274:塔にて待ち受けていた者
ついに攻略開始
「攻略を開始する。総員ここまで来たすべてをぶつけてこのシナリオを攻略するよ」
「シャァ!! 覚悟決まった奴らは俺に続けぇ!!」
時間にして日の出から一時間後。ついにシナリオ参加者達による『記憶の塔』攻略が開始された。リークの言葉を合図として先陣を切るのはチーザー紫を始めとする一派。
彼らシナリオ参加者が決めた攻略手段は単純明快。先陣を切る部隊が塔内部の安全を確保し、考察班と第二陣第三陣の足がかりを作ること。
可能なら塔の完全攻略もしてしまうというものだった。個人での功績ではなく、総員の功績としてクリアを目指す方針であるため、犠牲ゼロで済むとは思っていないからこその手段であった。
だがその先頭に立つのが今まで一つの街で参加者たちを率いていた『チーザー紫』ということもあり、彼らは捨石になるつもりなどなかった。
全貌が見えないからこその大胆不敵な行動。あぶり出しにもなるし、情報を後続に残せる。相手が格下なら蹂躙できる部隊編成。
チーザー紫率いる部隊が塔の内部へと足を踏み入れた。
「なんだこりゃ?」
塔へ足を踏み入れた誰かが口から漏らした言葉。そうとしか言い様がなかったのである。塔内部は吹き抜けとなっており、外周に上へと続く螺旋階段が永遠と伸びている。
そして何より、外から見たよりも内部はかなり広い。階段の先にはいくつものフロアがあり、いかにもな雰囲気を持っていた。その数は最上段を含めて28フロア。
まるで登って来いと行っているかのように上に伸びている階段に意気込んでいたプレイヤーも思わず気が抜けてしまった。
もっとトンでもない何かが待ち構えているとか、最初からボスが待ち構えているくらいのことを想像していたんだが、想像を逆の意味で超えたものが待っていたのだ。流石に気が抜けてしまう。
「なんか・・・思ってたより普通・・・」
「俺もっとこう・・理不尽なものがあると思ってた」
「階段の先に居る敵を倒したらクリアなんてなんかかなり優しい?」
そう思っていたのは、今作『プラネットクロニクル』から参戦したプレイヤーに、最近始めて都合よく今回のイベント環境に適合した新規プレイヤー諸君。それにしたって想像を絶する理不尽が待ち受けていると想像しているのはどうかと思う。
そんな彼らを尻目に、真の熟練者諸君は、悪寒を感じていた。
「お・・・おい普通”過ぎる”だろこれ・・・!!!」
「絶対にヤバイ!!」
「あのフロア絶対何かある!!!」
疑うことを忘れない。普通の中にある理不尽というものを知っているからこその恐怖感であった。寧ろ疑わなければ理不尽に殺されることも十分にありえることなのだから。
「・・・・」
しかしここで足踏みしているわけにも行かない。先頭に立っていたチーザー紫が何か言うことなく階段に向かっていく。
チーザー紫を知る人は知っている。どんな時だろうと声をあげて士気を上げながら進む彼女が本気で警戒しているのだと。
そんな彼女に続くように、参加者たちは階段へと向かっていく。階段を一歩一歩確認するようにゆっくりと進んでいく。外壁に反対側の様子など、小さなこと一つでも見逃さないように注意しながら進んでいく。
緊張感を持ちながら進んでいく彼らをあざ笑うかのように、彼らはあっけなく最初のフロアまで登ることが出来てしまった。
フロアには三つほど外壁へ向けて扉がついており、それ以外に目立ったものはない。扉も階段とは全く無関係の位置にあるため、無視して上に向かうことも十分可能だろう。
「ミー。あの扉調べてこい。俺はこっちだ」
「部隊長に何かあったらどうするんですか。ツムグリさん、ライトニングさん。お願いできますか?」
「えぇー・・・絶対なんかあるヤツぅ・・・」
「諦めなよツムグリ。寧ろなんか見つけたら君のものだよ?」
今回塔攻略の際に全員が同意したことがある。塔の中では部隊長の指示に従うこと。もし何か見つけたら報告はしてもらうが、見つけた物は、第一発見者が好きにしていいということ。それがなんであろうと自由にしていいのだ。
まぁこれくらいなければ彼らだって素直に同意はしなかっただろう。誰だって目に見える報酬は欲しい。人間だもの。
グダグダと言いつつ、三名は扉に向かって歩いていく。
「別に何もありませんよ? あっても生活感のあるものくらいです」
「っ!!? 全員警戒態勢!!」
いきなり聞こえた声に反応したチーザー紫はすぐに指示を飛ばす。流石は今日まで生きてきた参加者たちである。第一声が聞こえた瞬間にペアとなりそれぞれの死角を補い合い、全集警戒をしていた。
そんな参加者ではない声の主を探すチーザー紫。すると声の主は感心したように声を漏らしながら階段の上から降りてきた。
「初めましてこの時代ではない時代よりの来訪者さんたち」
「チッ、こっちのことは知ってるってか」
「一人一人の事は存じ上げませんが、あなた方がこの時代で生まれた人ではないことくらいはわかります。自己紹介がまだでしたね。私はA。無論本名ではありませんがまぁいいでしょう」
自らをAと名乗る仮面の人物。仮面をつけていること以外に目立つことといえばよく見るアーマープレートと、背に担ぐ馬鹿でかい大剣くらいだろう。
それ以外はいたって普通の人物。仮面をつけている時点で普通とは言い難いのはこの際どうでもいいだろう。
「よくあるセリフではありますが、私を倒さない限り先へは進ませません」
「なんだ? 進ませませんってことは、素通り出来るもんならしてみろってことか?」
「そういうことです。もし数人程度で押さえ込めるのならばどうぞ押さえ込んでください。けどまぁ・・」
”私から逃げる程度の人間が先に進めるとは思いませんがね?”
明らかな挑発だ。Aと名乗る人物が言うように、数人を残して押さえ込み、上に進む方が得策だろう。もしくは扉の先を調べたり色々したほうがいい。
だけど忘れてはならない。第一陣にいる彼らは実力者の集まり。迫り来る驚異に立ち向かい、道を作るのが彼らの使命だ。
例え挑発されなかったとしてもやることは変わらない。
「上等だテメェ。殺される覚悟は出来てんだろうな!!」
「死ぬ覚悟も、殺す覚悟も出来てますよ。だから私はここにいます。これ以上の言葉が必要ですか?」
「テメェら!!蹂躙しろぉ!!!」
ついに、塔での最初の戦いの火蓋が切って下ろされた。Aと名乗る人物に立ち向かうのは20人の精鋭たち。普通に考えればどちらが有利なのかなど、考えるまでもない。
そう。普通であるならば。
向かってくる時代人たちを見ても、顔色一つ変えず、Aは手を大剣へと伸ばす。その表情は獲物を捕らえた捕食者のような恐ろしい笑みであった。
「さぁ、狩りの始まりだぁ!!! 俺たちを楽しませろぉ!!」
声と共にAは体勢を低くして駆け出した。その速度は今走っている誰よりも早く、誰よりも鋭い走りだった。Aはそのまま数人の隙間を縫って彼らを通り過ぎていく。
そして捉えた最初の獲物の姿。後方に下がり矢を構えていたツムグリに狙いを定め一気に飛びかかった。
「俺かよぬべらっ!!?」
懐に入られた弓使いに為す術などなかった。そうだとしてもツムグリだって今日まで生き残ってきた猛者であることは違いない。誰よりも危険に関して敏感だった彼が、視線を合わせるまで自分が獲物であることに気づくことができなかった。
首筋を的確に捉えられたツムグリはそのまま影まで連れ去られていく。その姿を見て彼らが救出のために動いたのだが、既に遅かった。
「まず一人」
首と体が別れを告げて、驚きの表情のままツムグリはこの世界から意識を手放していた。傷口からは噴水のように白い血を吹き出しながら、光の粒子となって消えていく。
大剣と身体に血を浴びたAはそれを気に留めることもなく、次の獲物めがけて駆け出していた。
Aの趣味。
動画鑑賞。アニメ拳法(主に暗殺者風)の練習。
肩書き
・エクスゼウス創立初期メンバーの一人。現在29才。子供が今年で9才。妻は美人と近所で言われている。




