35:トッププレイヤーの介入
新イベント解禁&アールの正体が全プレイヤーに判明
朝早めに予約投稿です。
「あぁ・・・クソ。惨敗とかマジか」
勝つつもりで放った血涙雀は片腕を引き裂く程度で体には傷つけることなく、逆にこちらの両腕を持っていかれるという誰がどう見ても敗北の二文字を叩きつけられた。
けど、それを侍ゴブリンは勝利とは言わず、再戦を誓い他のゴブリン達とどこかへと消えていった。片腕を持っていった俺に対する敬意とか、久しぶりに会えた強敵に対する礼儀とかその辺だとは思う。
だが、それでも見逃されたのは正直腹立つ。やるならスパッとやった上で次に挑ませろ。晒し者の気分でいい気持ちではない。
「うぅぅぅぅう・・・・ヒック・・・」
「あうぅううう・・・・・・」
そんな侍ゴブリンが去り、イベント開始のアナウンスが流れた現在。集まっていたプレイヤーはその大半が疎らに散り、新イベントの為の活動を始めていた。
その始まりとなった噴水前では斬られて落ちた俺の両腕をくっつける為にリークとレイレイが大粒の涙を流しながら回復アイテムをこれでもかと言う程使ってくれていた。
「アール!左手あった!!」
「「早くちょうだい!!」」
マー坊は空中で切られたため街のどこかに落ちてしまった左手を見つけてくれたようで左手で左手を持つというなかなかホラーな光景が広がっていた。
それを奪い取り、レイレイがずり落ちた肩を付けるのと同じようにポーションらしきアイテムを手首の切断面に流し掛け、それらを合わせるようにくっつけ再びポーションを流しかける。
第三者から見たら両手に花だから嫉妬の視線を集めること間違いなしだな。
「いやお前その状態見てそう思える奴いねぇって!!」
「そうだよ馬鹿!!だいたいどうしてあんなことするの!!私本当に死んじゃうかと思ったんだからね!!!」
「バカバカバカ!!!アールのバカ!!」
今の俺の状態は、活性化した細胞が斬られた肩と手を結合するために働いているため小刻みに動いている。
切断面からはまだ少し白い光がこぼれ落ちているが、致死量には至っていないようで体は動く。スキルの「復活」と「光星の加護」が発動したことで、体力がとりあえず回復したからこそ起きる奇跡だろう。流石に痛みまでは消えないので相当我慢しているが。
「馬鹿なのは認めるけどレイレイ、俺の左手潰さないでね?」
「わかってるわよ馬鹿!!もう!!もうもうもう!!!アールのアホ!!痛いのに我慢してるって顔してるくせになんでそんなに軽いのよ馬鹿!!」
「実際我慢してるし」
「知ってるよ馬鹿!!もう・・なんなのよあの攻撃・・!!!」
「確かにな・・・流石に俺もあの奥義をゴブリンが使うとは思ってなかった」
「「「そっちじゃない!!!アール/お前の方だ/だよ/だからね!!!」」」
あぁ、俺の方か。
「ガンテツさんから刀受け取ったと思ったら急に腕に刺すんだもん何してるのって思う方が普通だよ!!?」
確かに見たことない奴ならそう思うのが普通か。いや見たことある奴でも多分同じような反応するとは思うけど。
「もしかして前にアールが犬と戦って勝った時にあった腕の傷もこの攻撃の傷だよね!!」
「お、気づいた?そうそう。血涙雀の傷」
リーク流石だな。腕グッサリ空いた刀傷はそうそうあるもんじゃないし、見たのも一瞬だったとは言えよく覚えてたな。
「何なんだよお前のその血涙雀だっけか?その技は・・!?聞いたことねぇぞ?」
「それについては俺も聞かせろ」
「奇遇だね。僕たちも聞きたいな」
そう言ってやってきたのはガンテツさんと・・・誰?
わかりやすく言うと誰にでもふんわり優しさを見せるお兄さんタイプの男性。柔らかい表情と笑顔がまたなんとも女性ウケしそうだ。手に持つのは・・・珍しい仕込み杖か。それに背中にもなかなかの業物であろう剣を帯刀してらっしゃる。
そしてもう一人いたのは、これまたガンテツさんに負けず劣らない強ばった顔つきの女性。寄らば斬ると言わんばかりの顔つきでありながら顔に古傷をつけてあるとはまたなんとも変わった趣味をお持ちだ。
背負っている巨大な弓と剣も男性と同じく業物のようでオーラがにじみ出ていた。
「オメェらも来てたのか」
「お久しぶりです。鍛冶師ガンテツさん」
「おうおっさん。いろいろあるが話は後だ。先にこいつだ」
キズ有りの女性が睨むように俺へ視線を向けてくる。それを隣の二人は嫌な相手を見るように見返した。
「紫・・・本当に来たのね」
「来たぜ女帝様よ、けどお前に用はない。おいお前、さっきのアレなんだ?答えろ」
「こらこら紫さん。彼今治療中だよ?焦らなくても逃げないよ」
「黙れもやし。お前だって表面上はそうしてても早く聞かせろって思ってるのバレバレなんだよ」
「あはは・・・・」
そういえば掲示板でこっちに向かってる上位陣がいるって話をしていたのを見せてもらっていた。話の流れ的に女性の方がチーザー紫で男性の方がルシオンだろう。
彼らにまでさっきの戦いを見られていたとはちょっと驚きだ。
「待てよ紫。こいつ今治療中だ。終わるまで待てや」
「あぁ?戦闘狂が随分優しいじゃねーか?とうとうその牙折れてへなちょこになったってか?」
「テメェのそういう所が俺は気に食わねぇって前にも言っただろうが。少し待つくらいの忍耐力養えや」
「んなもんで強くなれるんなら苦労はしねぇ。おいお前、さっさと答えろや」
随分荒々しい人だ。なんというか何度言っても言うことを聞かない我慢のできない人。まるで躾のなってない犬のようで・・・・・・あれ?ギルファーそっくりじゃね?
首を動かしギルファーを探すと意外なことに俺の右手をペロペロと舐めていた。正確には右手に付着した白い液体だけど。あ、この状態あれか?機嫌悪い?
「この犬なにアールの血舐めてるのよ!!?」
「いいレイレイ。舐めさせとけ、その方が大人しい」
「・・・・アールがいいならそれでいいけど・・・」
「おいテメェ・・・無視するたァいい度胸じゃねーか」
『・・・いい血だ。アール、この女斬るぞ』
やっぱり機嫌悪いじゃねーか。今の俺ではどうすることも出来ないから好きにやらせるとしよう。どうせ嫌でも尻拭いはすることになる予感はあるけど。
「好きにしろ。討伐されても文句言うんじゃねーぞ?」
「あ゛ぁ゛!?この犬何言ってやg」
「・・・・・紫さん?」
言葉がきれて、ゴロっと落ちたのは紫と呼ばれたプレイヤーの首だった。音もなく。殺気すら感じない刹那の時、ちょっとイライラし始めていたアホ犬がちょっと振るった鋼剣がその首を落としたのだ。
その結果がこれだ。誰ひとり反応することなく、僅かひと振りしただけでトップの首が簡単に落とされた。
『殺してはおらん。話すことも動くこともできんだろうがな。どうせ貴様も蘇るのであろう?ならば蘇る度に何度も首を落とし続けてやろう。光栄に思え、我が刃を味わえるのは我が選んだ者のみだ』
このアホ犬は昔からそうだが、自分が俺にすることは全部許されるが自分がしていることを他人がすることを極端に嫌う。
今回は紫が偉そうな態度を取ったのが気に食わず気晴らしに俺の血を舐めて落ち着かせようとしていたが、最後の一言が自分に似ていたことに腹が立ち首を落としたんだろう。
腐っても最終形態で最強形態で最凶形態。この人混みだろうと狙った相手のみを斬るのは他愛ない。
「これは・・・鋼剣っ!?まさか『鋼牙ノ獣』っ!?」
『ほう優男、我が何で在るかを理解したか。ならば口の利き方には気を付けよ。その小娘と同じようになりたくなければな』
ちなみにこの攻撃、剣聖物語でも存在した鋼剣の隠された能力。『魂身剥離』
その意をもって斬られ身体の一部を損傷すると死にはしないが体と魂が分離しギルファーが解除しない限りその部分の魂が分離し行動できなくなる。
今紫が斬られたのは首。声帯や脳が体から分離したことで声を発することも体を動かすこともできなくなったという訳だ。
白い液体も飛散することなく、ただ首が落ちただけ。これをギルファーが解けばすぐさま切断面から液体が飛散し即座に即死だろう。彼女の生死はギルファーの思うがままというわけだ。
ちなみにこの状態でもこちらの話はしっかり聞こえているし、首さえ斬られなければ動けるし話せる。俺がそうだったから多分そうだろう。
「驚いたな・・・これは下手なことは出来そうにないね」
『ふん。我が気に触れなければここまではせん。我が所有物の治療が終わるまでキサマらが黙るならば我も何もせん。小娘どももさっさと治さんか』
「「・・・・納得いかない」」
それとこのアホ犬、意外と気に入った奴に対しては甘い。自分の所有物と言って守るし意見は尊重する。ツンツンツンツンデレくらいの割合だが。
アホ犬に対してはそれぞれ言いたいこと、思ったことはいろいろあるだろうけども、この場を力で支配したギルファーの言葉に皆が従うようだ。
少なくとも俺以外だが。
「心配しすぎだアホ犬。話すくらい普通にできる」
『貴様は休むことも知らんのか?』
「それならお前は食物を我慢することを覚えろや」
『・・・・・・・』
「俺のことは少なくともここでは俺が一番理解してる。大丈夫だ。心配するな」
『別に・・・・・心配などしておらん。勝手にするがいい』
男のツンデレは需要ないぞアホ犬。
「すまんな、リークとレイレイ二人にはこのまま治療してもらいながら聞いてもらえると助かる」
「それは当然いいけど・・・・・いいの?」
心配そうに見てくるレイレイだが首を縦に振りその旨を伝える。思うことは色々あっただろうけど彼女はそれを了承してくれた。
「隠すことでもないしここまで目立ったら隠すもクソもない」
「・・・・・わかった。ならアール。教えてくれる?あの自爆技」
「自爆技って・・・・血涙雀のことだよな?」
「けつるいすずめ?」
首を傾げる仕草が可愛い。リーク今度向こうでもやってほしい。いやそれは今違う。
「知らん奴いるかもしれんけどある程度は端折るぞ?まず俺は『天匠流』が使える。ここまではいいか?」
知ってる三人は頷くが知らない奴らにとってはそれだけでも驚愕の事実みたいだ。驚く奴、腰を抜かす奴、訳がわからなそうな奴、何それってポカーンとしてる奴様々だ。
「そしてだ。『天匠流』には二つの流派がある。居合い切りを極め超えることを主眼とする『天匠流抜刀術』と戦場でより多くの戦果を上げるために剣を磨く『天匠流剣術』だ」
「・・・・・え?お前まさか・・・」
マー坊は答えにたどり着いたようだ。目を見開いて怪物でも見るような目で俺を見た。
「天匠流剣術には『血眼雀』っていう技がある。これはあえて傷口が広がるように相手を抉り血を大量に浴びて刃に血を通わせる技だ。血を潤滑油として引き抜く速度を上げて違う相手もしくは同じ相手を高速で斬る。ここまでいいか?」
「何もなさそうなので続けるぞ。この技はあえて血を浴びるために相手の動脈などの血液が多く出る部位を的確に、尚且つ素早く抉る技術を必要とする。これを頭の隅に置いておいてくれ」
「次だ。天匠流抜刀術は居合い切りの究極を超えることを目的にした抜刀術だ。その技はたった一つ『鏡雀』しかない。筋肉の動き。空気の流れ、相手までの距離。全てを己の中で把握した上で放つ一閃は高速を超えて音速の域まで至ることもある。けれど決してそれで満足することはない。目指し超えるのは究極だ。その為に天匠流継承者は常に鍛錬と新しい抜刀術の研究を欠かさない」
「俺が使うのはこの二つの流派と流派を掛け合わせた新しい天匠流の形。『超越天匠流』と俺はしている。要は二つの流派の技を掛け合わせて奥義とする流派だ。さっき使ったのは『鏡雀』と『血眼雀』を合わせた俺が現状満足に使える最速の抜刀術『血涙雀』。速度は多分音速を超えて光の速さに届くと自負している」
「待て待て!!?それじゃぁあれだ坊主、お前がそれを使えるのは百歩譲って良いとするがよ?お前はそれをどこで学んだ?そもそもだ。お前は一体何者だ?」
ガンテツの言うことは最もだ。けどここで俺がやってきた剣聖ロールが火を吹くぞ?聞いて驚けよ全プレイヤー全世界諸君。お前らの常識をぶち壊してやろう。
「俺は昔邪神ドゥルゲードを消滅させた。自分で剣聖だと名乗った覚えはないが気がつけば皆が俺のことを剣聖と呼んでいた。そこの犬っころもとい『鋼牙狼ギルファー』とは昔邪神に唆されて世界をぶっ壊そうとしてた馬鹿な幼馴染の…最後には自分の罪を自覚して自分を犠牲に邪神を封印した幼馴染の事を世界中の人に知ってもらいたくて旅をしている時に出会った」
「消滅?僕が知ってる剣聖物語では封印だったと思うけど?」
そこにいたプレイヤーたちはその通りだと言わんばかりに首を振るものや、俺の出任せだと馬鹿にする奴もいる。確かに何も知らないとそう思うだろうな。
「いいや、この男が言ってることは本当だ」
「ガンテツさん?」
「古い昔話だけどよ?剣聖と呼ばれた男は六つの流派を自在に操り、闇に落ちた友人を呼び戻し、その友人の命と引き換えに邪神を封印した。その後剣聖を恨む奴ら、妬む奴らの意思を伝って邪神は蘇った。剣聖は再び邪神に戦いを挑み一度は敗北したらしい。けれど過去から続く邪神と戦った勇者たち、そして幼馴染が残した意思を力に変えて、封印しかできなかった邪神を完全に討伐して世界を救ったって話がある」
それはまさにシークレットモード『アフターストーリー:そして彼は世界を巡る』の話の内容そのものだ。やっぱりエクスデウスはここにその話を持ってきていた。しかもニルスフェアでプレシアたちに聞いた話と同じこと。つまりガンテツさんもそれに似た話を受け継いでいる男ってことか?
「俺の記憶は邪神を討伐した直後から薄れている。だからそこから先の話をしろと言われても俺にはできない。知ってるとしたらギルファーか、その時一緒に戦った奴らだけだよ」
「待ってくれるかい!?一緒に戦った!?討伐したって話も僕としては信じられないんだ。そもそも天匠流をどうやって」
「ルシオンあなたあの公式の発表見てないの?」
「公式の発表?それくら・・・・・まさか?」
リークの言葉を聞いてルシオンは言葉を失った。そうか、既に公式はあの話を発表しているのか。なら話は早そうだ。
「アールはね?『剣聖物語』を『リアルハードモード』でクリアした紛う事なき剣聖なんだよ?」
リアルハードモードクリアという偉業を成し遂げた男がついに世界に降臨した瞬間である!!!
この言い回し何回見ても好きですはい。ニチアサ最高




