145:二人の差
しばらくアールとリークのターンです。
「『非情アリエル』」
『キキキ』
戦闘開始から早くも十分。未だに二体のモンスターは元気です。何度技を叩き込んだかはもう数えてないが、少なくとも20は超えてる。
しかし未だにダメージが入っている様子はない。ピンピンしている。
「これならどうだ!!」
墜落した二匹を鷲掴みにして壁に叩きつける。ぐにゃりと体を潰す二体のモンスターなのだが、一向にダメージが入らない。
壁にめり込ませてそこから『十六夜天雷』を使った状態で『重腕キャンサード』『恋爪レオ』『非常アリエル』『魔進タウロス』を連続して叩き込む。
『キュキュキュ』
「これもダメかよ」
相当攻撃を叩き込み続けてるのだがなんなんだこいつ。全然ダメージが入らない。キュポンと可愛らしい音を立てて壁から抜け出すモンスター。口しかないけど小馬鹿にしてるのはなんとなくわかる。
再び攻撃を繰り返すのだが変わらずダメージは入らない。二体を引きつけている俺の後ろではリークがウィンドウと呪文書を交互に見ながら必死に頭を動かしていた。
「リーク!落ち着いていい。ゆっくり確実にな?」
「待って・・・もう少し・・・もう少しなの・・・・!!!」
後で教えてもらったことだが、呪文使いは戦闘前に戦うための準備を必要とするジョブ。武器でもあり呪文が記載されている呪文書から『呪文使い』専用のMP『マナヴェント』を確保する必要がある。
これは『専用AS:マナヴァントオーラ』『専用AS:ヴァールツゥルフ』という『マナヴェント』の自動回復スキルと『呪文使い』専用の『AS:詠唱破棄』を獲得するまで必ずやらなければいけない準備。
今のリークはそれを完全に失念しており、戦闘しながらそれを繰り返しているのだ。
更に初めてのエクストラ仕様での確保ということもあり、エキスパートモードとは勝手が違い、相当手間取っている。
実は逃げることも視野に入れていたのだが、逃げる先を見れば、まるで順番待ちのようにモンスターが一定距離に待機しているのだ。見えるだけでもかなりの数、こちらの攻撃はまるで効かず、向こうの攻撃は未だノーダメージとは言え未知数。
強行突破を決行するのはあまり望ましくない。と言うか死に戻りしたくない。絶対に痛いし。
俺の攻撃が通用しないならリークに頼むしかないのだ。だからこうしてリークの準備時間を稼いでいる。
ダメージが通らないことを除けば大した敵じゃないのでいくらでも時間は稼げるので急かすつもりはないのだが、時間が経つごとにリークの表情に焦りが生じ始める。
「えっと・・・・ここがこうだから・・・こう繋げれば・・・・Deshalb wollte ich, dass Mana Magie wegwirft(故に我らは魔力を捨ててマナを望んだ)・・・・・これで!!!!」
呪文書の翻訳が終わりリークの周りに光の球体が浮遊し始める。数は2つなんとか準備が出来たみたいだ。
「アール!紋章を出すからそこにそいつをねじ込んで!!」
「了解!」
羽ばたいていたモンスターの羽根を掴んで地面に向かって全力で叩きつける。更に逃げ出さないように連続で踏みつけて地面にめり込ませる。
「アール三秒後!!3、2、1、今!『第一の赤:双子座』!!」
「あらよっと!!」
合図に合わせてリークの呪文が発動。地面に紋章が浮かび上がり二度の爆発が起こる。大きさは大したことないが直撃したはずだ。
いや、はず”だった”。
「っ!!?リーク後ろ!!」
「っ?!・・・うそ・・・・」
『キキキ!』
今まで一度たりともしなかった瞬間移動をしたのだ。それも俺を無視してリークの元へ。
リークはそれに反応できずにいる。モンスターの口が大きく開かれ、リークを頭から、そして胴体から捕食しようとしている。
「リーク!!」
待て待て待て!!?あの大きさで頭と胴体噛まれたら痛いレベル超えて常人だと死んじまう苦痛だぞ!!?いやあのモンスターの顎力にもよるけどもっ!!
「殺らせるかよ!!」
俺が見てる目の前でリークが傷つけられるとか最悪すぎて見たくねぇ!!ゲームだとしてもな!!あ?侍ゴブリン?あれはノーカンだよ。アイツ何げにほぼ即死で痛みなんてなかった斬り方してたしそれもあって俺は侍ゴブリンは嫌いじゃない。むしろ好きな方だ・・・って!!んなことはマジでどうでもいい!!!
十六夜天雷全力で跳べば入り込める!!よく吹き飛ばしてとか言うけどそれで怪我させたら元も子もないからなぁ!!
「アグァ・・・・!!」
「っ!!?アール!!!?」
モンスターとリークの間に体をねじ込んだお陰でなんとか守れた。代わりに首と左手に噛み付かれた。徐々に歯が俺の肉を喰み、食い破ろうとしてくる。やっぱり顎力相当あるじゃねぇかよ。
俺じゃなかったら痛みのトラウマ間違いなしだぜ?モツ抜き(仮想物理)経験者なめんじゃねぇぞ?
「こごぉ・・・!!!」
「いやっっっアールっ!!!!!!」
被害としては左腕はまだいい。だが首は不味い・・。無理に引き剥がせば死ぬ。もうモンスターの歯はそれくらい深く食い込んでいる。殴りつけるが、全く効果がない。無反応かよ畜生が。
「イ゛ーグッ!!ア゛レ゛!!」
伝わってくれよ。既に感覚が無い左手を喉元の奴に押し付けて無事だった右手で逃がさないように押さえつける。後はリークに伝わってくれればいいんだけど。あ、やばい酸素吸い込めなくて意識なくなりそう・・・
「うわぁぁぁ!!!!!『第一の赤:水瓶座』ァァ!!!!」
『キキキ・・・』
今度こそ直撃。リークの攻撃は二又の槍となり、下から二匹を串刺しにする形で貫いた。二匹は激しく抵抗するもののガッチリと押さえていた事もあり逃げられず直撃。そのまま消えていく。二匹倒すだけだったのに被害でかいな。
けどとりあえずこいつらの倒し方はなんとなくわかった。通常攻撃無効のモンスターって相当だな。
「やだやだやだ!!!『第一の青:双子座』!!嘘!!やだやだ!!待ってお願いヤダぁ!!」
回復呪文を使おうとしていると思われるリークが泣きながらがむしゃらに呪文を唱えている。二回分しか出せてなかったのか。まぁ焦ってたし仕方ねぇか・・・・やっぱり最初からダメージ覚悟で強行突破すべきだったな・・・
しっかしダメージ的には即死ではないみたいだ。HPを確認すると毒状態のように刻々と減っていくがまだ残っている。と言うかエクストラモードだし数値じゃ表せないのが普通なのである。正直気を抜けば一瞬で倒れてコロッと逝く自信がある。
混乱するリークは何度も呪文を使おうと声を上げるのだが、MPが足りない状態では使えるものも使えない。もう少し打ち合わせとか自分たちの状態確認くらいはしとくべきだったな。
それこそヘルプ見たり、説明見たりしていれば少しは変わったと思うんだよなぁ。昔某ゲームでパッケージの裏に通信するための周波数書いてあったことがあった。懐かしいなぁ。
レトロゲーだからといって馬鹿に出来ないもんだぜ。昔のゲームもいい物だった。あれ?これ走馬灯?いやいやあかん!!!ゲームだからってリークおいて死ねるか!!!
「やだおねがいやだよおねがいヤダよアールッ!?」
後で話聞くから舌噛んでも怒るなよ?意識を保つために体全身に力を入れる。そのまま食いちぎられた左手でリークをだき抱えて『超越月光流十二宮奥義:月風エリシオン』で駆け抜ける。
方向転換と敵回避するたびに体が悲鳴を上げてるけど、んなことで気絶してたまるか。逆にこの体の悲鳴のおかげでゆっくりと意識が遠のく感覚がなくなるのはありがたい。
あぁヤベェ・・・そんなこと言ってたけどマジで朦朧としてきた。首から空気が抜ける感覚はやっぱりなれるの無理だって。さすがに呼吸を満足に出来ないと死ぬて。
リークダンジョン内に残して死ぬつもりは死んでもないけど間に合うかな・・・・・・確か扉まっすぐ突っ込めば泉あったよな・・・なくてもまぁ扉に戻れればリークが何とかしてくれんだろ。それか泉で復活のどっちか。
最悪は死んでダンジョンリトライ出来なくなる事、もしくは扉の向こうにもモンスターが侵入してくる可能性。エクストラダンジョンに常識は通じないんだよ。
さて、運命はどちらに転がるかねぇ?
―――――◇―――――
「「「はっ!!?」」」
「???三人揃ってどうした???」
「「「なんか良くないことが起こる気がするの/のじゃ/だよね」」」
「僕としては三人揃って同じタイミングで言うことの方が怖いんですけど・・・?」
『『『『『ゴグギャギギィ!!!』』』』』
「うるさいです死んでください」
「黙るのじゃ。妾の前に出るでない」
「生きたまま臓器を抜かれる感覚はどうかな?」
『『『『『ゴギャァァ!!?!?!?!』』』』』
「タイミング的に僕に言われてるみたいで怖いから!!!?違うってわかってても怖いから!!?しかもレイレイ姉ちゃん殺り方怖い!!!!」
「あぁー・・・・ルークどんまい。アールがいねぇとレイレイはこんな感じだから慣れろ」
「いや怖いかr・・・ヒィイイイ!!!??マー坊兄ちゃんなんで血だらけなの!!?」
「ゴブリンの集団に突っ込んだらこうなった」
「血まみれでその笑顔は怖いよ!!?師匠の周りの人って実は怖い人ばっかりなの!!?」
「ルークくんを怖がらせたのは誰じゃぁあああ!?!?!?!?教祖の名において血祭りじゃぁ!!!!!」
「万死に値するわ!!!」
「脳天ぶち抜いてやるわ!!!!」
「お?ルークの怖いに反応して噂の信者登場したな」
「ピィ!!?!!師匠ー!!!!!!早く戻ってきてぇ!僕じゃどうにもできないよぉぉぉぉ!
?!?!?!?!!!?」
―――――◇―――――
よっしゃ間に合った!!
両開きで助かったぜ。体当たりで扉を開けてリークを抱えたまま、意識が消える前に泉に倒れこむようにダイブ。意外と深いな。水深1mはあるんじゃないか?でも、さすが回復の泉。傷が嘘みたいに塞がってく。食われた腕も元通りだ。
感覚としてはあれだ。温泉につかると不思議と癒されるような感覚に麻酔が切れて自分の体の感覚が戻ってくるような感じ。それが一番近い。つまり極楽である。
十秒ほど水に身を任せていると抱えていたリークが目をうるうるさせながらこちらを覗き込んでいた。安心させたくて抱きしめてやるとリークは多分泣きながら抱きしめ返してきた。水の中だからわかんねぇの。
あ?水の中で溺れないのかって?これが溺れないんだよ。不思議だろ?しかも視界も良好でばっちり見えるんだ。最高だろ?けどこのままって訳にもいかないので足をついて水上に顔を出す。
「ふぃー・・・間に合ったぜ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・」
やっぱり泣いてた。しかもマジ泣き。
「落ち着けリーク。間に合ったから結果オーライでいいだろ?」
「違うの!!私がもっとちゃんとしてればこんなことにならなかったのに・・最初から隠さないで話してればこんなことにならなかったのに!!!!!」
「しゃーないって」
リークは普段、俺の動きについてきてたからエクストラモードに適合したんだと思ってたんだが、どうやら違ったみたいだ。スキルで補って補ってなんとかついてきてたんだ。多分だけどそうなんだろう。
いつも一緒に闘っているときは何でもないような顔してたから全く気にもしてなかったけど相当頑張ってたんだな。それを見抜けなかったのは本当に情けない。
今回は頼っていたそれが無くなり不安が爆発しかけていたが、それでもできるだけ気丈に振舞っていたということだたんだろう。
俺が目の前で傷ついて限界を超えてこんな感じで大泣きしていると。
「ごめんなさいアール・・・!!私・・・・わたし・・・・!!!」
それからしばらく、リークは泣きながら謝罪の言葉を繰り返し続けた。胸の内にとどめていたことを全て晒し出すように、投げ出すように口に出しながら。
―――――◇―――――
ふむ、そのへんの奴でも動きとかを見るためには”使えた”ね。
あれは”ダメ”だな。近寄れない。話的には”一番効果がありそう”なんだけど人が多すぎる上に警戒心が高すぎて近づけない。それに時代人の動きが思った以上に早いのもびっくりだね♪
仕方ない、あの辺の親子にしよう。あとあの子の仲のいい兄弟も”良さそうだ”家族愛に満ちている感じがなお良し!!しかも話題が”彼”の話題だし素晴らしいよ!!
でもこれ以上”下準備”すると面倒くさい奴らに目をつけられちゃいそうだしもう少しやっておきたいけど街での準備はそろそろ切り上げないとね!
最後の準備を始めちゃおうか!!大きなお祭りには”大勢”いたほうが楽しいからね!!!
抱え込んでいたのは自分と励久との差。
それを埋める為にやってきた全てを失った唯はその心をさらけ出す。




