273:記憶の塔へ集結した者たち
ついに始まるイベントの大目玉
実は久しぶりに番外編更新しました。とあるプレイヤーに視点を置いています。また、本編より少し先のお話になるので多少のネタバレがあるかもしれません。
まぁ知っても知らなくても大きくは関わりませんので宜しければどうぞ。
「おぉ! ルシオン君にチーザー君!! こうして顔を合わせるのは三週間ぶりではないか!!」
久しぶりにあった友人に心を躍らせているのはニコニーコだった。彼は街での慈善活動を始めとするヒーロー活動に勤しみながら、その人望と、人柄から多くのシナリオ参加者をまとめあげていた。
「テメェは相変わらずデケェしウルセぇよ」
そんなニコニーコに対し、暑苦しいという態度を隠そうともせずにしているのは、同じく街でシナリオ参加者を纏め上げたカリスマ。
チーザー紫。ニコニーコが行動で人を寄せ付けるのならば、彼女はその存在そのものが人を寄せ付けるという感じだ。
「まぁまぁチーザーさん。ニコニーコさんも嬉しいんだよ。なんだかんだ文面では会えても、こうして話せる方がお互い気分がいいからね」
そしてこの三人の中で、カリスマ性が最も低いながらも、戦場を見渡す千里眼のような洞察力と、放っとけない感を醸し出すことから、ひとが集まってくる人物、ルシオンもまた街の参加者たちを今日まで率いてきたのであった。
本来はそれぞれ別のクランを率いていたり、いなかったりするのだが、今回は配置された街は全員がランダムであり、さらにデスペナルティもあることから、その街々で集結してシナリオクリアを目指し共に戦ってきた。
だが、残念なことに、開始時にこのシナリオに参加していた人数からは大きく減少しており、その数も残り250人程度となってしまっていた。
最初こそ数万単位で人がいたため、誰もがクリア出来て当たり前だと信じきっていたのだが、出現するモンスターの理不尽さ、そして今回設けられた環境設定、復活できない制限などが相まってここまで数が減ってしまった。
それでも環境と、自分たちの状況に適応し、今日まで生き残ったという点で言えば彼らは精鋭であると言える。
そして各街の生存・活動報告は掲示板でのみ行えていたため、話では聞いていても実際の状況を知ることはできなかった。
故に、強力な戦友が生き残ってきたことを自分の目で確認できて、口では悪態をつくチーザー紫ではあったが、内心はホッとしていた。
「まぁ気持ちは分からねぇでもねぇけどよ。っと、もう一団が遅れてご登場だぜ」
そして、彼ら三人と同様に、もう一つの街で参加者を率いていた人物が、集団を率いて少し遅れながらも合流したのだった。
「おぉ!? あれがリーク君の率いているアマツテンの面々か!!」
「うわぁ・・・リークさん完全に適役だよあれ」
「あひゃひゃひゃ!! なんだあれ面白ぇ!!!」
三者三様の反応である。ニコニーコは現れた強者のオーラを纏う集団に頼もしさを感じ。ルシオンはあまりの適役さ加減に思わず引いていた。チーザー紫はその光景がツボに入ったらしく大笑いである。
先頭を歩くのは絶対強者という肩書きが似合う感じのオーラを漂わせる女性プレイヤー『リーク』。本来の彼女ならこういった集団のトップになることは少ないのだが、今回はとある目的のために頂へと立ったのである。
「ごめん待たせたね。私たちで最後よね?」
「気にしないでくれたまえ!! しかし君もこの数日で力強くなったものだな!!」
「貴方もねニコニーコ。立ち振る舞いこそ以前のままだけど、それ以外の全てがまるで違う。ルシオンもチーザーもね」
「あー・・・面白かったァ・・!! ってか俺を一括りでまとめんじゃねぇ。このもやしは別にかまわねぇがよ」
「あはは、チーザーさん相変わらず僕にひどくない?」
集う参加者たちは皆覚悟を持った人間の顔をしている。皆再会できた喜びと、これまで各自がしてきた健闘をたたえ合いながら、塔の攻略のための英気を養うために、野営の準備を始めていた。
「それで? 攻略開始は予定通り明日の朝からで間違いない?」
「うむ!! ここで一晩休息をとり万全の状態でこの塔を攻略する!!」
「うっせぇよニコニーコ! そんなデカイ声じゃなくても聞こえてらぁ!」
「チーザーさんチーザーさん。君もかなり大きい「ウルセぇもやし!!」ひどいなぁもう」
各陣営のトップ四人が他愛のない会話をしながら、明日へ向けての会議を進めていく。各陣営の実力、人数、それぞれが適した能力、進め方など、慎重に、されど潤滑に進めていく。
これほどまで彼らが本気で打ち合わせをしているのを見るのは、中々ないだろう。なんだかんだ言いつつ、彼ら四人はプラネットクロニクル最古参であり、場数の経験も他のプレイヤーとは比べ物にならない。
さらにそれぞれが持つジョブはひとりで戦況を覆せる能力ばかりだったから、ここまで打ち合わせを念入りにしている所を見たことがある人は少ないだろう。
彼らがそこまでする理由はただ一つ。正確に言えばただ一人の人物の姿が見えないからこそだった。いや、遭遇自体はしている。だが彼らとともに歩を進めていない唯一の人物。
「ではやはりリーク君はアールくんがこの塔で待ち構えていると?」
「間違いないわ。根拠はないけど私の勘がそう言ってる」
「ったく。勘かよ・・・って切り捨てたいところではあるが、オマエのアールに関する直感だけは無視できねぇよな」
「寧ろ勘という不確定要素が君の口から出たことで、より確証を持てるね」
アール。このプラネットクロニクルにおいて名実ともに最強の名を関する男。今回の参加者で彼を知る者は皆口を揃えていっていた。『今回のイベントアールさん無双じゃないか?』と。
だが、そのアールはどこの街にも見当たらず、目撃情報すらなかった。代わりに目撃された。いや、彼らに生きる力を授けてくれた人物『五代目剣聖アール』。プレイヤーとしての『アール』ではなく、この世界で”生きていた”『アール』という人物。
普通に考えるなら、彼は今回運営陣での参加で、プレイヤーの実力アップ、もといある意味での参加報酬の配布係りとして参加していると考えるだろう。
だけど、彼の恋人であるリークを始めとするこの四人は違う考えを持っていた。それはなぜか? 考えても見て欲しい。相手はあの、あのエクスゼウスなのだ。飴ばかり与えるような優しい人物たちではない。
まぁ難易度と自分たちが『リアルハードモード』仕様を強要されていた時点で鞭と思えるのだが、彼らは知っている。”この程度は序の口”であると。
「だが出てくるとしたら敵としてだろう。超えるべき壁としてアール君ほど適している人物はいないのだからな!」
「流石に『アール』としては出てこないだろうけどそうだね・・・謎の仮面騎士とかで登場する可能性はあるのかな?」
口にして見れば見るほど、そびえ立つ壁の大きさを感じていく。それほどの相手である訳だし、彼らもできる限りの準備はしていくつもりだ。
伊達にこの箱庭環境で生き残ってきた訳ではない。そのために、万全の状態で挑むためにこうして塔の近くで野営を行うのだから。
そして同時にワクワクもしている。今の自分たちがどこまで彼に食らいつけるのか。まぁ流石に運営も全力の彼をぶつけてくるとは・・・少しだけ思ってはいるけど、まぁ大丈夫であろうとは思っている彼らであった。
――――◇――――
だが現実とはいつも残酷である。
――――◇――――
「“アルトス”様。AからOまで、総員準備完了です」
「XX様直轄部隊も既に」
「そうか・・・まもなくか」
俺たちの眼下に陣を構えている時代人を塔の上から見下ろしている。死んだはずの俺たちが意識を取り戻したこの場所。
目的は既に奴に託し、新しい目的として俺は彼らを率いることにした。死して尚俺と共に来ることを望んだ彼ら。そんな酔狂な奴らを放り出すことなんて俺には出来ない。
例え知らぬ誰かの為の糧となるべき存在として再誕したのだとしても、それを素直に聞いてやるほど、俺は素直じゃない。
「結局俺は、戦う事以外は知らん男だ。お前はどうだったんだろうな。アール・・・」
「アルトス様・・・」
二度と会えないはずのたった一人の親友に思いを馳せ、後ろに居た部下が不安そうな声を上げていた。いかんな。これから戦いが起こるというのに俺がこの様では士気も落ちるか。
「済まないな。やはり最後に奴とした約束がどうなったのか気になってしまう。戦いになれば切り替えるから安心しろ」
「そうではありません。寧ろ安心しました」
「・・・そうか」
「はい。だからこそ私たちは貴方様と共にあることを望んだのです。例え死せる運命が待ち構えていたとしても」
「・・・全く酔狂な奴らだ。これから死ぬというのに」
「はい。ですが貴方様に狂っていなければ、我らはただの狂者と成り果てていたのです。我らを狂わせた責任が貴方様にはあるのですよ?」
「くっくっく・・・俺に狂わされたと狂言するか。まぁ悪くない。全員に伝えろ。己が持つ狂気を持って死の運命すら狂わせて見せろ」
「はっ!!」
「恐らく下に構える連中は明け方から仕掛けてくるだろう。奇襲も奇策もせず正面から全てを殺せ。俺に狂ったというのならつまらない事はしてくれるなよ?」
「もちろんです。貴方様の気を損ねるようなことをする者はこの塔にはいませんよ」
運営側完全に魔王とその傘下にしか見えない。皆ノリノリかよ。
お知らせ
運営陣が本気になりました。久しぶりに身体を動かすそうです。
感想とか評価もらえると嬉しいです(久しぶりに露骨なお願いでした。スンマセンm(_)m よかったらお願いします)




