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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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炎のロングソードを拾っておけば大丈夫

「……おはよう」

「おはよー!」


 目覚めると、笛の音がピーヒャラピーヒャラと響いていた。

 楽器自体は悪いものでもなかろうに、いかんせん奏者の技術が無さ過ぎる。

 やる方もやる方で、もっとこう、適当に吹き鳴らすその音を改善しようとか思わないんだろうか。思わないんだろうな。ペトルだしな。


「あのなペトル……」

「なになに?」

「……いや、なんでもない。起こしてくれてありがとうな」

「おほーっ」


 なんか、変な夢を見ていたような、見ていないような。


 ……夢の中での出来事って忘れやすいからな。

 寝起きの悪さからして、もしかしたらまた暗神ザイニオルと遭遇したのかもしれん。

 まぁ、覚えていないからなんとも言えないんだけど。




 たっぷりと休息を挟んで、俺達は再び出発することになった。

 石だらけの地下迷宮。寝心地は決して良いものとは言えなかったが、寝ないよりはずっとマシである。欲を言えば次からは寝袋を持ち込みたいところだが、まぁ探したって無いだろうし、自分で作りたい程でもない。


「それでは、引き続き探索をやっていきましょう。できれば今日中には、地下五階で信仰の剣を回収したいところですね」


 どうやらクローネが一番最初に起きたらしく、彼女はたっぷり時間を使って体と髪を清め、万全の状態に整えてたようである。

 悲しいことに一番のお寝坊さんは俺であった。次からはペトルに起こされないよう早起きしたいと思います。


「じゃ、頑張っていくか」

「おほーっ」

「……あ、ハイッ」


 ワンテンポ遅れてギンも返事をしてくれた。

 とりあえず全員準備オーケーだ。早速、ダンジョン攻略を進めていくとしよう。




 昨日は既に地下三階の大部分を調べ回っていたので、地下四階への階段はすぐに発見できた。

 目的の地下五階まであと一歩である。しかしダンジョン攻略の一歩手前というものは、得てして手強いモンスターが跋扈しているのが世とゲームの常だ。

 ここまではスケルトロールが最大の強敵だったが、さて、四階はどんな奴が現れるのか……。




「出たな」


 曲がり角の先で、俺は部屋の中央に四角い物体が鎮座しているのを発見した。

 地下四階で初めて見る形のものである。


「あれは……」

「とりあえずダガーを投げておくか」

「宝箱ですね」


 思わずずっこけそうになった。

 なんだ、宝箱かよ。いやでもまぁ、普通四角いものったらモンスターじゃなくて宝箱だよな。

 ここまで宝箱にたどり着くこと無く来てしまったから、その考えが完全に頭から欠落していたわ。


 その部屋は安全だろうということで、俺達四人は宝箱の前までやってきた。

 間近で灯りを当てながら見てみれば、それはクローネの言うとおり、確かに宝箱以外の何者でもない存在であった。

 全てが灰色の石のような物質でできているが、宝箱っぽく板を組み合わせたような模様が刻まれており、一目見て“それ”とわかるのが実に親切だ。


「鍵とかはないよな?」

「ええ、早い者勝ちです」

「おほー! じゃあ私開けるー!」


 あっ、ちょっと開けたかったのにお前っ。

 ……いや、まぁ別にいいけど。気にしてないしな。


「おほ?」

「おや、これは」


 ペトルが勢い良く石の上蓋をひっくり返すと、中には一本の剣が入っていた。

 だが、ただの剣ではないし、入り方も尋常なものではない。

 剣が宝箱の底を、いや、おそらくはそれさえ突き抜けて、ダンジョンの床をも貫くようにして突き刺さっているのだ。


「どうやらロングソードのようですね」


 正直、シュールすぎる光景だった。

 いや、確かにロングソードとかを入れるにしては、この手の宝箱では横向きに入れようが斜めに入れようが入りきるものではないよ。

 しかしだからといって、宝箱の中に突き刺しておくってのはどうなのさ。


「……おー……」


 抜いてみると、やっぱりロングソード。結構長い。間違いなく床にまで達するリーチを持っている。

 そして宝箱の底には、ご丁寧にロングソード用の穴がひとつ。試しに動かしてみようと宝箱を押さえてみるが、宝箱はダンジョンの床と一体になっているようで、動く気配がない。

 まさに、ロングソード専用の宝箱だった。


「ってあれ、これ鞘ないの?」

「そのようですね」

「おほ?」

「鞘がナいとなると……持ちハコび、タイヘンそうですね」

「うわあ」


 まぁ、ダガーよりは心強いかもしれないが……バインダーを片手に持つ関係上、こういうのはちょっとなぁ。

 アイテムカードの状態で宝箱に入れといてくださいよ、ミミルドルスさん。


「……ヤツシロさん。もしもソレがジャマなら、ワタシの手斧と交換しませんカ?」

「手斧と……おお、それはいい考えだ」


 ロングソードは結構でかい。俺も筋力には……まぁ、ちょこっとの自信はあるが、そうは言っても片手で扱うには無理のある武器だ。

 その点ギンの使っている手斧であれば扱いやすいし、いざという時には投げて使うこともできる。たしか、フランキスカだっけか。そんな名前のがあった気がする。


「ほい。でもギン、お前こそ片手で使えるのか?」

「ハイ、大丈夫だとオモいます」


 ギンにソードを渡し、代わりに手斧を受け取る。

 これでギンの装備はロングソードとスケイルシールドとなり、随分と格好のつく見た目に変化した。


 黒い甲冑にロングソードと鱗の盾。斧の時はちょっと蛮族っぽかったけど、これでなんだか黒騎士って感じになってきた。


「ギンさん、剣を握ってみて、どうですか?」


 俺と同じように装備した姿をひと通り見たクローネが、ギンに問いかける。

 ギンは手元の盾と剣を往復するように視線を泳がせて、どこか恥ずかしそうに俯いた。


「どう……ナンでしょう。ワタシには、ヨくわからないです……」

「すっごく似合ってるよ」

「……え?」


 自信なさげに呟くギンに、ペトルは即座に答えた。


「今のギン、かっこいいわよ!」

「……そ、そう……カナ」

「うん!」

「……エヘヘ」


 虫族であるギンの表情は読み取れない。

 しかし、真正面からペトルに褒められた彼女の触覚はピクピクと動いており、声は隠しようもない嬉しさを滲ませていた。


「……よし、それじゃあ信仰の剣、さっさと見つけにいくか」

「……ハイ!」


 まぁ、そういうもんだよな。

 剣を振るうのに、難しい理由なんていらないのだ。


 格好いい。だいたいそれだけで良いのだと思う。


 俺斧だけど。

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