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EP 6

這い寄る純粋悪『死蟲軍』

『三国合同・国境グルメフェスティバル』は、最高潮の盛り上がりを見せていた。

リアンの屋台から漂うニンニクと焦がし醤油の香りは広場全体を包み込み、三カ国の観光客たちは、国境の壁を越えて肩を組み、美味い飯と酒で笑顔を弾けさせている。

しかし、光が強ければ強いほど、そこに落ちる『影』は濃く、そして深くなる。

「ヒヒッ……アヒャヒャヒャッ!! 素晴らしい! 素晴らしいよォ!!」

フェス会場を見下ろす小高い丘の森の中。

木々の陰に潜むようにして、一人の『異形』が歓喜に身をよじらせていた。

道化師ピエロのような派手で奇抜な衣装に、顔の半分を覆う不気味な笑みを描いた仮面。

その背の丈ほどもある巨大な『大鎌』を弄びながら、男は舌なめずりをした。

「平和、笑顔、希望! それらが一瞬にして『絶望』に裏返る瞬間! その時に放たれる魂の輝き(スパイス)こそが、我ら死蟲軍にとっての最高の御馳走なんだよォ!」

彼こそが、かつて神々との大戦を引き起こした邪悪なる王『死蟲王サルバロス』の配下。

天魔窟の軍勢を率いる指揮官、魔人ギアンである。

ギアンの目的は、主であるサルバロス復活のための贄(魂)を集めること。

そのためには、ただ人間を殺すだけでは足りない。最大限に持ち上げた幸福から、一気に地獄の底へと突き落とし、極限の恐怖と絶望に染め上げた『極上の魂』を刈り取る必要があった。

そして今、目の前に広がる幸福なグルメフェスは、ギアンにとって最高の「狩り場」だった。

「さァて、開演ショウタイムだ! 行っておいで、可愛い僕の操り人形おもちゃたち!!」

ギアンが指先を天に向けて弾くと、彼の背後の空間が黒く歪み、巨大な穴が開いた。

――ジジジジジジジジッ!!!

そこから溢れ出したのは、機械の冷たさと昆虫の生々しさを融合させたような、おぞましい殺戮兵器の群れだった。

死蟲王サルバロスが生み出した生体兵器『死蟲機デスマキナ』である。

「まずは空から、恐怖のプレゼントだ!」

上空のゲートから飛び出したのは、体長2メートルを超える『死蜂デス・ビー型』の群れ。

鋼鉄の羽を羽ばたかせ、空を黒く染め上げながらフェス会場へと急降下する。そして、腹部から機関銃のように『即死性の毒針』を乱れ撃ちにした。

「え……?」

「ぎゃああああああああっ!!?」

笑顔で串焼きを頬張っていた観光客の肩に、太さ数センチの毒針が突き刺さる。

悲鳴を上げる間もなく、全身がドス黒く変色し、口から泡を吹いて倒れ伏す人々。

突如として空から降り注いだ理不尽な死の雨に、フェス会場は一瞬にしてパニックに陥った。

「な、なんだ!? 魔獣の襲撃か!?」

「逃げろ! 早く逃げ――」

「ヒヒッ! 逃げ場なんて、最初から用意してないよォ!」

パニックに陥り、広場の出口へと殺到する人々の行く手を阻むように、今度は地中から巨大な土煙が上がった。

――ギシャァァァァッ!!

地を割り、姿を現したのは、装甲車ほどの大きさがある『死蟷螂デス・マンティス型』の群れだった。

彼らの両腕に備えられた鋼鉄の鎌は、大理石の柱すら容易く両断する切れ味を誇る。

死蟷螂たちは、逃げ惑う人々の群れに突っ込み、その巨大な鎌を無慈悲に振り下ろした。

「ひぃぃぃっ! 助け――」

「ママァァッ!!」

ズバァァァッ!!

絶叫と共に、色鮮やかなフェスのテントが真っ二つに裂け、美味そうな料理が血の海に沈んでいく。

笑顔が恐怖に歪み、歓声が絶望の悲鳴へと変わる。

「アヒャヒャヒャヒャッ!! いいねェ! 最高の表情だ! その絶望に染まった顔のまま、僕の可愛いマリオネットにしてあげるよォ!!」

ギアンは小高い丘から跳躍し、広場の中央へと降り立った。

その指先から放たれた極細の『魔糸』が、倒れた人々の体に絡みつき、彼らを無理やり立ち上がらせていく。死してなお踊らされる、最悪の操り人形。

誰もが、死を覚悟した。

平和な国境の村は、純粋悪たる死蟲軍の手によって、血塗られた地獄へと変貌しようとしていた。

――しかし。

この最悪の道化師ギアンは、致命的な計算違いをしていた。

この会場には、絶対に『食事の邪魔』をしてはいけない男と、絶対に『推し活の邪魔』をしてはいけない女が滞在しているということを。

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