はじまりはじまり
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レベッカは花が大好きだ。好きが嵩じて園芸店で働いている。
園芸店は色とりどりの花でとてもきれいだが、実際働くとなるときれいとばかりは言ってられない。
売り物に虫がつかないように虫よけに気を配る。
枯らさないように、水をやり、肥料をまき、不要な枝葉を取り、咲き終わった花を切る。
レベッカは水やりに関しては裏技があるので、水やりはちょちょいのちょいだ。
だが、植え替えたり、新しく種を撒くための作業のために土地を耕したりするのはなかなかの力仕事だ。
夏は日照りのために帽子を被ったりしていてもかなり日に焼ける。
冬はどうしても手が荒れる。
そんなわけで、レベッカはなかなか健康的な見た目をしている。
園芸店では動きやすい服装にするので、農民のような格好をしている。
髪も括って、汗をかくから化粧っ気はない。
しかも、園芸店は年中無休の仕事だ。
お店を開けないときも、植物の世話は欠かすことはできない。
嵐が来る時は外の鉢を全部建物の中に入れ、外の植物は支柱をつけたり、カバーしたり、場所によっては土のうを積み上げたりする。
本来は女ができるような仕事ではないのだが、水やりの裏技のおかげでレベッカは仕事をさせてもらえている。
(私ってほんとにラッキーだわ。)
レベッカはいつも神に感謝している。
「お母様、ただいま戻りました。」
レベッカは仕事から帰ると、母に小さな花束を差し出した。
「あらきれい!私に?」
「はい。きょうバージニアさんがちょっと多く注文しすぎちゃったからってくださったんです。それで、大好きなお母様にと思って花束にしていただいたの。」
「まあ、レベッカ、ありがとう。嬉しいわ。」
その夜、夕食の時に、食卓にはレベッカの花束が飾られた。
「あなた、このお花ね、レベッカからのプレゼントですのよ。」
「おお、きれいだな。レベッカ、これは母上になのか?儂にではないのか?」
「ふふふ、お父様、もちろんお父様のことも大好きですけれど、お花はお母様のほうが合ってますでしょ?」
「だよなーレベッカ。父上は花よりもなんか食い物のほうが合ってる。」
「バーニー、お前はなぜそのように情緒がないのか。」
「情緒?魔導師に情緒は要りますかね?」
「お兄様、なにかぴょーんって飛び上がれるようになる魔法ってありませんか?」
「なんだそれ?」
「私ね、いつも梯子かけて木に登るの面倒だなあって思うんです。それでね、もしお兄様が私がぴょーんって飛び上がれるようにしてくださったらぴょーんって枝に乗れるからいいなあって思ってるんです。」
「お前さあ、ぴょーん、ぴょーんって、うさぎじゃないんだからさあ。そんな簡単に魔法でなんでもできるわけないだろ。」
「そうなの?お父様だったらできます?」
「なんだよそれ。俺を信用してないな。」
「そういうわけじゃないですけど、お父様はもっと経験がおありだから。」
「だからそれが、俺を信用してないってことなんだよ。」
「ええー、ごめんなさい。お兄様、好きよ。」
レベッカは兄の頬にチュッとキスとした。
「おい、お前な、それでなんでも許されると思ってんのか?」
「いえ、ただお兄様が好きだから。」
「けっ、うまいこと言ってさ。でも、許しちゃうんだな、これが。」
「ふふふ、バーニー、あなたはほんと妹に弱いわねえ。そこがあなたの良いところよ。」
「母上。」
「うちの子どもたちは愛らしいな。自慢の息子と娘だよ。しかしな、レベッカ、儂もぴょんぴょん飛ばしてやることはできんぞ。」
「そうですか、お父様でもだめなんだったら、魔法じゃだめってことですのね。ではしかたないから梯子乗ります。」
「レベッカ、あなた、気をつけてよ。落ちないでね。」
「気をつけますわ。それに私にはおともだちいっぱいいるし。心配なさらないでね、お母様。」
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