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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十六章 砦村防衛戦
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シャーリィの実力

 東門に向かったシャーリィは、巨大な門の隙間から外に出、言葉を失った。

 見渡す限り、一面の緑だった。それが草木であればのどかな風景なのだが、残念ながらすべてが人型の魔物、ゴブリンである。

 さすがに、家へ逃げ帰りたい気持ちが湧き上がる。しかし、戻ったところでどうにもならず、むしろこの集団に殺されるだけである。

「おい、シャーリィ……これ、本当にどうにかできるのか……!?」

 ついてきた門番の一人が、震える声で尋ねる。その怯えが多分に混じった声に、むしろシャーリィの心は落ち着きを取り戻していく。

「……できる、はずです。やったことはないけど、きっと」

 戦い方は聞いてきた。その準備もできている。あとは、やるだけだ。

 やると決めると、不思議と心は静まった。もちろん、恐怖はある。だが、自分を見失うような恐怖ではなく、押さえつけることも可能な程度だった。

 ゴブリン達の顔が、はっきりと見えるようになってきた。向こうもこちらを認識しており、嘲るような言葉がいくつも聞こえてきた。

 数が多く、ゴブリン訛りもあって聞き取りにくいが、少なくとも門番二人は殺し、シャーリィは慰み者にしようと考えているらしい。自分にそういった感情が向けられるのは恐ろしいという気持ちもあったが、同時にひどく腹が立ってきた。

「ゴブリン達、止まりなさい!それ以上近づくなら、私が相手になるわ!」

 どうせ止まらないだろうなと思いつつ、シャーリィは叫んだ。すると、ゴブリン達は一瞬静まり返った後、一斉に笑い出した。

「ハハハハ!ガキ一人ト男二人デ、一体何ガデキルッテンダ!?」

「男ハサッサト殺シテ、アイツデ遊ボウゼ!」

 戦いで負ければ、ゴブリン達の言葉は現実になる。そう考えると、再び恐怖が頭をもたげて

きたが、シャーリィは深呼吸をしてそれを鎮める。

 いよいよ、ゴブリン達は数メートルの距離にまで迫っている。シャーリィは懐から小瓶を取り出すと、その蓋を開けた。

「だったら、本気で戦うよ!クリエイトバブル!」

 小瓶の中から泡が噴き出し、辺り一帯にふよふよと漂い始めた。それを見て、ゴブリン達は再び笑う。

「ハッハッハ!何ダソリャ!?泡遊ビカ!?」

「コンナ物ガ何ダッテ……!」

 風に吹かれ、その泡はゴブリン達に向かって飛んでいく。そして、一つの泡がパチンと弾けた瞬間、その周辺のゴブリン達は一斉に倒れた。

「ナ……ナンダ!?一体何ガ起コッタンダ!?」

「うっ……!」

 一瞬、シャーリィの顔が強張った。そして頭の中に、リョウジの言葉が思い浮かぶ。

――要は、液体から泡を作り出せるんですよね?であれば、その液体が毒だったら?しかも、わずかでも触れれば即死するような、強力な魔力毒だったら?

 答えは、今目の前に広がっている。

 倒れ伏し、一切の動きを止めたゴブリン達に、驚き戸惑うゴブリン達。その間にも猛毒の泡は漂い、さらなる犠牲者を増やし続けている。

「私が……殺したんだ……」

 一瞬、吐き気がこみ上げる。しかし、腹筋に力を入れてそれに抗い、改めてゴブリン達に視線を移す。

「ソノ泡ニ触レルナ!毒ノ泡ダ!」

 何人かのゴブリンが気付き、泡を避けようとする。だが、シャーリィはその泡に向かって手をかざす。

「シャボン玉遊びは終わりでいいの?じゃあ、『お片付け』しないとね!」

 泡を握り潰すように、手を閉じる。瞬間、漂っていた泡がすべて弾け、周囲に猛毒の飛沫をまき散らした。

 リョウジは特に効き目の強いものを渡してきたようで、一滴にも満たない量を浴びただけで、ゴブリンは簡単に倒れていく。

――あなたの能力は、対多数戦闘にものすごく向いてるんですよ。その初陣が、ほどよい弱さのゴブリンの大群なんて、とてもついてると思いますよ。

「……なんて、言いきっちゃう辺り、やっぱりS級なんだね……!」

 どうやら、自分は非常に危険な相手と認識されたようで、ゴブリン達の進軍速度が跳ね上がった。というより、隊列など考えず、それぞれが全力疾走でこちらに向かって突っ込んできている。

 だが、シャーリィは慌てずに小瓶を振り、中の毒を地面にばら撒いた。そしてその場にしゃがむと、右手を地面につける。

「クリエイトバブル!」

 周囲の地面が、猛毒の泡で満たされた。全力疾走していたゴブリンは立ち止まることができず、次々に自分から猛毒の泡を踏み、倒れていく。

「クソッ!ダッタラ門ヲ狙エ!」

 ゴブリンが叫び、続けて門に向かって火矢が降り注ぐ。すると、シャーリィは新たな瓶を開ける。

「クリエイトバブル!」

――万が一、火を使われた場合は泡で包み込んでください。詳しい説明は省きますが、蝋燭の灯を消すのにこう、被せて消す奴あるじゃないですか?あれと同じ現象を起こせますよ。

 スキルで作り出された泡は炎に当たっても弾けることなく、門を包み込んでいく。冷却と窒息の二重の消火により、火はあっさりと消されてしまった。

「アノ女ヲ殺セ!アイツガ邪魔ダ!」

 今度は自分に向かって、矢や石が飛んでくる。シャーリィは持ったままの水の瓶に意識を集中した。

「クリエイトバブル!ハード!」

 水の泡が、飛んできた物をぼよんと弾き返す。正直、これはできるかどうか自分でもわからなかったのだが、どうやら成功したらしい。

――あとその泡なんですけど、性質も変えられません?弾けない泡とか、弾力のある泡とか、そういうのが作れてもおかしくないと思いますけど。

「ほんっと……どんだけ、使い手以上に使い方を考えてるんだか……」

 何だかおかしくなり、シャーリィは思わず笑みをこぼす。同時に、気分の高揚するままに、存分にスキルを使ってやろうという気が湧き上がる。

「遠ければ安全だとでも思ってる?残念だけど、そこまで甘くないよ!クリエイトバブル!ウェーブ!」

 細かな泡が地面から集まり、見る間に高く積みあがっていく。そして、それは波のようにゴブリン達に襲い掛かり、何百ものゴブリンを飲み込んだ。

 波が消えた後には、動かなくなったゴブリンが倒れている。その向こうには、笑みを浮かべて猛毒の泡を操る少女が、たった一つの傷も受けずに立っている。

「グッ……ム、無理ダ!コンナ奴、勝テルワケナイ!ミンナ逃ゲロ!」

 そこでようやく、ゴブリン達は散り散りに逃げ出そうとした。それを見ると、シャーリィはさらに毒の瓶を開けて地面に振りまき、同じく水も地面にまいた。

「一人だって逃がさないよ!クリエイトバブル!」

――ところで、私の能力は物を伝って効果を及ぼしもするんですが、シャーリィさんのスキルはどうでしょう?手と、泡とが繋がってれば、遠距離攻撃もできません?

 地面から、緑色の猛毒の泡が現れ、その後ろに透明な水の泡が現れた。そして、水の泡は毒の泡を先端に乗せて増殖を繰り返し、毒の泡を前へと運んでいく。

「噛みつけ!バブルバイパー!」

 まるで蛇が食らいつくように、毒の泡を乗せた泡がゴブリンへと突っ込んでいく。

 ある者は後ろから、またある者は回り込まれた正面から、ゴブリン達は次々に倒されていき、生き残ったゴブリン達は逃げ惑う。

 やがて、ゴブリン達の動きが止まった。泡の毒蛇に追い回され、逃げ回るうちに、生き残りは一か所に追い込まれていたのだ。

 ゴブリン達がそれに気づくのと、シャーリィがニヤリと笑うのは同時だった。

「言ったでしょ?一人だって逃がさないって」

 シャーリィは立ち上がり、手を下から上へと振り上げた。

「クリエイトバブル!ポイズンゲイザー!」

 集められた毒の泡が、ゴブリンの足元から一気に噴出した。

 噴き上がった泡が弾けて消える頃、そこには一つとして動くものはなかった。ただ、大量のゴブリンが地面に転がっているだけであり、たった今まで大規模な戦闘があったことなど、信じられないような静けさだけが広がっていた。

 シャーリィはそれを見届けると、自身の掌に、フッと息を吹きかけた。それを合図に、辺りに散らばっていた泡はすべて弾け、地面へと染み込んでいった。

 二人の門番は、そんな彼女を呆気にとられて見つめることしかできなかった。

「お……お前、本当に、あの宿屋のシャーリィか?」

 思わずといったその問いかけに、シャーリィはくるりと振り返り、そしてにっこりと微笑んだ。

「うん、そうだよ。今は、ね」

 再び、シャーリィは自身が倒したゴブリンの群れに視線を移す。そして、見えない何かを掴もうとするように手をかざし、その手をぐっと握りこむ。

「……数年後には、一流冒険者のシャーリィに、なってやるんだから!」

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