↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/64

13 断章 A Brand New Day

「六原選手がメッサ―を撃墜。この試合五撃墜! 更に、湯雲選手がJu188を撃墜! 続いて小角選手も撃墜! 公式戦初となります」

「Ju188が全滅してしまいましたね。He111は何機か雷撃できそうですが」

「しかし、ここで試合終了です! 逆転不可能なスコア差となったため、審判が試合終了を告げました。夏の大会準決勝、瑞穂高校の勝利です!」

「敗れはしましたが、ライヒスリッターの選手も高い連携力を見せていました。特に、二撃墜のクルツ・シュヴァーン選手は二年生。今後が楽しみな選手です」

「ヒーローインタビューは、六原選手、月城選手、ユリッチ選手のようです。私も、お立ち台へ移動します」


 しばらくして、テレビからレイアとインタビュアーの声が聞こえてくる。


「希望はしますが、私達は権利を頂くという立場です。認めて頂けるよう、今後も努力を怠らないように致します」

「決勝の相手はヴィクトリア高校となりました。部長のグレイ=ウェンザー選手と副部長のシルバーロード選手とは個人的に交友があると聞きましたが」

「はい。しかし、次戦では堕とすべき敵機です。彼女達の飛び方はチーム全体で確認しています」

「六原選手が迎撃で出るとなると、立ちはだかるのはグレイ=ウェンザー選手である可能性が高いですが、撃墜を狙っていきますか」

「展開によります。ただ、チーム力向上のため編成を入れ替える予定です」

「決勝での編成入れ替えですか? 現状でも十分強いと思いますが」

「グリューン隊とオーランジェ隊を入れ替えます。私達は迎撃中隊『ワルキューレ』を名乗り、八機、場合によっては一六機での中隊戦術を実施します」

「確かに、グリューン隊が入ると迎撃隊は全員女性となりますね。由来はワーグナーのワルキューレの騎行ですか?」

「はい。しかし戦術の一つに過ぎませんので、『ワルキューレの機動』と呼んで頂きたく思います」

「成程。一体どんな攻撃になるのか、期待しましょう。六原選手、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

「続いて月城選手です。今日で通算出場試合が二五試合となりましたが、未だ被撃墜記録がありません。これは――」


 大学選抜のキャプテンに指名された衛徒は、瑞穂航空大学空戦部の部室でテレビの音声に耳を傾けながらメンバー候補一覧表を眺めていた。


 大学選抜は来たるU22世界大会で各国の代表チームと戦うために創設されたチームだが、メンバー候補の殆どが大学二年生であり、各大学の空戦部で主力を務める三、四年生は入っていない。


 その理由は勝つ事を求められていないからだと衛徒は理解していた。


 日本の競技空戦のレベルが世界一と言われる要因の一つは競技人口の多さだが、それは中学から大学まで既に普及している事を意味しており、プロリーグも含め、今以上の規模拡大は難しい。


 一方で北米やヨーロッパはスポーツ戦争のジャンルが多極化しており、競技空戦の伸び代は大きい。


 そこで競技空戦用の機材を海外に売り込みたい日本のメーカーは、各国の競技空戦の競技人口を増やすべく、国際大会を企画した。


 世界大会の目的が布教である以上、日本代表が大差勝ちして現地の人間を白けさせるのは論外。


 大会を盛り上げたいだけならば現在の大学二年生を中心にチームを編成すれば事足りる。


 各大学にとっても主力選手を代表チームに引き抜かれずに済み、次世代の主力選手には国際試合を経験させられるため協力を取り付けやすい。


 要するに今の大学選抜は将来的な競技空戦市場拡大のための引き立て役であるが、衛徒は自分がこの当て馬集団のリーダーに選ばれた事について大いなるやりがいと喜びを感じずにはいられなかった。


 何たる幸運!


 六原と月城が日本で密貿易に加担していた事が発覚して世間が騒ぐ中、三冠を達成したらプロ入りが認められるというような話の流れになった時は、どうやって止めたら良いものか一日中考えて悶えていた。


 説得したところで、六原が納得するとは到底思えない。


 逆に言えば、二人の関係性からして、六原が諦めれば月城も従うだろう。


 そんな時に飛び込んできた、大学選抜チームのキャプテンの打診。


 二つ返事で承諾した。


 六原と月城を皆から応援されるアスリートの道に引き戻すチャンスが来た!


 二人が高卒プロ入りできる条件に大学選抜に勝利という項目を付け足すのは簡単だった。


 それは即ちJSA(日本競技空戦機構)が保護観察中の未成年受け入れに消極的な事を意味する。


 ならばもう迷う必要性は無い。


 保護観察処分を終え、社会的信用を法的に回復した後でプロに行けば良い。


 六原が納得する条件で、高卒プロ入りを止める。


 あの魔女に、常に非難され続けるような茨の道を歩んでほしくない。


 正道を進んで欲しい。


 本人の意思を汲まない独善と言われようが構わない。


 世の中には勝っても解決しない問題があると六原が気付くには、一度負けて目覚める。それ以外に無いだろう。


 その決断は変わらない。


 ただ……その意思を伝えたら六原に泣かれたのは……罪悪感がある。


 言い方が悪かったのだろうか。


 だが、どんな言い方をしようとも、六原の正義を否定している事に変わりはないし、俺が正しいと思ってやっている事も変わらない。


 となると、あのいたたまれない状況は不可避だったのか。


 まぁ、俺達が卒業する時も陰で泣いていたらしいし、この間錨桜との試合に勝った後も歓喜の涙を目に浮かべていた。


 涙もろい性格なのだろう。


 だとすればそこまで考慮して、手短に話を済ませるべきだったか?


 それでは俺の決意が伝わらない。


 二年前、最後の部長になりたくないという俺の望みを叶えてくれた魔女に誠意を示す意味でも、俺が本気で動いているという事を伝えたのは間違いではなかったはず。


 とはいえ。


 勝った後の事を今から心配しても仕方が無いが、再開した時が気まずい。


 なんて声をかけたら良いんだ。


 衛徒の思考は堂々巡りから抜け出せない。


 午後一時が近付いた頃、滑走路から複数のレシプロエンジン音が聞こえてきた。


 打ち合わせに呼んだ四人の選手が到着したのだろう。


 如何に大学選抜を強力なチームにするか検討した衛徒は、メンバーの大半を大学空戦における強豪校である、アレス征界大学、レルム国際大学、アイリス農業大学、インターナショナル大学、瑞穂航空大学の選手で編成し、既に成立している小隊、中隊は極力崩さない方が良いと考えていた。


 ただし全ての大学から一人以上の戦闘機パイロットを選出するよう大空連から言われているので、異なる大学の選手によって編制された小隊はどうしても発生するが、そこは合同練習の機会を優先的に割り当てるとか、同じ高校の出身者で固めるとか、工夫で補える範囲だ。


 よってアレス征界大学、レルム国際大学、アイリス農業大学、インターナショナル大学の各空戦部に連絡し、戦闘機隊の中隊長を務める選手を一人ずつ選んでもらった。


 その人物達との会議が今日この場で行われる。


 出迎えるため部室のドアを開けると、男子生徒二人に支えられたまま眠る女子生徒一人と、渋い表情で腰に手を当てている女子生徒一人が視界に入った。


 時間と人数的にこの四人で間違いないのだろう。


「瑞穂航空大学の鹿島衛徒だ。来てくれて嬉しく思う。部室に入ってくれ」

「初めましてだな! よろしく頼む」

「早く中に入れろ! 充電が切れてしまう!」

「好きな席に座ってくれ。飲み物は無料だ」


 衛徒は三人とすれ違った後、自分で歩いている方の女子生徒に声をかけられる。


「わっちがどうして腰を痛そうにしているか、興味があるじゃろ?」

「無くはないが、とりあえず入ってくれ」

「わっちがここに来たらレルムの奴らに声をかけられたんじゃ。だから近付いたら、後よろしくとか言って撤収しおった! で、風早が微動だにせんからわっちは声をかけた。そしたらいきなり抱きついて体重をかけてきたんじゃ。わっちは転倒し腰を強く打った」

「災難だったな。まぁ座ってくれ」

「これからよろしく頼むぞ鹿島。風早はここに置く。これは土産の野菜だ!」

「プラグはあったがコードが届かない! 延長コードはどこだ!?」

「テレビに繋がってるやつを抜いて使ってくれ」

「不安なんじゃろ? この四人で大丈夫なのか。わかるぞ。わっちもじゃ」

「とにかく座ってくれ」

「洒落た部室じゃのう。これは空港のラウンジじゃな。それも富裕層しか入れないいいやつじゃ」

「調度品やドリンクサービスまで同じらしいからな」

「フードサービスまであるとは、豪勢じゃのう」

「好きに食べてくれ。風早。お前はどうやったら起きる?」

「……コーヒー。濃いやつ」

「今用意する」


 会う前から不安ではあった。


 確かに四人とも大学二年生としては最高の戦闘機パイロットではある。


 しかし、今年またしても後輩になった自称情報通の倉見に事前調査させたところ、四人とも不名誉な二つ名を持っていた。


 そして第一印象で、癖が強い者達である事はわかった。


 癖が強かろうが中隊指揮官に足る能力を有しているなら良い。


 しかし相互の連携が上手くいかず強いチームを作れなければ、六原と月城の未来は守れない。


 エスプレッソを眠たげな女子大生の前に置いた衛徒は、席に座って口を開いた。


「改めて、今日の訪問に感謝する。この会合の目的は大学選抜チームのスタートアップだ。そのために各校の監督に中隊長に適した人材を紹介してもらったところ、お前達四人の名前が挙がったので、こうして来てもらった」

「目的はわかるが、早過ぎないか? 国際大会まであと半年以上ある。冬休みあたりからチームとして動き出すと聞いていたが?」


 持参したノートPCに充電ケーブルを繋いでテーブルに置いた男の名前は大北進。


 インターナショナル大学の選手で二つ名は裏ドラマン。


 自分のプロ入りを予想し祝賀会まで企画していたのにドラフト指名されなかった事が由来で、麻雀は強いらしい。


「一二月に瑞穂高校との練習試合がある。ニュースでも報じられている通り今年の瑞穂高校は強い。ぶっつけ本番だと負ける可能性すらある。俺達に世間の期待を集める意味でも、夏休みから練習すべきだと判断した」

「その件は知っている。だが機体数が違い過ぎる。僕の解析じゃ勝率は百パーセント。無意味な試合だ」


 確かに現状では大きな戦力差がある。


 普通に考えればこの戦力差は埋め難い。


 だが相手が六原となると話は別だ。


 準備期間が五ヶ月もあれば、強力なチームを作り上げてくるに違いない。


 しかしこの四人に六原の脅威を説明しても始まらない。ここは適当な嘘を交えてやる気を出させるしか無い。


 衛徒がそう思った時、眠たげだった女子大生が口を開いた。


「練習試合なのだから、他校からの助っ人は禁止ではない。強豪校の合同チームとなった場合は、手強い相手となるだろう。そして瑞穂空戦部の部長六原は鹿島の後輩だ。何かしら思い当たるところがあるのではないか?」


 衛徒の抱く懸念を代弁したかのような発言をしたのは風早智代。


 レルム国際大学の選手で二つ名は正午姫。


 朝に弱過ぎて昼食時に登校してくる事が由来で、目を覚ましさえすれば別人のように知性が高くなるらしい。


 技量も一級品で、生活リズムがまともなら高卒でプロ入りできたと言われている。


「その通りだ。あいつが高卒でプロに行くには俺達を倒す必要がある。無策で挑んでくる事はあり得ない。俺達も練習試合までにベストのチームを編成すべきだ」

「いいのかの〜。可愛い後輩の夢を潰してしまって。隠しておきたかった過去をほじくり返されてなおプロに行きたがっている。健気じゃないか。出撃ポイントは向こうに決めさせてやったらどうじゃ?」


 独特の言葉遣いで話す女子大生は鳴滝奈緒。


 アレス征界大学の選手で二つ名は散財小町。


 学費免除の特待生なのに常に金欠状態であるほど金遣いが荒い事が由来らしい。


 コンカフェでバイトしている時のキャラを日常生活に持ち込んでいるところに異常性を感じる。


「練習試合の機会は貴重だ。できるだけ多くの選手を出したい。六原の都合に合わせてやる必要は無い」

「あ奴が高卒プロ入りする条件は三冠の達成じゃった。ところがお主が大学選抜のキャプテンになってから三日で、大学選抜に勝ったらという条件が追加された。不自然じゃの〜。誰の差金かの〜」

「俺が提案した。六原と月城が保護観察処分になる可能性は極めて高い。そんな状態でプロ入りしても、反省していないと後ろ指を指されるだけだ」

「あっさり吐きおったか」

「お前達とは本音で話したい」

「応援するどころか妨害する側に回るとはのう。良いのかぁ? 嫌われてしまうかも知れんぞ」

「俺は単に六原に立ち止まって辺りを見渡す事を知ってほしいだけだ」

「愛じゃよな。お主ら、これは愛じゃよな?」

「愛か。良いじゃないか。野菜も愛情を込めて育てると美味しくなる」

「オカルトだ。精神論で成分が変わるわけがない」

「やり方の問題だ。このうちで採れた野菜のスティックを食ってみろ。わかるはずだ」

「野菜を食べに来たんじゃない」

「風早。どうだ?」

「コーヒーと合わないからいらない」

「鹿島。野菜は身体に良いんだ」

「とりあえず置いといてくれ」


 タッパーに入れた野菜をテーブルに置いたのは井ノ原優作。アイリス農業大学の選手で二つ名はキャベラッシュ。


 頻繁に生野菜を食べており特にキャベツの割合が多い事が由来で、料理は上手いらしい。


 隙あらば初対面の相手にも生野菜を勧めるあたり変人だが、その奇行に今は助けられた。


「大空連は試合形式の練習なら予備メンバーを含めた紅白戦で良いだろうとか言っていたが、それは効果が薄い。俺達は全力で勝ちに来る連中と試合をするべきだ」

「仮に瑞穂空戦部が複数校の合同チームになったとしても、結局は高校空戦用機体の寄せ集めだ。国際大会を見据えた練習試合として効果的とは思えないね」


 進の意見は至極真っ当であるが故に、衛徒も想定していた。


 だが戦闘機の強さは乗り手次第だ。


 ここから先はパイロットの技量という点を強調しよう。


「確かにのう。各校に協力を呼びかけて、国際大会を見据えた練習試合用のチームを作る手もあるわけじゃし」

「私としては、この打ち合わせの前に瑞穂高校との練習試合を勝手に決めているところに疑問を感じる。チームの私物化ではないか?」

「まぁそうカリカリするな。冷やしトマトを持って来た。GABAを含んでいるぞ」


 私物化という点を指摘される事も衛徒は想定していた。


 まさに正鵠を射ている。


 突き詰めてしまえば衛徒にとっての大学選抜とは、レイアとハンナの高卒プロ入りを阻止するための道具に過ぎないからだ。


 ただ、私物化については事実であっても完全に認めてしまうわけにはいかない。


 六原を止めるためには、瑞穂高校との練習試合が絶対に必要だからだ。


「打ち合わせ前に瑞穂高校との試合を提案しに行った点は悪かった。だが瑞穂高校との練習試合が最もチーム強化に繋がるという考えは変わらない」

「根拠は?」

「負ける可能性のある試合をした方がチームとして成長する。大学一、二年を集めた即席チームが相手では緊張感も生まれないだろう。特定機体の対策はアグレッサー部隊を作れば事足りる」

「助っ人を集める事はできても、高高度に対応した機体を集められるかは疑問だ。瑞穂にせよ錨桜にせよ、高度六千メートルまでという高校空戦のルールに助けられている。大学一、二年を集めた即席チームの方が練習相手としては妥当と思うね。因みに僕のデータでは――」

「まぁ既に告知までされておるからあまりとやかく言わんが、独断専行ではあったのう。高校生が集まったチームがどれだけ強いかは未知数じゃ。楽勝で終わってしまったならば、大学一、二年を集めた即席チームの方が良かったと結論されても文句は言えまいな」

「中止できないというのなら、瑞穂空戦部と大学生の連合チームにしたらいいんじゃないか? 不足分を補う形なら、六原にとっても悪い話じゃないだろう。提案してみたらどうだ、鹿島」

「悪くない考えだ。僕なら大学一、二年の選手全員のデータを提供可能だ。機体を含め、瑞穂空戦部の戦力を考慮したうえで、連合チームを最適化できる」


 認識を改める必要がある。


 四人とも、状況の理解と代案の提示が早い。


 中隊指揮官としての能力はありそうだ。


 だが。六原との約束は違えられない。


 試合までの準備に大学選抜側は干渉しない。


 六原がその才を十全に活かして成立したチームと正々堂々勝負して勝つというのが衛徒の目論見であり絶対に譲れない事だった。


 そこまでできれば、あの天才に凡人たる俺の言葉が届くかもしれない。


 しかし練習試合の相手を勝手に決めた事はこちらに非があるので、理詰めで納得させる事は難しいだろう。


 そう思った衛徒は、この四人に確実に効く殺し文句を今使う事にした。


「大学一、二年を混ぜると却って弱くなる。高校生だけで編成した方が強いチームになる。わかるだろ? プロに行けなかったお前達なら」


 想定通り、場の空気は凍りついた。

次回、レイア、子供達に左で打てやと言われ応じた結果凡打

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。