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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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時には冒険も必要になる

 手に握る斧は、既に乱暴な使い方の連続で刃がボロボロだ。

 ぶん投げて、仮に当たったとしても骨への直撃。悪ければ金属製の盾。どちらでなくとも、石造りの壁面にぶつかれば否応なく切れ味は落ちてゆく。


 だが、ギンの手斧はこの洞窟内ではこれ以上ない便利な投擲武器だ。

 刃先が完全に潰れても、まずは一発だけ放り投げるだけの価値がある。


「おらっ」


 もはや手に馴染んだそれを、全力投球。

 すると手斧は柄を大げさに回転させながら通路を飛び、向こう側からやってくるボーンウォリアーの脳天を見事にかち割った。


「よし、当たり!」

「お見事です……あ、階段が見えましたね。やっと五階ですか」

「……五階……ダンジョンのサイゴの場所……」

「ああ、そろそろ終わりが見えてこないと、さすがにキツすぎる」


 どうやらこの先に、お目当ての階段があるようだ。

 地下四階も長かったが、どうやら次でラストフロアらしい。


 ……地下五階だけで敵も弱いダンジョンならヨユーでしょなんて思ったけど、実際は全然駄目だな。

 俺もそうだけど、そこらへんはクローネも見誤っていたのだろう。ここまで辛いとわかっていたなら、ハンマーでも斧でも、最悪クワでも持ってきてたんだが。

 何ならただの長い棍棒でも構わない。長さがあってぶっ叩ければそれで良い。勝利のためなら勇者への憧れなど捨ててやる。


 だが、ここまで来てしまったものはもう仕方ない。どうせ引き返しようなんて無いのだ。

 最後まで戦って、目的を遂行する以外に道はない。


 地下五階。

 あとは最後の迷宮を攻略し、ガシュカダルの隠した“信仰の剣”を引き抜くのみだ。




「さて……この階が最後ではある、が……俺達もなかなか消耗しているのは隠しようのない事実だ」

「……そうですね。私の見通しが甘かったです」

「ごめんなさい、ワタシ、ゼンゼン……」

「おなかすいた」


 地下五階を目の前にして、最後の作戦会議だ。

 ここに来るまでも何度か攻防があったが、それも辛勝といったところである。


 ギンは自らの弱気な心を気にして落ち込んでいるが、最後の方では勇気を振り絞って、相手の振るう錆びた剣を一回だけ盾で防いだりもした。

 こいつなりに頑張ろうとしているという気持ちは、ちゃんと伝わってはいる。

 ……あくまで盾で守っただけで、剣は振ってないけどな。しかし、それはそれで十分な仕事である。


「まぁまぁ。とりあえず反省会は後にしよう。事実として俺達の戦力と体力……というか、攻撃手段がほとんど消えてきたのがまずい。これだけが重要だ。これをどう運用し、温存してゆくかを、ここで決めたいと思う」


 せめてボーンウォリアーを倒した後、奴の持っている装備を錆びたものでもいいからちゃんと残してもらえたなら、話も違ったんだろうが……ifの話をしたって仕方がない。


「ヤツシロさん、それは……温存し、なるべく戦わないようにする……というこれまでのやり方を、変えるという意味でしょうか?」

「いや、本質的には変わらないな」

「何かカンガえがあるんですか?」

「……まぁ、一応ある」

「一応ですか」

「おほ?」


 ……さっき思いついたばかりの作戦だし、うまくいくかもわからない。

 ひょっとしたら何の効果もなく、ただ無駄に窮地に陥るだけかもしれない。

 だけど、一応これは可能性として、あり得なくはないと思うのだ。


 俺は腕を組みながら、大きく息を吸い込み、そして語った。


 このダンジョンを最短距離で攻略できるかもしれない、究極の裏技を。




「さあ行けペトル! 先頭は任せたぞ!」

「おほーっ!」

「……ホントウにこれでイイの?」

「……正直、私にはわかりません。とても不安であるとしか……」


 俺が思いついた作戦。それは、“幸運の女神様を先に歩かせてラッキーなことにモンスターと遭遇せずダンジョンをクリアしちゃおう”というものである。

 知略どころかゴリ押しですらない。まさかの運任せ。神様丸投げの暴挙であった。


「あ、あの。確かに一度は私も頷いてしまったのですが……ペトルさん、危険もありますので、もしも怖いようでしたら先頭は私が……」

「ねえねえシロ、私が一番前だから、私が好きなふうに曲がっていいのよね?」

「ああ。お前の好きな角を曲がっていいんだぞ。場合によってはぐるぐる同じ場所を回っても構わん」

「じゅあわぐるぐる」

「ああ、本当に大丈夫なんでしょうか……」


 クローネは頭痛に見舞われたようだが、もう俺にはこれしか思いつかなかった。

 これで駄目ならば、もう仕方がない。今まで通りのやり方でクリアしていく他に手段はないだろう。

 俺の片手には、念の為に“守護霊のオーロラ”が控えている。いざという時には、こいつを使って守れば良いのだ。


「おほーっ、出発よーっ」

「よし、行くか」

「……はい、そうですね」

「ワタシが……ワタシが皆をマモらないと……」


 色々と後続には思う所もあるようだが、賭けてみるしかあるまい。とりあえずは、あの脳天気な幸運の女神様に。


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