102:目覚める生命体と不穏な影
次回予告的な奴
「ヨォ〜・・・・ヨ?」
とある森の中。数百年の歴史の中で埋もれた遺跡。その奥地で”それ”は静かに目覚めた。あの日以来ずっと眠り続けたそれは何かを感じ取ったようにゆっくりと視界を開く。
眠っていた遺跡は朽ち果てており、もはや面影を残さない程度にはボロボロだ。どのくらいの年月が経ったのかはそれにはわからない。
ただ目覚めたという事は、目覚めるだけの何かが起きたのだと認識した。ただ単に目覚めただけかもしれないが。
『ヨヨヨ』
それはゆっくりと体を動かして転がるように朽ち果てた遺跡から外へと進んでいく。ボロボロになった遺跡の床には瓦礫やモンスターの死体や人のミイラが至る所にあり、足場を間違えればそれを崩してしまうだろう。
だがそれには関係ない。視界の前にあるものがなんであろうとそれにとっては関わりのないモノだ。
ゴロゴロと進みながら化石となった骨やミイラを押しのけて進んでいく。
それがいた場所は遺跡の奥。簡単には外には出られない。実はそれは簡単に出る手段があったのだが、眠る前にした一つの約束を守るためその手段は使わない。多少面倒だがゆっくりと前に進んでいく。
一本道を進み、枝分かれする道を時に正しく、時に間違いながら進んでいく。途中、遺跡に張り巡らされた罠に道を阻まれながら、また遺跡を住処にしているモンスターに襲われながらそれは進んでいく。
あらゆるものが”それ”の行く手を阻む。モンスター達は自分たちの縄張りに侵入した”それ”を排除するために。罠は道を阻むことが目的であるがゆえに。
けれどそれにとっては全てが無意味である。痛みを感じないが故に無敵。長年の休眠で体力はあり余り、体があらゆる攻撃を跳ね除ける。
打撃では吹き飛ばず、斬撃では決して斬られることなく。魔術は簡単に飲み込んでしまう。その異常さにモンスター達は恐れを抱き、逃げていった。
そして数時間の時間をかけてそれは外に出た。
『ヨヨォ・・・』
暖かな日差しがそれを照らし、全貌が明らかになる。
丸。綺麗なマルであった。サッカーボールほどの大きさで、少し黒く見えるクリアレッドの球体。それがこの者の体であった。
顔らしきモノも、臓器らしきモノも何も見えない。でもこの球体は意思があるようにコロコロと動いている。
入口の周りをコロコロと転がりながら球体は何かを確かめるように動き回る。しばらくすると球体はぴたりと動きを止めてその場に停止した。
そして体をウネウネと揺らし始めたと思うと、綺麗な球体だった体に変化が現れた。真っ赤な羽が球体から現れたのだ。球体は羽をパタパタと感触を確かめるように動かす。そしてその時は訪れる。
球体は羽を大きく動かして宙に浮いたのだ。地上からは2m程度だが確かに飛んでいた。
そして自分が感じる何かがある方向へ方向を変えると球体はゆっくりと前に向かって進み始める。
『キキキキ・・・・・死ンダネ。ニンニン死ンダネ』
洞窟の中、ニヤついた笑みを浮かべているのは不思議な姿をしたゴブリンだった。テナガザルのように長い腕。ゴブリンとは思えないほどのっぺりとした顔つき。そして何よりも骨まで見える透明な肉体。
『死ンダラ奪エルネ!!イイネ!!イイネ!!』
長い腕で洞窟の中にあったアイテムや装備をせっせと拾い上げ、そして口へと運んでいく。大きく口を開けて全て飲み込んでいく。それはマジックショーでよくある剣を飲み込むマジックのようだった。
『アーン』
そこにあった物は一体誰の物なのか。それはもうわからない。だがゴブリンはそれを自分の物にしたと言いながら次々と飲み込んでいく。それはブラックホールのように底が見えなく、既に自分の体積以上量を飲み込んでいるにも拘わらず、ケロッとした顔で飲み込んでいく。
『ギギギィ!!』
『ギギィィ!?』
『アレ?ミチャッタ?』
そこに現れたのは巡回をしていたと思われる二匹のゴブリンナイト。侵入者を発見し、彼らは不気味なゴブリンに槍を向けた。
ゴブリン達は同族であれど、すべてが仲間ではない。見かけない存在には警戒するし、手を挙げられたらやり返す。例え殺すことになっても彼らは気にしない。
だから今回も同じ事が起きる。同族とは全く思えないゴブリンの侵入を許し、あまつさえ大事にしていた宝を全て何処かへと奪われたのだ。これから不気味なゴブリンはこの洞窟中のゴブリンになぶり殺しにされるだろう。
『ギギュィッ!?!?』
『ギキィ!!?』
『邪魔ダシ死ンジャッテヨ』
見つけた彼らの命が残っていればの話ではあるが。
地盤の隙間、壁面の隙間から、いつの間にか背中に伸びていた”三本目・四本目”の腕がゴブリンナイトの首を捉え、声帯を潰した。
そして腕は広がるように姿を変えて、二つの大きなアメーバへと変化を遂げた。アメーバはそのまま二匹を丸呑みにして、抵抗しようと藻掻く彼らの体内へと侵入しながら、その表面を鎧ごとゆっくり溶かしていく。
悲鳴を上げるゴブリン二匹だが、既に声は出ない。そしてもがけばもがくほど、アメーバは体内へと侵入し、内と外からその体をゆっくりと溶かしていく。
しかし、今の騒動で何かあったと言うのは気がついたのか、洞窟の中が騒がしくなってきた。
『見ツカッチャッタシ仕方ナイ』
アメーバの中でゴブリン達を溶かしながら、伸ばしていた腕を背中に戻し、不気味なゴブリンは何かを諦めたようにため息をついた。そして歪んだ笑みを浮かべてそのゴブリンは洞窟から外へと向かっていく。
それから二時間後。洞窟はもぬけの殻となっていたそうだ。ここにいたはずの数十のゴブリン達の姿も全て綺麗さっぱりと。
「お姉ちゃん」
「・・・えぇ、間違いありません」
ニルスフィアにある占いの館。そこに住むプレシアとプラレアの姉妹は何かが動き始めたことを感じ取った。
彼女たちは占い師であり、語り継がれ、そして受け継がれてきた特別な力『エクストラジョブ』の継承者であり、星の守り人。そして歴史を紡いできた存在。
星の悲鳴をいち早く感じ取り、それを対処するのが彼女たちの使命。
そんな彼女たちが何かの目覚めを感じ取った。
悪意ではない。だが善意でもない。そして星を殺すことも生かすこともできる何かの存在。その目覚めを彼女たちは感じ取った。
「目覚めてしまったんですね・・・」
姉妹は目覚めた者の危険性を直接見たことはない。だが文面でその危険性がどれだけの物か知っている。もし自分たちが考える最悪の事態になればゴブリンどころのものでは済まない。
「もしかして目覚めた理由ってゴブリンの影響?」
「その可能性はあるでしょう。彼らが封印を解いた。それが一番可能性が高いです」
目覚めた存在の強さはわからない。でも自分たち以上の強さを持っているのは間違いない。だってその存在は過去に一度街一つを滅ぼしかけた恐るべき存在だと記されていたから。
数百、数千の軍隊ですら戦いにすらならないほど強大な存在であり、倒すことができない無敵の存在である。そう書かれていた。
「彼に頼る?」
「それしかないでしょうね」
完全無敵の存在を唯一倒したとされているのは伝説に名を残す一人の男。かつて世界を救った一人の英雄。剣聖と呼ばれた存在だけだ。剣聖は現在、蘇りこの世界で生きている。
「プラレア、手紙を出しましょう。ミール経由でお願いすれば直ぐに届くはずです」
「わかったよお姉ちゃん。それじゃぁギルドまで行ってくるね」
彼女たちは剣聖へこの危機を知らせるために動き出す。それは奇しくも彼らが館にくる一時間前の話であった。
目覚めるは世界を滅ぼす力を持った存在。
動き出す不穏な影は同族を飲み込んでいく。




