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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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謎の遺跡 その十一(終)

「うっ……!」


 目覚めたら、固い石の床の上で眠っていた。

 瞼を開くと、周囲に見えるのは白い壁に白い床、白い天井という白の世界だった。

 灯りや陽が差し込む窓などないのに、どうしてか昼間のように明るい。きっと、大規模な魔法がかけられているのだろう。

 ここは先が見えないほど長い廊下のようだ。壁には、古代文字が彫られている。書かれてあるのは──古代に起こった魔道戦争の歴史について。

 どうやら、神殿のような場所らしい。

 いったいどうして、こんなところに飛ばされてしまったのか。

 と、ここで周りに人の気配がないことに気づいた。


「お姉ちゃん?」


 姉メルの姿はない。山賊隊長も、男前なベルリー副隊長も、モフモフなガルさんに、わんこっぽいウルガス君、残念美人なリーゼロッテちゃん、雪国美人なザラお兄さんもいない。

 それから、人工精霊のスラちゃん、幻獣のアメリアちゃんに、ステラちゃん、妖精族のアルブムやニクスの姿もなかった。


 みんな、いったいどこへ行ってしまったのか。

 幸い、魔物の気配はないように感じる。

 私をここに飛ばした魔法の気配はないようだ。どこかに脱出できる出口があるとしたら、探さなければならない。


 一人で進むのは怖いけれど、私はただのエルフではない。

 騎士隊エノクの騎士だ。

 命じられた調査もできたらと思う。


 ◇◇◇


 歩いても歩いても、廊下は果てなく続いていた。壁は魔道戦争の歴史から、魔法を失っていった人々の様子が描かれている。

 魔道戦争というのは、古(いにしえ)の時代に起きた大きな戦争だ。

 その時代は、今では信じられないような魔法が当たり前のように使われていたようだ。

 たとえば、人の生き血を媒介に大魔法を発動させたり、呪いで人を殺めたり、吸血をして魔力を得たりなど。

 魔法使い達が時代を征服し、魔法使いでない者は奴隷のような立場にいたようだ。

 ただ、人数でいったら、魔法使いよりも魔法を使えない人々のほうが多かった。

 そのため、魔法使いでない者が結託し、魔法は悪しきものであると主張しだした。

 悪い魔法使いに、酷い扱いを受けていたので仕方がない話だろう。

 魔法使いでない者は、武力をもって魔法使いを駆逐する。

 そして、魔法書や魔道具を燃やして回った。

 魔法使いを殺していくうちに、魔法使いでない者達は狂っていく。

 良い魔法使いと、悪い魔法使いの見分けがつかなくなったのだろう。

 瞬く間に、魔法使いは姿を消した。皆、殺されてしまったのだ。

 魔道戦争以降、それまで魔法に頼って暮らしてきた人々は魔法を失い、自分達の力で文明を切り開く。


 そんな歴史に転機が訪れた。魔王が世界に君臨したのだ。

 魔王は魔法でしか倒すことができない。そのため、禁術とされていた魔法を蘇らせたようだ。

 それから、魔法使いの家系は少しずつ魔法を復活させる。

 そして──現代に生きる魔法使いは少ないものの、昔のように迫害されることはない。

 むしろ、魔王を倒した者の血筋として、尊敬される傾向にあるという。

 人々の魔法に対する意識がよい方向へ変わったのだ。


「我が国では、魔法を守るため、この遺跡に魔法書、魔道具、歴史を綴った石板を封じることにした。そして、必要以上に魔法が広まらないよう、大精霊に見張らせている。へえ~~、そんな歴史があったんだ」

『然り』

「ぎゃああああ!!!!」


 背後から突然返事があったので、跳び上がって驚いてしまった。

 渋い男性の声だったけれど、振り返った先にいたのは──全長二メトルほどの大き過ぎる鼠だった。毛並みは黒。二本の足で立ち、近すぎる距離から私を見下ろしている。


「あ、あなたは、も、もしかして、ここを守る大精霊?」

『そうだ。さすが神子候補。話が早い』

「み、神子候補って!?」

『この遺跡を守り、人々の暮らしを見守ることを仕事とする者のことだ。あと、私の話し相手もしばし行う』

「ええ~~!?」


 なんていうことなのか。まったく分からない。


「あの、他の人は?」

『邪魔だから、他の層へ飛ばしておいた。運が良ければ、生きているだろう』

「そ、そんな~~!!」


 悲しくなって、涙がボロボロ流れてくる。


「どうしてそんな酷いことをするの?」

『酷い?』

「そうだよ。命を粗末に扱うなんて、古の時代の悪い魔法使いと一緒だ~~」

『い、一緒にするな!』

「わあああん! お姉ちゃんが死んじゃった~~!」

『泣くな! 死んでいない。まだ、死んでいないぞ!』

「ほ、本当?」

『本当だ』


 大きな鼠は何やら手を動かし、魔法を紡いでいるように見えた。

 すると、大きな魔法陣が発生する。

 円陣は光に包まれ、人影が浮かぶ。

 とんがり耳のシルエットが見えたが──その位置はあまりにも高い。


「お姉ちゃ──んん?」

「ミル!!」


 姉だ! 姉が転移魔法で現れた。が、姉だけではない。

 姉は何かに跨っている状態だった。


『あ、どうも~~』


 大きな白い蟻だ。全長二メトルほどの、大きな蟻に跨っている。

 喋ることができるということは、精霊か妖精なのだろう。

 つぶらな瞳で私を見ると、会釈してきた。なかなか、愛嬌のある蟻だ。


「ミル、よかった!」


 蟻に気を取られているうちに、姉が私に抱き着いてくる。よくよく見たら、アルブムとスラちゃんがいた。妖精鞄のニクスもいる。


「お姉ちゃん、無事だったんだ!」

「うん、アリタのところで、お茶とお菓子を食べてた」

「ぜんぜん大丈夫だったみたいだね」


 辛い目に遭っていないようで、ホッとした。

 その後、他のみんなもやってくる。無事だったようだけれど、姉と違って疲れた表情をしていた。

 めずらしく、隊長さんもぐったりしていた。話を聞けば、子どもの遊び相手をして疲れたと。

 アメリアちゃんとステラちゃんは隊長と一緒だったようで、心配していた。

 なんだか、三人の間で絆のようなものができたように見える。

 ウルガス君とガルさんは、手が痛いと言っていた。なんと、武器を紛失し、拳で戦っていたらしい。回復魔法をかけてあげたら、楽になったと喜んでいた。

 ベルリー副隊長とリーゼロッテちゃんは、気持ち悪いおじさんを見たと言っていた。お気の毒に。

 ザラお兄さんなんか、顔色が真っ青だった。


「あの、大丈夫? 回復魔法が必要だったら使うけれど?」

「ミルちゃん、ありがとう。精神的な疲れだから、平気よ」

「そ、そっか」


 きっと、大変な目に遭っていたに違いない。


 皆が揃ったところで、鼠精霊から話を聞くことにした。


「あの、今までも、こうして神子を招いていたの?」

『いや、お主が初めてだ』

「どうして私を選んでくれたの?」


 魔力量だけだったら、姉のほうが勝っている。

 慈愛の心や、性格のよさ、容姿も姉のほうが優れているのに、なぜ私が選ばれたのか。


『それは──この遺跡を見つけてくれたから』

「え?」

『つまり、さ、寂しかったのだ』

「……」


 そんなことで、みんなを危険に晒したというのか。

 なんだか、がっくりと脱力してしまう。


「ごめんなさい。私、神子にはなれない」

『そ、そうか』


 大精霊なのに、意外と弱気だ。あっさりと、引き下がってしまう。

 きっと、長い時をここで過ごす中で、寂しさを感じていたのかもしれない。

 しょんぼりしている姿を見ていたら、なんだか可哀想に思えてきた。


「だったら、お友達になろうよ」

『と、友達?』

「そう。お休みの日とか、遊びにくるから」


 そう言って手を差し出すと、鼠精霊は手を握り返してくれた。


 こうして、私達は地上に戻る。

 とりあえず、遺跡の内部では何も見なかったことにする。

 書かれてあった歴史はどれも人々に伝わっているもので、わざわざ報告する必要もないと思ったからだ。

 遺跡内にある魔法や魔道具は、今の人の暮らしには必要ない物だろう。

 人と魔法は、適度な距離を保って暮らしている。だから、変化は必要ない。

 隊長さんも、ここは放っておいたほうがいいと同意してくれた。

 遺跡自体も、二度と人前に出ないよう、強い結界を張るようだ。


「これで解決ですね!」


 蟻妖精のアリタに跨った姉が、そんなことを言う。


「お姉ちゃん、その、アリタさんは一緒に連れて帰るの?」

「アリタはシエル様に紹介しようと思いまして」


 なんだか話が合いそうなので、大英雄を紹介するらしい。

 アリタは遺跡の仕事を止めて、外の世界を知りたいのだとか。

 ますます、姉の周囲が混沌と化すような気がした。


「よし、帰りましょう」

「そうだね」


 こんな感じで、遺跡問題は解決(?)となった。


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