299:実力差
弟マクリスはなんとなく気づき始めています。しかし確証はないのでとりあえず討つつもり。
俺の放った刃は残念ながら空を切った。あの土壇場で姉弟ふたりは進む機動と速度を変えて、射程範囲外へと出ていた。避けるかなぁと思っていたけどここまでちゃんと回避できるとは思わなかった。
相当場数と経験を積んでるなこの姉弟。
「『鏡雀』・・・賊風情が・・・師匠と同じ技を何度も・・・殺す」
「姉上、ただの、賊ではありません。冷静さを失えばこちらも危険です。あの賊はもしかして」
激情間際の姉と、結構落ち着いている弟。相性はかなり良い。そして尚且つ双方共に発言は違えどこちらへの警戒心を一段上げている。
そして騎士団の面々だが、放心、とまではいかずとも驚愕と驚異で身体を固くしてしまっている。
「マクリス、ミリアス! お前たちで足止めを! 騎士団各位は包囲網を緩めるな!! ここで必ず打ち取る!! 覚悟がない者は前に出るなよ! 死ぬぞ!」
グルドールさんの力強い声が固まりかけていた騎士団に勢いを取り戻させた。演習・・・というか抜き打ち試験のようなことなんだがやっていることはマジで賊の討伐である。
今更だけどこれ後で大丈夫かな? ちょっと不安になってきたかも。まぁなんとかなるか。
「急に静かになったな賊」
「今更焦り・・・ではないです。ここからが本領という事でしょう。姉上、ご注意を」
ごめんちょっと焦ってる。主に今後に関して。けど虚勢は張るよ。
「流石に遊んでいられるほどの相手じゃないっしょあそこの御仁はよ?」
「ふん。賊風情でも師匠の偉大さは感じるか。いいだろう。慈悲として痛みなく殺してやる」
「安心してください。せめて苦しまないようにはしてあげます」
殺気がより一層濃くなる。マリアーデが見ている手前無様は晒せないってことか。にしても師匠ねぇ。なんだかんだ言いつつマリアーデの奴、新しい弟子取ってたんじゃねぇか。ちょっと嫉妬。
「「ッ!」」
姉の方が駆け出してきた。そこから1テンポずらして弟が身を低くして吶喊。盾に何かを隠しているような気配を感じた。
「『鏡雀』」
牽制としての一閃を放つが、当然当たらない。足を止めることなくしっかりと躱し、俺への距離を詰めてくる。振るわれる姉の『ユウダチシグレ』による風の刃が、獲物の首を断つために向かってくる。
「『風瓶エリシオン』接続『月黒』」
跳び上がりちょうど刃の腹に乗るように着地、その勢いに乗ってもう一方から駆けてくる弟との距離を離す。このヴェノのおかげで装備破壊の危険が下がったとは言え、少々不安もあるけど、あれ? 破壊無効ってヴェノがくっついた腕だけだっけ? 後で再確認しとこう。
弟は嫌そうに顔をしかめながらも向きを変え、再度向かってくる。
同じく姉も心底この状況を嫌そうにしながら、振るう向きを横から縦に変えて俺を振り落とす。というか投げ飛ばされた。放り出された空中で身体を捻りながら体勢を整え着地ポイントを確認。
「ハァァァッ!!」
着地のタイミングを見計らって襲いかかってきたのは先程の女騎士と数名の名も知らぬ騎士。グルドールさんが先ほど『覚悟がないものは前に出るな』と言っていたが、この女騎士始めとする皆さんは、ちゃんと覚悟があっての上で前に出てきた。
やっぱり騎士団の誇りとか覚悟とかは強いみたいだ。良いよねそう言うカッコイイ感じのやつ。俺は好き。
「四之型『月渡』」
けど簡単にあたってやるつもりはない。大乱闘のゼ○スーツ○○スの下Bの如く身体を捻り空中ジャンプ。更に不練を加えてサマーソルトでもするかのように視点を下へ。そして左手には引っ張り出した『恨血木の破斧』。
「十二宮奥義『重腕キャンサード』!!」
力任せに腕を大きく振り、衝撃と共に地面へと墜ちていく。地面に叩きつけた『恨血木の破斧』から波紋のように広がる。通常は相手を衝撃と共にぶった斬る奥義だが、今回はその破壊力を利用した。
ごく僅かではあるが、魔法でよくある『アースクエイク』的な感じで地面が揺れ、集っていた騎士団がその姿勢を崩した。そして身を崩した一同では、次の一撃を回避することも、ましてや防御することもできない。
「させると」
「思ったか賊」
「だと思ったよ」
そのままなぎ払い、まとめて吹き飛ばそうとしたのだが、姉弟は真正面から踏み込んできて俺の攻撃を押し込める。流石に同じ騎士団を見殺しにしたりはしないよな。結構力あるなこの姉弟。
「『魔法剣:炎』ッ!!」
ゴウッ!! っと音を立てて真横から振るわれた一撃。姉弟の押す力をそのまま利用させてもらい大きく跳ぶ事でそれを回避、眼を見やればそれを振るっていたのは先程の女騎士。そんな芸当まで使えるのかと正直ちょっと焦った。
「余の近くに来るとはいい度胸であるな?」
「ヤベッ!!?」
訓練ということを悟られないためなのか、はたまた本気で首を落としに来たのかは定かじゃないが、マリアーデの近くに跳んだ瞬間、マリアーデが抜刀。迎え撃つべく『天籟刀:ズイカク』を抜刀するが少々出遅れる。
勢いを完全には殺しきれず、その勢いに飲み込まれて元いた場所まで吹き飛ばされた。当然体勢を崩して吹き飛ぶ俺などこの集団にとっては絶好の獲物。特にこの姉弟にとっては尚更である。
「死ね」
「さようなら」
それぞれが首筋と胴体めがけて別々の方向から刃を振るう。それだけではなく、騎士団から静かに聞こえるが、魔術の詠唱もしているらしい。俺へのデバフなのか、味方へのバフなのかは定かじゃないけど流石にこの状況でそれは勘弁願いたい。
「艶やかに響け想愛の唄!『艶姫鳳戦刀:コンゴウ』!!」
『『―――LAAAaaaa!!!!!―――』』
――――◇――――
『艶姫鳳戦刀:コンゴウ』特殊能力『帰回愛』『艶姫唄』発動
――――◇――――
『『『『『ッッ!!?』』』』』
刃を振るう姉弟も、騎士団もみな揃って顔をしかめバランスを崩した。流石に魅了する唄への耐性は高くなかったようだ。卑怯とか言うなよ? 誇りはあっても、戦いに変なプライドを持ちすぎると自分の死期を早めるんだから。
にしてもやっぱり使い勝手いいな『艶姫鳳戦刀:コンゴウ』。能力発動と同時に体も元気になった。これアレか? 相手から視線を魅了で奪うからそれを力に変えて俺に与える感じになってる?
何その超強化、いや超真化? やばくない?
そんな歌声で身動きが止まった面々の頭上を吹き飛び超えて、今度こそ安全な場所へ着地。そのまま『艶姫鳳戦刀:コンゴウ』の『帰回愛』『艶姫唄』を開放したまま一同を見据える。ちなみにマリアーデは全く効いていないのか涼しい顔をしていた。師匠流石です。
《おいこら、これでは訓練にならんではないか。それを止めよ》
《へいへい》
意思疎通ができると言葉は不要なのである。念話的なものじゃなくて、視線がそう言っていた。数年来の付き合いだしこれくらいは出来る。マー坊らともこれくらいは朝飯前だ。
という訳でイドルとクレイにもひと芝居付き合ってもらおう。
《『仕方ナイナ』》
『時間ダ、アトハ頑張レ』
『LAa〜!』
シュンっと二人が現れて、そう言い残して消える。そう言う演出だけど。と、同時にふたりの声が消えて止まっていた一同が再び動き出す。驚きもあっただろうが即座に俺へ視線を向けて更に警戒レベルを上げている。
「ったく、鬼札まで使わせやがって、四代目様まで来るとやっぱ計画狂うぜ」
「ほぅ、余のことは知っていたか。国賊にしては教育がなっておる。今投降するならば多少の口添えはしてやるがどうする?」
「へっ、それで投降するくらいならこんなことしてねぇっての」
「ならば死ぬ覚悟もあってのことだろう?」
「へっ? いきなりどなたぁっぁあっっ!!?」
あっぶねっ!!? 後ろから急に声が聞こえたと思ったらクソデカイ剣をおもっクソ叩きつけてきた御仁。マジで死の気配を感じて這うように回避はしたけどちょっと掠った。
「将軍閣下!」
「遅くなってすまない。だが賊と聞いていたが・・・なるほど」
将軍閣下と騎士の一人に言われた御仁、いや武人? まぁ剛剣士というのがしっくり来る感じのイケオジボイスだった。と言うか竜だった。竜人だった。
帝国騎士団大将軍登場。
細かいことは気にしないでね?




