26:鍛冶師と
ゲームでよくあるイベント
「流石励久だね。広告に使いたいだなんてすごいことじゃない?」
「そうなんだけどちょっと恥ずかしい」
翌日、いつも行く喫茶店で昨日来ていたメールの話を唯に話していた。流石に一人で決めようと思えず、相談することにしたんだ。
「私はいいと思うよ?そうなればスタッフ公認プレイヤーってことだからチート呼びする馬鹿が出ることないはずだし」
「けどやっぱり恥ずかしいんだよ・・・・」
「でも励久は受けるって決めてるんでしょ?」
お見通しか。正直なところ受けるつもりでいる。公認プレイヤー扱いされるのは恥ずかしいが、チート呼ばわりはなくなること確定だろう。
あとは上手いこと剣聖ロールで乗り切るとして、支障が出れば実力で黙らせればいい。考えが脳筋だがこれが一番有効だったりするときもあるから脳筋も捨てたもんじゃない。
「なら私が言うのは一言だけだね。励久ならだいj「いた!!」・・・なによメス猫」
「あんたに用はないわよ!!あ、店員さんアイスコーヒーといちごパフェ一つ!」
いつの間にか隣に移動している唯、そしてもともと唯がいた場所に腰掛けるのはレイレイこと綾坂湊。どこにいるか教えてないはずなんだが街中探していたのだろうか?
「女狐あんた励久のこと独占しないでよ」
「私の彼氏よ。あんたこそどっかいけ。ただの幼馴染のくせに」
「はっ、幼馴染の縁舐めるんじゃないわよ。彼氏彼女程度で離せると思うな」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
「頼むから喧嘩しないでくれよ?ここお気に入りなんだから」
眼力だけで窓ガラスでも割れそうだ。傍から見れば修羅場に違いないのだが見慣れてしまった俺にとってはただの幼馴染同士の喧嘩でしかない。暴れないように叫ばないようにしとけば可愛いものだ。
「湊、俺に何かあるんじゃなかったか?」
「あ、そうそう。まずはこれ見て」
「何よこれ・・・プラクロの掲示板じゃない」
「女狐に見せたつもりないんだけど・・・まぁいいや、ここ」
483:レイン
鋼牙の傷が消えたんだが
484:名無しの時代人
え?鋼牙の傷ってあの鋼牙の傷ですか?
485:名無しの時代人
何が起きたの?
486:ルシオン
僕のも消えているんだけど。誰か何か知らないかい?
487:チーザー紫
傷って消えるのあれ
488:名無しの時代人
噂では鋼牙ノ獣倒せば消えるとか言われてるらしいっスよ?
489:名無しの時代人
倒せるなら誰も苦労してない
490:ルシオン
でも傷は確かに消えている。そういうことじゃないかな?
491:チーザー紫
あの化物倒した奴がいるってこと?それこそ化物じゃない。
492:レイン
最後に目撃情報があったのは確か二日前のグーデンドール渓谷だったはず。となればそこまで遠くには行っていない筈だ
493:名無しの時代人
ニルスフィア近いですね。そういえば確かリークさんマー坊さんレイレイさんが昨日ニルスフィアにいたとか
494:名無しの時代人
もしかしてあの三人組んで倒したとか?
495:レイン
可能性は十分ある。戦闘狂に暗殺者に魔術女帝だ。実力としては十分すぎる。今彼らはどこにいるかわかるか?
496:名無しの時代人
なんでも知り合いがプラクロ始めたから一緒にパーティー組んでやってるらしいですよ?
497:ルシオン
あの三人リアルで友人だったのかい?僕としてはそっちのほうが驚きなんだけど?
498:ゴーレ
その人なら昨日会ったよ。喧嘩止めてたしあの二人が素直に言うこと聞いてたからかなりの人間だと思う。
499:チーザー紫
その時点でその友人に興味沸いた。昨日の今日ならエーテリアだな。
「紫が動いてるのね」
「うん。ルシオンとレインも動いてる。ちょっと面倒かも」
「誰それ?」
「大手クラン『天界調査団』のクランマスターやってる『ルシオン』、同じく大手の『剣術同好会』のサブマスターやってる『チーザー紫』どっちも敵に回すのは避けたほうがいいレベルの人望持ちだよ」
大手が早速動いてるってことか。出来ればもう少し後に出会いたかった気持ちはある。そのほうが色々と交渉素材も手に入っていたかもしれないし。
「どうする励久、今日早めに始めて私の魔術で次の街まで一気に行く?」
「いや、腹括るさ、どうせ広告にも許可出すつもりだったんだ。諦めるよ」
「広告?なにそれ?アタシ知らない」
「仕方ない。メス猫、いい?一度しか言わないわよ?」
こうして昼下がりのちょっとした時間が過ぎていった。周りのお客からは嫉妬やらこの状況に対応している事実に対する視線などを俺に向けられていたけど。いつも通りのことだった。
『ふん。目覚めたか』
「先に聞くが勝手にもの食いに出歩いてないだろうな?」
『貢ぎ物は素直に受け取るのでな我は』
「この野郎・・・・・!!」
プラクロへと再びやってきた俺を出迎えたのは戻る前に渡したブドウではなく、誰かから奪う、もしくはもらったであろう何かの肉を食べているギルファーであった。
なんでもジョブにて『狩人』と呼ばれているジョブがあり、その中にモンスターを使役できるスキルがあるそうだ。
その為、ギルファーも使役されているモンスターと判断されて誰も違和感を抱かなかったそうだ。
ちなみに習得条件は森でモンスターを100体以上倒し、そのモンスターの素材を200個以上集めることらしい。
なので初心者でもやれば習得できるため珍しくないらしい。ペットに飢えているプレイヤーにとっては何よりも代え難いジョブだそうだ。
「まぁいい。行くぞアホ犬」
『今日はどこへ行く。美味な物はあるのだろうな?』
「鉄でいいなら鱈腹食わせてやるから安心しろ」
『雑味がないならばそれでも良い』
結局食うのかよ。
マー坊とレイレイは用事で少し遅れるとのこと。なので俺とリークの二人と一匹でログアウト前に受けていた依頼の鍛冶屋に足を運んでいた。
なんでも町外れに工房を構えている変わった鍛冶師なんだが腕は確かで今でも贔屓にしているプレイヤーは多いんだとか。
「私の短剣『フェアラートヘルト』もここの鍛冶師に作ってもらったやつなの」
「昨日使ってた短剣をか?それってかなりすごくないか?」
限定奥義『サイレントスクリーマー』を使えるようにする短剣を作ったのがここの鍛冶師とは恐れ入る。
あの切れ味を二つ目の町に住む鍛冶師が作れるのか。ということは街の場所で手に入る武器の強さは決まるわけじゃなさそうだ。
それにしても相変わらずのネーミングセンス。『静かなる叫び声』に『裏切りの英雄』ってお前。裏切った英雄がやらかした大虐殺ってか?怖すぎるだろ。
あれか?使ってるうちに狂気に呑まれて暴走するまでがお約束ってか?
「大丈夫。それはもう私のモノだから。この短剣はもうただの武器」
「あっそ、なんか納得したわ」
「でしょぉ?えへへ・・・」
こいつなら狂気を凶気で呑み込んでも何も違和感ないわ。ってか狂気宿ってたのかよ?大丈夫かここの鍛冶師?
たどり着いた鍛冶屋はなかなかいい作りで儲かっているのがよくわかる。ガラス越しに見える一級品の武器に防具、樽に入れられている安売りの剣もあるがどれも見てわかるくらいには素晴らしい作品だ。
リークの短剣のことを聞いてなければ素直に凄いと思えたんだろうけど、聞いてしまうと悪魔にでも魂を売ったんじゃないとか疑ってしまう。
「こんにちは。ガンテツさんいる?」
「あらいらっしゃいリークちゃん!!ちょっと待ってね・・・アンタ!!リークちゃん来たよ!!」
出迎えてくれたのはTHEオカンというべき風貌の女性。どうやら依頼主の奥さんみたいだ。リークを見て嬉しそうな顔をしていたから関係も結構築けてるんだろう。
呼ばれて奥から出てきたのは顔と同じくらいはありそうな大きなハンマーを担いでいる2mはある巨体の男性。この男がさっき呼ばれていた鍛冶師ガンテツさんみたいだ。
「お嬢ちゃんか、どうした?」
「久しぶりガンテツさん。今日の私は付き添い。用があるのはこの人」
「初めまして。アールといいます」
「・・・・・ふん」
鼻で笑われたんだが?
「どうせ嬢ちゃんに媚売って俺に会いに来たボンクラだろう。帰れ」
「ちょっとアンタ!!」
「俺の作品はお前みたいなボンクラが使える代物じゃない。わかったらさっさと帰れ」
「・・・・アールはボンクラじゃないよガンテツさん」
「悪いな嬢ちゃん。俺は自分の目で見た客しか信じない。そこのボンクラは身に付けてる作品はいいが実力が伴ってない」
そこまで見抜くのか。大した観察眼だ。確かに装備とレベルは全くもって伴っていない。レベル1の勇者が魔王城の最深部の宝箱から入手できる竜王の剣とかいう名前の最強武器を最初から持っている感じだ。
そりゃ作品を大事にする鍛冶師には面白くないわな。
「確かにあんたの言うとおりだ。この装備は今の俺じゃ装備に扱われてる状態だろうよ」
「・・・・・・ほう?続けろや」
「でもこの装備は大事な贈り物で丹精込められた作品だ。俺の身の丈に合わなくともそれを見越した上でこれを俺にくれた職人の思いを無駄にはしたくない」
「ふん。その実力でそこまで分かってるのかボンクラ・・・気が変わった。要件を言え」
話せばわかる職人はとてもいい。話が通じない自分勝手なのに腕がない職人のせいでそういう人が正しい扱いをされなくなることはよくある。そのせいで本当の腕を持つ職人もそいつらと同じような扱いをされてしまうことが多い。
だから腕を持つ職人は最初あえて突き放す言葉を投げ捨て、訪ねてくる客を試すのはよくあることだ。特にプライドと腕がある職人ほど話をすべきなんだ。
希に腕とプライドがありながらも話が全く通じない職人もいるんだけどな。このガンテツさんは違うらしい。
「あんたが出した依頼を受けに来た。ついでにこの剣を打ち直して欲しい」
「依頼?・・・あぁ、そういえば気まぐれで出してたか。悪いが今のお前に依頼を受けさせるつもりはない。剣は見せろ。仕事の話は別口だ」
取り出した新人の剣を受け取ると鞘から出してその刃を見る。剣は持ち主を語ると鍛冶師は言う。剣から俺という人間を見ているのだろう。
「・・・・・・ふん、まぁいい。1000Dで打ち直してやる。どうする?」
「それでいい。アンタほどの男に打ち直してもらえるなら尚更な」
「一時間待て。ついでに依頼は完遂したことにしておくから消しておけ」
―――片手剣『新人の剣』を失いました
―――『サブシナリオ:鍛冶師からの挑戦状』が鍛冶師ガンテツにより破棄されました。
サブシナリオそのものが破棄されてから一時間。店内の武器をリークと見ながら打ち終わるのを待っていると奥から剣を持ったガンテツさんが出てきた。
「終わったぞ。受け取れ」
「ちょっとアンタ。投げなくてもいいじゃないかい」
投げ渡された剣を受け取る。見た目は大きく変わることはないが刃は前よりも鋭く、見事に打ち直されていた。
「・・・・フリしてるわけじゃなさそうだなボンクラ」
「これでも剣には愛着が湧く方でな」
「前よりも少し厚さを薄くしておいた。お前がどういう剣士かは知らんが鞘から何度も繰り返し抜刀してるのはわかった。そっちの方がお前にはあってそうだ」
「それは助かるよ。ちょうど少し軽く出来ればと思ってたんだ」
「気が向いたらまた打ち直すくらいはしてやる。わかったらさっさと・・・」
―――ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・!!!!
言葉を遮るように鳴り響いたのは鐘の音だった。その鐘の音はなにか時間を知らせるような音ではなく、緊急事態を告げる鐘の音であることを本能的に感じ取った。
次回あるイベントが発生・・・・・・・・




