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ロウマのいなくなった後③

 とにかく、ロウマには是が非でも帰って来てもらわねば困る。これは立派な国難だった。


 背後に誰かが立った。


 ラジム二世が振り向くと女だった。年齢は二十の後半に見えるが、実際はロウマやキールと変わりなく、変装しているだけである。


「アラリア、どうだった?」


「やはり北に向かったようです。あの付近は、私も入ったことがないので、とりあえず確認だけして引き返しました」


 アラリア=ソシルは、淡々とした口調で事の次第を述べていた。


「異民族の土地か。誰を行かせるべきだ?」


「グレイス殿がよいかと思われます」


「グレイスか……確かに下手な奴を向かわせるよりましかな」


「では、決まりということで」


「ああ、十分だ」


 アラリアは立ち去った。音もしなかったのでラジム二世は、彼女が立ち去ったと気付くのに、少々かかった。


 ロウマがいないということは、騎士一同にとってある意味いい教訓になるかもしれない。微かであるがラジム二世は、笑みを浮かべた。



     ***



 ナナーは手紙を読み終えた。もう何度目になるだろうか。


 いくら読んでも文面は変わりない。当たり前のことであるが、その当たり前を何回もしている。


 手紙に書かれている内容は、十年以上にわたる自分への愛情と謝罪だった。文字は人の心を映し出すというが、ロウマの手紙はまさに当てはまっていた。


 ナナーは初めてロウマの字を読んだのである。これまでにも手紙は受け取っていたが、自分で読むのが嫌だったので代読してもらっていた。


 本棚に近付いたナナーは、木箱を取り出した。中にはロウマからもらった手紙を入れていた。


 考えてみれば、捨てなかったのが不思議だった。


 まずは八歳の時からの手紙だった。


 ナナーは、はっとした。


 子供の字とは思えないほど、美しかった。神木の下で自分を待っているという内容だった。

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