謎の遺跡 その十一
もふもふ、もふもふと、柔らかで手触りがよい枕に顔をうずめていたが、突き刺さるような太陽の日差しを感じて俺は目覚める。
「う~~ん、もう朝か~~」
しばらく枕をもふもふしていたが、ふと我に返る。騎士隊寮の枕は、こんなにもふもふで触り心地抜群であったかと。
カッと目を見開いたら、茶色い尻尾が見えた。
こ、これは……!
「ガルさんの尻尾です!!」
びっくりして、跳ね起きた。すると、俺を振り返って、どうもと会釈するガルさんが。
「うわ~~、すみません、まさか、ガルさんの尻尾を枕にしていたなんて!!」
土下座をして、心から謝罪する。
まっすぐに伸びていたガルさんの尻尾の毛先は、俺が眠ったことによって跳ね広がっていた。
文句を言わずに寝かせておいてくれるなんて、ガルさんはなんていい人なのか。
気にするなと言って、赦してくれた。
ここで、周囲の状況を確認する。
俺達は太陽が照りつける砂漠に飛ばされたようだ。
「遺跡にいたはずなのに、外に飛ばされたのでしょうか?」
ガルさんは首を傾げる。どうも、外とは違う空気感があるらしい。
「え~っと、どういうことですか?」
曰く、風の匂いや、太陽の照り方など、ガルさんが知る自然の物と異なるようだと。
「では、人工の砂漠、ということでしょうか?」
ここでも、ガルさんは首を傾げる。一見して、ここは果てない砂漠のように見えた。このような規模の砂漠を、人の力だけで作れるものかと。
「ああ、なるほど、妖精か精霊がかかわっている、ということですね」
ここでようやく、ガルさんは頷いた。
「砂漠に落とされたのは、俺とガルさん、だけですね」
スラちゃんさんとも別れてしまったようだ。周囲を見回したが、アルブムちゃんさんもいない。
「スラちゃんさんは、きっと大丈夫です」
なんとなく、そんな気がした。
「他に問題は──」
ガルさんは両手を広げる。それが意味するのは──つまり、武器がないということだ。
「え、槍がないのです……あ、俺の弓矢もありません!!」
なんていうことなのか。俺とガルさんは、武器を持たない状態で転移されてしまったようだ。
「ど、どど、どうしましょう?」
ガルさんは力強く、俺の肩を叩く。武器がなくても、行くしかないと言いたいのだろう。
こうなったら、己の武器は拳しかない。即座に覚悟を決める。
ベルトに挟んでいた手袋を嵌め、拳を手のひらに打ち付ける。
「近接戦闘は得意ではありませんが、やるしかないです」
ガルさんはこっくりと頷いた。
こうして、俺達は人工砂漠の中を進むことになった。
◇◇◇
もしかしたら魔物がでないかもしれない!
そんな前向きに思っている時もありました。
『チュチュチュ~イ!!』
火傷しそうなくらい熱い砂の中から飛び出してきたのは、熱砂鼠。
魚のように砂の中を縦横無尽に泳ぎ、攻撃を繰り出してくる。
ただ、耳と鼻が利くガルさんの敵ではなかった。
どこからでてくるか察知し、的確な指示を飛ばしてくれる。
まず、ガルさんが熱砂鼠を蹴り上げる。弧を描いて飛びあがり、落下してきた熱砂鼠の鼻先を俺が拳で殴る。すると、熱砂鼠は気を失う。その隙に、心臓をナイフで一突きして仕留めるのだ。
熱砂鼠の可愛い外見に騙されてはいけない。最初の一匹は気を失わせて放置していたが、その後、仲間を呼んで反撃してきたのだ。
魔物に容赦は不要なのだ。
しかし、案外近接戦闘が形になっている。
これも、隊長の厳しい訓練の賜物だろう。
いつも殴られ、のしかかられ、ぶっ飛ばされていた。いじめだと思っていたが、れっきとした訓練だったようだ。
あの訓練に比べたら、熱砂鼠の攻撃なんて可愛いものである。
それにしても、魔物より強い隊長っていったい……。
──新しい、山賊最強伝説ができてしまった。
ガルさんが、五匹目、六匹目の熱砂鼠を仕留めた。
『ショチュウ……!』
『シンチュウ……!』
二匹の熱砂鼠は、手と手を取り合い息絶える。夫婦か兄弟か。
いや、そんなことを気にしている場合ではない。
途中、オアシスを発見し、一休みすることにした。
南国っぽい木々に湖がある。いかにも怪しい場所だけれど、慣れない近接戦闘でくたくただった。
リスリス衛生兵が用意してくれた薬草入りの水を飲む。
「ぷは~! 生き返ります」
ガルさんは俺の頭をぽんぽんと叩いてくれた。
頑張ったと言いたいのだろう。
そんなに優しくされたら、なんだか泣きそうになる。
「ガルさんがいなかったら、俺、死んでいたかもしれません」
そんな弱音を吐いたが、ガルさんはそんなことはない、自信を持てと励ましてくれた。
「うわ~ん、ガルさ~ん」
ガバリと抱き着いたら、抱き返して背中を撫でてくれる。
隊長だったら、たぶん「気持ち悪い!!」と言ってぶっ飛ばされていただろう。
ガルさんは本当に優しい。
と、ここで湖に変化が訪れる。
ぶくぶくと泡立ったかと思えば、水柱が上がった。
「う、うわあ!!」
湖から出てきたのは──上半身が裸で、頭部が禿げたおっさんで、下半身は魚という謎の生き物だった。
「うわあ、おっさんの魔物!!」
『私は魔物ではない!!』
おっさん魚は『ここでも魔物扱いか』とぶつぶつ言っていた。
『私は湖の精である』
「あ、さ、さようで」
おっさん魚は、おっさん魚妖精のようだ。
言われてみれば、青い瞳には豊かな知性があるように見える。
『質問がある。お前が落としたのは、この金の弓矢か? それとも、魔弓アケディアか?』
「あ、俺の武器!!」
おっさん魚妖精が拾ってくれていたようだ。
「すみません、魔弓アケディアのほうです! ありがとうございます!」
『ふむ。なんだかこちらもすごい武器で趣旨がぶれるが、まあよい』
おっさん魚妖精はぶつぶつと呟いていたが、魔弓アケディアを渡してくれた。
ガルさんにも同様の質問をする。
魔槍イラがガルさんの物だと答えたら、そのまま渡してくれた。
『ここでも、よき友情を見させてもらった。誠に、ありがたく、尊いものだった』
「はあ?」
よくわからないけれど、おっさん魚妖精は感動していた。
『皆のもとへ戻りたいのだろう。さあ、行け』
しかも、話が早かった。
おっさん魚妖精が準備してくれた転移陣に乗って、皆のもとへ飛ばしてもらった。




