セイウンと暴れ馬⑦
「あはは、くすぐったい。よしよし。ほらね、セイウン。やっぱり照れ屋なんだよ」
「だまされるな、エレン。そいつのいやらしい目付きが分からないのか?」
「いやらしいのは、あんたでしょう!わけの分からないことを言わないの。ごめんね、白馬さん。でもセイウンは本当にいい奴だから、素直に乗せてあげて」
エレンが馬に頬ずりをした。
本当に腹の立つ白馬だった。馬の分際で、自分のポジションを奪いやがった。このもやもやした感情をどうすればいいのだろうか。セイウンは歯ぎしりしながら、白馬を見つめた。
しばらくエレンに頬ずりされた白馬は、セイウンに寄って来た。
「なんだよ?」
また噛むつもりだろうかと思い、セイウンは身構えた。今度は噛まれるわけにはいかなかった。
しかし、白馬はセイウンに襲いかかる様子は無く、じっとしていた。
「乗ってもいいって意味じゃないの?」
エレンが言った。
「もうだまされないからな。俺は絶対に乗らないぞ」
「いや、それは違う」
ヴィドーが横から口を挟んだ。
「そいつの目が、さっきお前を噛んでいた時とはまったく違う。セイウン、お前に完全に心を開いているはずだ」
もう一度、白馬の様子をうかがったセイウンは、ヴィドーの言ったことがあながち嘘でないことが分かった。
白馬の目は、さっきと打って変わっていた。黒い瞳はただセイウンをまっすぐ見つめており、たてがみは逆立っていた。
威厳というものだろうか。並の馬でないのをにおわせていた。騎乗してみることにした。最初の一手が白馬の首筋に触れた。
ぴくん、と微かな動きを示したが白馬は暴れることなくおとなしくしていた。
「ほらね。なんともないでしょう」
エレンが得意気になっていた。
「ああ」
セイウンの耳にはエレンの声は入ってなかった。
壮大。
感じることはそれだけである。高い山に登ったわけでもないのに、なんという気分だろうか。自分がまるで特別な者になった感じがする。
「ヴィドー、この白馬だけど、もらってもいいかな?」
思わず口から出てしまった。
ヴィドーは、にやりと笑った。
「ああ。好きにしろ。だが、これで調練には出てもらうからな」
「……そうだな」
そういう約束をしていたことを思い出したセイウンは、こくりと頷いた。不安な気持はぬぐい去れないが、この白馬といれば怖いものはないだろう。




