275:蹂躙劇
Aさん実はモーションテストの担当も経験済み。はい。
たった一人により引き起こされた殺戮現場。わずか2分の間に、12名のシナリオ参加者が葬られた。それもなす術もなく、一方的に。
単純明快。Aは相手の首を刎ねているだけ。大剣を抜き、相手との距離を詰めて首を押さえ、動きを封じてから切り落とす。
言葉にするのは簡単だが、やっていることはそう簡単なことではない。人数差があるのにも関わらず、12名を殺るまでカスリ傷一つも負うことなく、Aはこの状況を作り出したのだ。
「次」
さらに厄介なことに、殺気を感じないのだ。ただ歩いているように、無心のままでいるかのように進み、獲物と目を合わせる。目を合わせた時には既に獲物の運命は決まっている。
まるで組み込まれたパターンのように淡々と参加者たちを葬っていく姿は死神と何ら変わらなかった。もし彼ら参加者が本来持つ『AS』『UtS』等を持っていれば話は少しだけ違ったかもしれない。
だが、無い物ねだりをしても状況は変わらない。また一人、一人とほぼ無抵抗のまま殺され、戦線が崩壊していく。
迎撃、もしくは迎え撃とうと参加者たちも奮闘しようとするが、予測も推測も、やられた参加者の共通点もない現状では、近づいてきたら攻撃をすることが精一杯だった。
その精一杯ですら、まるで吹き抜ける風のように回避されてしまっているのだ。何もできずにまた一人、首を跳ねられて死んでいく。ここまで生き残ったこと、身に付けた事すべてを否定されるがごとく死んでいった。
「こ・・・こんな相手に勝てるのかよ!!?」
「泣き言言う暇あるなら相手をよく見ろ!! 倒すんじゃない!! 生き残ることを考えて戦え!!」
「キャァァァ!!!?」
「悲鳴を上げる元気を戦いに回しなさい!!! まだ始まったばかりなんです!! 心を強く持ちなさい!!!」
恐怖に駆られて動きを止める者もいれば、そんな彼らに怒声を飛ばして立ち上がわせようとする者。共通しているのは、この場にいる全員から考える余裕が消し飛んでいたことだろう。
考える前に行動するという本能のままに動く参加者たち。しかしただの獣と同じように本能でしか戦えなくなった参加者など、Aにとっては苦戦するまでもない相手だった。
「つg・・っ!!?」
「シャァ!!」
ただ一人、チーザー紫を除けば。彼女は、一見法則もなく動くAの動きに見つけた僅かな癖を見抜き、落ちてくる棒を掴むがごとく、反射神経で捕捉したのだ。
自分の横をすり抜け、次に狙いを定めたシュティに向かうAの顔面に裏拳を叩き込んだ。
走っていた勢いと、裏拳による衝撃がAの顔面を突き抜け、その場で大きく一回転することになった。地面に倒れたAに追撃を叩き込もうとしたチーザー紫だが、その前にAは素早く回避して参加者たちから距離をとっていた。
戦闘が始まってから初めて負った傷。しかもかなりの勢いがあり、作品が作品なら『急所攻撃』『会心の一撃』『必殺』などというような受けてはいけない一撃だっただろう。
「く・・・くくく・・・アーッハッハッハ!!!!」
それなのに、Aはその笑みを崩さなかった。寧ろダメージを負わせたチーザー紫に対してより一層笑みを浮かべ、笑い声を上げていた。
「一撃!! たかが一撃!! されど一撃!! 私に当ててみせたか!! 面白い!! それでこそあの方と戦う資格があるというものだ!!」
「ちぃっ! 大したダメージじゃなさそうだなおい!!」
「大したダメージさ!! このままでは私は死ぬだろう!! だからこそ!! だからこそ面白い!! 私を殺せない者がこの先に進む価値などないのだからな!!!」
自らダメージを隠そうともせず、もう一撃受ければ死ぬと宣言したA。それはハッタリではなく、顔の骨が逝って脳にダメージを受けたのか、右目と鼻から血を流し、ふらつく身体のままに、笑い声を塔に響かせている。
「撤退して私が死ぬのを待つなんてつまらないことをしないでくれよ諸君ッ!!!」
クラクラしていて恐らく先程のような動きはできないだろう。それほどの損傷を脳に受けたのだ。でもAは逃げることもせず、逆に逃げずに戦えとまるで参加者を鼓舞するように声を張り上げた。
「するかんなことっ!! テメェをちゃんとぶっ倒してデカデカと凱旋してやらぁ!!!」
チーザー紫はそういうが、相手が死ぬまで待つ、逃げ切るなどの方法が最も賢いだろう。しかしこのチーザー紫に対して意見する者はいなかった。殺られたままで終わるのは彼らだってごめんだった。最後の一撃くらいは叩き込んでやりたいと思っているのだから。
ふらつきながらも力強く、今までよりも速いように感じるAの突進。チーザー紫はそれに応えるように、率いてきた者たちの先頭に立ち迎え撃つ。
「オォオオオオオ!!!!」
「ハァァアア!!!!」
ふたりの身体が重なり合い、それぞれの剣が火花を散らす。Aは傷を負っていないかの様な動きで攻め立て、チーザー紫も全身全霊を持って剣を撃ち落としていく。
Aが仕掛ければチーザー紫が出を潰し反撃に転じる。その反撃を視て回避し、再び攻勢に移る。目まぐるしく攻防が入れ替わり、第三者が入り込む隙すら存在しない。魔法を使えたのなら話は変わるが、都合よく魔法なんて存在しない。
手を出せばチーザー紫が有利になるかもしれないし、不利になるかも知れない。そんな絶妙の駆け引きを、剣を交える二人は続けていく。
だが、決着は想像よりもあっけなく、物語のようにドラマチックなものにはならない。
「ッ!!?」
「ゥラァ!!!」
地面に落ちた血に足を持って行かれてAの足元が崩れた。その一瞬の隙にチーザー紫は、己の剣をAの心臓へと突き立てた。
「カハッ・・・私の負けです・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・よかったじゃねぇか・・・。体力尽きるなんてつまらねぇ負け方しなくて済んでよ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
一時の交戦の中、チーザー紫の限界も近かった。この勝利を実力でもぎ取ったと彼女は豪語しないだろう。まさに『運命が味方した』と後の彼女は語るだろう。
しかし、今この場においての彼女は一軍の将、そんなことを今言えば士気が落ちるのは考えずともわかっている。故に彼女は強がりであろうとも高らかに告げる。
「聞け!! このフロアの超えるべき者は俺が超えた!! テメェらも怖気付かずに次を超えて見せろや!!!」
「「「「「オォオオオオ!!!!!」」」」」
落ちていた士気が再び息を吹き返す。貫かれ地面に横たわるAは悔しそうに、されど満足そうに表情を変えて多くを語らず、静かに口を開いた。
「アルトス様・・・貴方に出会えて・・・ほんとうに・・・よか・・・った・・・」
彼が生涯をかけて従えるを決めた主への感謝と、そして別れの言葉を告げる。彼は湧き上がる参加者たちの声の中、そんなつぶやきが誰に聞こえるわけでもなく、ただ静かに目を閉じた。
そして参加者たちは次のフロアへと突き進んでいく。次に待ち受ける者を超えて、頂上で待ち受ける者に会うために。
――――◇――――
「アルトス殿。Aが逝きました。貴方への感謝と共に」
「そうか・・・」
Xから、この塔へと挑んできた者たちを迎え撃ったAが死んだことを伝えられた。この塔に蘇った時から、このような別れが来ることは覚悟していた。
そしてこの塔にいる者は皆、”それでも”と言ってこの場に残っている。死の運命を覚悟し、それでも尚、最後まで抗うために、俺と共に戦うと決めたのだ。
ならば彼の死を悲しむのではなく、彼の抗うことを選んだ強い意志を、残された者が受け継ぐべきなのだ。
「X」
「はっ」
「死ぬのが怖いか?」
「今更ですよアルトス殿。我らは一度死んだ身。それがこうして再び貴方と出会えた。たとえ待ち受ける運命が死であろうとも、我ら一同思い残すことは何もありません。貴方の為なら、我らはこの命すら捧げます」
「酔狂な奴らめ。狂人と言われても知らんぞ?」
「夢のために世界を敵に回した貴方様についていくと決めたのです。それこそ今更ですよ」
俺の夢は叶うことはなかった。だが、俺の夢を託すことはできた。そして運命に決められた死が待ち受けておいたとしても、今こうして生を受けたのならば。
託した夢がどうなったのか、知りたいと思うのは必然だろう。
「見せてみろ。俺が知らん未来に生きる命たち。お前達が紡いできたモノを俺に魅せてみろ」
そして精々、俺を失望させてくれるなよ?
死ぬことを喜々として受け入れる変態集団 (っょぃ)




