ってください。ごちそうもありますので」
「そうですね。少し、元気になりました」
ウルガスを励ましたあと、私とガルさんは台所へと向かう。
スラちゃんは、隊長の飾りつけを手伝うようだ。
侯爵様が改装してくれたおかげで、第二部隊の台所は広くなり、保冷庫やかまどなどの設備も充実している。
今まで、保存食作りにしか使っていなかったけれど、今日はごちそう作りに使うのだ。
「まず、メインのケーキを作りましょう」
お菓子作りと聞いたガルさんは、途端に不安げな表情となる。耳は垂れ、尻尾はしょんぼりと下がっていた。
「心配ありません。パンケーキ生地を使った、誰にでもできる簡単なケーキですので」
拳大の小さなパンケーキを焼いて、それに生クリームと木苺を挟んだ可愛いケーキを作る予定だ。
小麦粉、砂糖、バター、牛乳、ふくらし粉、卵を入れて混ぜる。
「焼く時は薄く油を敷いて、生地を焼いてください」
一通り教えると、ガルさんはパンケーキの焼き方を覚えた。次々と、綺麗な焼き色のパンケーキを焼いていく。
ガルさんがパンケーキを焼いている間に、私は軽く摘まめる料理を用意した。
クラッカーにリエットやチーズ、キノコを載せたもの。
それから、茹で卵や炙り肉を挟んだサンドイッチに、一口で食べられるクロケットも作った。
ガルさんのパンケーキ焼きが終わるのと同時に、軽食作りも完成となった。
仕上がった料理は飾りつけ担当の隊長に、パーティー会場へと運んでもらった。
続いて、パンケーキの仕上げを行う。
生クリームを泡立て、木苺は綺麗に洗って水分を拭き取る。
「これはシンプルなケーキなので、誰にでも作れます」
パンケーキを敷いて、生クリームを塗り、木苺を並べ生クリームで覆う。その上から、パンケーキを重ねる。これを繰り返すばかりだ。
三段ほど重ねたあと、生クリームを塗って上にも木苺を飾る。
「なかなか、可愛らしく仕上がったのでは?」
ガルさんはコクコクと頷いていた。
これを、全員分作っていく。器用なガルさんは、私の作ったものよりも綺麗な物を作っていた。
パンケーキの飾りつけが終わっても、まだ休めない。一番大事な料理が残っていた。
「ではガルさん。メインの料理を作りましょう」
それは、ルビー海老を使ったとっておきの一品。
「ルビー海老のグラタンを今から作ります」
とりあえず、ガルさんにはルビー海老を茹でる作業をお願いした。
私は、グラタンのソース作りを行う。
小麦粉、バター、牛乳をトロトロになるまで火を通すのだ。
ソースが仕上がると、ルビー海老を茹で終わったよう。
「ルビー海老は半分に切って、身を取り出してください」
ガルさんは大きな包丁を手に取り、器用にルビー海老を真っ二つにする。
「そのあと、身を取り出して、刻みます」
ルビー海老の身は、弾力がすごい。硬いというわけではなく、海老のプリプリ感と表現したらいいのか。
刻みタマネギとキノコを炒め、ホワイトソースを加える。最後にルビー海老の身を混ぜた。
ルビー海老の殻をグラタン皿代わりに使う。殻の底に並べるのは、ジャガイモとパン。その上から、ホワイトソースを入れる。上からは、たっぷりチーズを載せるのだ。
あとは、焼き色を付けるだけ。
かまどの中を覗き込むと、チーズにおいしそうな焼き色が付いていた。
「よし、これでいいですね」
『ルビー海老のグラタン』の完成だ。
「ああ、おいしそうです」
ここで、パーティー開始五分前となった。
「ガルさん、急いで運びましょう!」




