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お見合い

お立ち寄りいただきありがとうございます。


 そこにノーマンがやってきた。

「ティモシー様、こちらにいらしたんですか。旦那様がお呼びです。」

「そうか。今行く。」

ティモシー様はすこしいやそうな顔をした。

「じゃ、またな。」

「はい、いってらっしゃい。」

レベッカは木の上からひらひらと手を振った。


 デニスはレベッカの隣の木にひょいひょいっと登って剪定を始めた。

「ティモシー様は良いお方だなあ。」

デニスがしみじみとした雰囲気でそう言う。

「やっぱりお若いのにいろいろ苦労なさったからなんだろうなあ。」

「そうですねえ、お辛かったでしょうね。ティモシー様って、中庭でおひとりで素振りとか筋トレとか訓練なさってるんですよ。木の上にいると見えるんです。おひとりで黙々と訓練なさっててえらいなあ。」

「そうか。さすがクロフォード家の跡継ぎだなあ。」

「ご当主はどんな方なんですか?」

「さあてな。話したことねえからわかんねえよ。なんか厳しそうなお方だ。」

「そうですか。代々武門に秀でたお家なんだそうですねえ。」

「なんか、ご養子だってきいたぜ。ご当主はずっと独身だとか。」

「跡継ぎのためのご養子で、大怪我なさったらなんだかちょっと居心地悪くないかしら。」

「そうだなあ。ティモシー様は良いお方だから、そういうんじゃねえといいなあ。」


 そんな話をしていたら、表門に馬車が停まった。

そこから出てきたのは若くてきれいに着飾っていて、いかにも貴族然とした、顎を上げて使用人など目に入らないというような雰囲気の女性だ。

きょうは日差しが強いので、侍女がパラソルを差し掛けたが、そのタイミングがおそかったのか、侍女の手をはたいてなにやら怒っていた。

「なんだあれ、いけすかねえ女だな。」

「しいいー、デニスさん、聞こえたら面倒ですよ。」

「だってよお。やな奴じゃね?」

「私達には関係ありませんから。でも本音はあの人嫌い。」

「ははは、ま、そうだな。」

しばらくしたら、ティモシーとその女性が中庭に出てきた。

「わ、なんだか覗き見してるみたいで悪いですね。降りましょうか?」

「仕事なんだからいいだろうよ。それに覗き見してるわけじゃねえし。」

「でも、なんとなく覗いちゃいません?」

「まあな、それが人間っつうもんだ。」

「あははは、デニスさんっておもしろーい。」


 ティモシーたちはすっかり野次馬と化したデニスとレベッカを知ってか知らずか、よく見えるところの四阿に座った。

「デニスさん、これってお見合いっていうのでしょうか。」

「そうみたいだな。レベッカはしたことないのか?」

「ありませんよお。知らない人といきなり結婚のこと考えろって言われても困っちゃいますもん。だいたいね、貴族の殿方って、この女の人の男バージョンみたいにエラそうな人が多いから、好きになれるわけがありません。」

「たしかに、レベッカには合わないだろうな。」

「でしょう?私はティモシー様にも言ったんですけど、きっと将来誰か平民の方と出会って結婚するんだと思います。」

「おめえ、そんなこと言ったのか。」

「はい。だって、訊かれたから。」

「ふーん、それでティモシー様はなんてった.」

「ええとね・・・あら?なんだろう?なんかおっしゃてたような気はするけど・・・あ、そうだわ、貴族もいろいろいるって。たしかにそうかも。うちの兄はぜんぜん違うし。でも平民の優しいひとがいいなあ。それでなにか一緒にお店とかできたら楽しそう。」

「ま、レベッカもそれなりにいろいろ考えてんだな。ポールなんかどうだ?」

「えー、ポールさんはちょっとねえ。」

「だめか?」

「だって、博打好きで女の人好きでしょ。それは無理。」

「まあな。やめとけ。」

「あははは、デニスさん、どうだと言ってすぐにやめとけって。」

「そのうち良い奴入ってきたら考えような。」

「はい。」

レベッカはにっこり笑った。その輝くような笑顔を見て、デニスは、(ああ、このお嬢さんはいずれ貴族の、もしかするとティモシー様に嫁ぐことになるかもな)と思った。


 デニスとレベッカが和気藹々と話をしながら剪定をしていた時、急に女性の悲鳴が上がり、

「いやー、そばに来ないで!」

という大声が聞こえた。

驚いて声の方に目を向けると、そこには四阿にすわっているティモシーと、そこからだいぶ離れたところにしゃがみこんで手で顔を覆っている令嬢が見えた。

デニスとレベッカはすぐに何があったかを悟った。

令嬢がティモシーの顔を見てそういう反応をしたのだ。

令嬢は供の者と思われる名を金切り声で呼び「早く来なさい、何をしてるのっ。帰るわよっ」と叫んでいる。

ティモシーは無言で無表情でそこに静かに座っている。

邸から使用人が何人か出てきた。

デニスがふとレベッカの方を見ると、レベッカはするすると梯子を降りて四阿に向かって走っていた。


 「おだまりなさいっ。」

レベッカがその令嬢に向かって一喝していた。

「なによ、あんた。この男が私に無礼を働いたのよ。」

「何が無礼なのです。何があったかおっしゃい。」

「この男は私を怖がらせようと、自分の醜い顔を見せたのよ。」

「あなた、正気で言ってるのですか。そんな失礼なことを言うあなたの顔のほうが彼よりずっと醜いですわ。」

「・・・ッ、なによっ、私に説教するつもりなの?私を誰だと思ってるのよ。」

「私はあなたがどなたか知りません。知りたくもありません。」

「教えてあげるわ。驚くんじゃないわよ。私の父はラルフ・デンバー伯爵よ。」

「そうですか。あなたは今の言動でお父様のお顔に泥を塗りましたね。困ったことになるのは貴女の方でしょう。」

「なによっ、あんたっ、平民の分際で、無礼にも程があるわ。」

「お聞きなさい。あなたが先程醜いと言ったお方のお顔にある傷は、お国のために戦った名誉の傷です。それを醜いと言うことは、お国に対する忠誠心を醜いと言ったも同じです。あなたも貴族の娘の端くれなら、それがどんなに大変なことかおわかりにならないのかしら。」

「・・・ッ なによなによなによっ。あんたっ、あんたこそ名乗りなさいよ。無礼者っ!」

「名乗れと言うなら名乗りますが、あなたこそお困りになりますわよ。」

「うるさいっ、つべこべ言わずに名乗りなさいっ。」

「わかりました。私はグレッグ・ホートン侯爵の娘、キャロライン・ホートンです。お父様によろしくお伝えください。私もあなたのことを父に報告致しますわ。」

レベッカは毅然として言った。

「・・・ッ」

「さあ、あなたも貴族の娘なら挨拶くらいできるでしょう。きちんとティモシー様に失礼をお詫びして、ご挨拶なさい。」

「・・・・・・」

「さあ、ティモシー様は立派なお方です。きちんと謝罪すればこの場は大目に見ていただけるかもしれません。」

レベッカは優しく促した。

「こ、この度は大変失礼を致しました。」

「いや、この度のことは大事にはしないので、お互いに忘れよう。」

「ティモシー様、寛大なお言葉ありがとうございます。」

レベッカがティモシーに礼を言った。

「あ、ありがとうございます。では、私はこれにて失礼致します。」

デンバー伯令嬢も辞去の挨拶をし、従者を伴って馬車に逃げるように去っていった。

その場には、ティモシー、クロフォード卿、ノーマン、その他が残っていたが、レベッカは

「出しゃばってしまい、申し訳ございません。お許しいただけましたら幸いです。私は仕事に戻らせていただきます。」

と礼をして、立ち去った。


お読みいただきありがとうございます。

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