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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 討つは奴への猜疑心
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デバッグモードは結構楽しい

「今、世界の時は止まっています。しかし、それでもペクタルロトルの宝玉を欺くには至らないでしょう。何故かはわかりませんが、あなた方に働きかけようとすると宝玉による妨害が入ってしまう……なので、簡潔にお伝えします」


 ヤォは祭壇の上に座るペトルの頭を優しく撫でながら、俺の方を見て語りかける。

 ……いや、撫でているように見えるが、あれは撫でるフリだ。良く見ればヤォの手はペトルの頭を僅かに突き抜けたり、離れたりしている。

 彼の身体は、ペトルに触れていないのだ。


「この小さな原神の存在は、出来うる限り秘匿しなさい。そして、守り抜きなさい。彼女の力の片鱗に気付いた一部の神は、既に動き始めていますから」


 神が動き始めている。ペトルの力に気付いて。

 つまり、ペトルの力を狙って……ということだ。


 近頃よく夢のなかに現れる暗神ザイニオルが動かぬ証拠だろう。

 闇の神々から狙われている……と言われれば、思い当たるフシは多いので疑うべくもない。


「そして、闘いに備えなさい。きっとこれからの旅路は、闇の手の者によって直接的に脅かされることも多くなるでしょう。自らの身を守り、そしてペクタルロトルを護るのです」


 ヤォは笑顔で言うものの、俺はその言葉に唾を飲み込んだ。


 闇の手の者が……闇の信徒が狙ってくる。

 それはつまり、また一段と旅の危険が増したということで。


 ……というか、現状ただ旅をするだけでもかなり厳しいんだけど。

 やる気自体はあるが、このままの状態から更に刺客まで送られてきたら、流石の俺らもちょっと……。


「とはいえ、一介の人間に過ぎないあなた方には難しいでしょう。随伴しているあの宣教師は多少は闇払いの心得を持っているようですが……プレイジオから聞く限りでは、実戦経験はない」

「ねえねえ、プレイジオ元気?」

「ええ、もちろんです」

「じゃあ、今度読ませて!」

「……ふふ、もちろん。ゆくゆくは。そのつもりです」


 ペトルはまた頭を撫でられると、嬉しそうに身体を揺らした。

 たとえ身体が実際に触れ合っていなくとも、そうされることが嬉しいのだろう。


「……なので、些細なものではありますが、ヤツシロさんに力をお貸ししましょう」

「力を……?」

「はい。我々原神によって創りだした、いくつかの品を差し上げます」


 えっ、いいのそれ。最高神からの贈り物って……。

 今俺ロングソードを装備してるだけの駆け出し冒険者なんだけど……。


「まずは周知神(しゅうちしん)プレイジオより、彼の身体のほんの一欠片……『プレイジオの欠片』です」


 狼狽える間に差し出されたのは、手のひらに収まる程度の小さな石の欠片。

 ベージュのそれはまるで砂漠を思わせる色合いだが、表面は滑らかで金属のような光沢を放っている。


「不明な物品があれば、その欠片を当ててみると良いでしょう。小さな欠片なので詳しくはないでしょうが、ある程度の情報をあなたに教えてくれるはずです。もちろん、宝玉に抵触しない範囲でとなりますが」

「お、おおー……」


 え、いまいちよくわからない。

 不明な道具とかに当てて使えばいいわけ? メッセージか何かで教えてくれるの? わからん。


「次にこちら、環神(かんしん)ネリユロウタからの品で、『銀河の指環』です」

「あ、はい」


 どうやら、この場で全部渡してくれるらしい。

 俺はベージュ色の八面体の石をポケットに突っ込むと、続けて渡された指環を何気なく手に取った。


 そして、その指環の美しさに魅了された。


 渡された指環は、極々一般的な形の指環ではあったのだが……その材質はあまりにも異質だ。

 黒曜石のような暗黒色の指環の内部には、無数の星々のような小さな輝きが込められており……それらはまるで銀河のように、ゆっくりと指環の内部で蠢いている。

 常に紋様が流動し続ける指環。この美しさだけで既に、神の品であることが理解できる。


「その指環の中には、霊界上層部の荒れた風を封じ込んでいます。……ああ、ここでは魔力と呼ぶのでしたか。とにかく、人の身に余る力が込められているとだけ覚えておくと良いでしょう」

「えっ」

「おそらく使用すれば、辺りに魔力の暴風が吹き荒れます。ひょっとしたら一瞬だけ霊界に繋がってしまうかもしれません。ですが、闇の信徒に襲われている時のちょっとした時間稼ぎにはなるでしょう」


 そんな人の身に余るようなものを人に渡さないでくれませんか。


「次に私、万神(まんしん)ヤォから『万霊の水差し』を差し上げましょう」

「……?」


 差し出されたのは、注ぎ口も内容量も非常に控えめに見える、銀色の金属によって作られた水差しだ。

 これひとつを丸々注いでも、おそらく200mlも出ないのではないだろうか。


「まぁ、これといった特徴はありません。無限に水が溢れるだけの簡単な水差しです。少しは旅のお供になるでしょう」


 役に立たなそうだなーとか思った途端にこれである。無限に水が出てくるとかなんだそれ。めっちゃすげーじゃん。これといった特徴はないって、特徴しかないわ。


「そして最後、こちらが啓戒神(けいかいしん)ヘストからの品で、『道理の歯車』となります。今回は忠告の他に、これを渡すために伺ったようなものなので、大事に身につけてくださいね」


 水差しに感動する俺に最後に渡されたのは、一個のネックレスだった。

 紐はものすごく細かな金属製の鎖で、そこに一枚の歯車が淋しげに括られている。一見するとそれだけのアクセサリーだった。


「それはあなたの身を様々な力から護るための物であり……同時に、我々が再びあなた方に近づきやすくするための神器です」

「この歯車が……?」

「旅する最中も寝る最中も、常に身につけておくことをおすすめします。むしろ、今この場で身につけていただきたい」

「……よくわかりませんが、わかりました」


 ヤォに言われるがまま、歯車のネックレスを身につける。

 ……つけた瞬間に特別何かが変わるということはないようだが……?


「あ」


 いや、変化はあった。

 『道理の歯車』を身につけたことに影響かどうかはわからないが、ヤォの身体が薄っすらと透明になりはじめている。


「ヤォ……」


 それはペトルの目にも見えているようで、彼女は淋しげな表情を浮かべていた。


「どうやら、時間のようですね。専用祭壇、情報撹乱、時間停止、霊界停止、道理貫通……ここに至るまで多くの対策を立ててきたつもりですが、宝玉の力はそれさえ上回る。厄介ですね」


 対するヤォも、どこか悔しげに顔を歪めている。

 彼の様子を見るに、俺たちに会いにくるのは非常に骨が折れるようだ。


「また会える?」

「ええ、当然です。きっと次も、またどこかでお会いしに来ますよ」

「……ヤォ様、ありがとうございます」

「いえ。これもまた、我々の役目ですから」


 最後にニコリと女性のように微笑んで、万神ヤォは完全に消え去った。


『道理の歯車があれば、ひとまずは大丈夫でしょう。宝玉の干渉はかなり強力ですが、我々を常に妨げられる程ではないようですね』


『ご苦労、ヤォ』


『いえいえ、これも私の役目ですから。ヘストも、その時にはお願いします』


『無論』


『頼もしい限りです。……さて、人間の彼らも上手く動いてくれると良いのですが……』


『運命は神でさえも知らぬ事だな』


『フフ、そうですね……いえ、あの子が原理の海に頃は、また違ったのかもしれませんが……』



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