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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 無知と未知への恐怖心
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オバロのアニメ面白いです

 随分とまあ世知辛いダンジョンのようであるが、初心者にとっては好都合である。

 結構簡単なダンジョンのようなので、神様からの試練ではあるが、リラックスして行ってみよう。


「“バインダー・オープン”」


 俺は手元にバインダーを出現させ、見開きにある一枚のカードを手に取った。

 描かれているイラストは、鋭い流線を背景とする、投擲されたナイフである。



□「フライト・ダガー」アイテムカード

・非常に軽く、飛距離の伸びる投擲用ダガー。鋭い作りだが、重さが無いのでダメージは微妙。



 これから魔物がいるとわかっているダンジョンへと突入するのだ。

 チュートリアルとはいえ、ダンジョンを武装無しの徒手格闘だけで突き進もうなんて考えは俺にはない。


「そんなわけで……アイテムカード発動、『フライト・ダガー』!」


 俺が発動を宣言すると、カードはぼわんと不思議な煙と輝きを放って、一本の刃物へと変化した。


 刃渡り十五センチほどの、羽飾りのついた美しいダガーである。とても鋭そうな薄刃であるが、金属ではなくガラス質に近い素材に見える。

 思いの外長めの刃だが、しかし重量はまるで鉛筆のように軽く、指の動きだけでもどこかへ投げ飛ばせそうなほど。逆に言えば、軽すぎてちょっと怖い。


「きれー」

「まぁ、無いよりはマシだろう。元々投げて使う物らしいし」

「ですね。仮に近付かれたとしても、私の『ホーリー・ライト』やペクタルロトルさんのフルートがありますから、ほとんどの魔獣からは襲われないと思いますし」

「光が苦手なんだっけ」

「はい。というより、光輝神ライカールの威光を恐れているのですが」

「わ、ワタシも、オノを持ってきたので……」

「おお、そりゃ心強いぜ」


 ふむ、なるほど。だったら安心だ。最悪の場合でも、逃げることに専念すれば余裕がありそうだ。

 それに、俺のバインダーにはまだスキルカードも残っている。


■「トリプル・ダーツ」スキルカード

■「クランブル・ロック」スキルカード

■「オルタナティブ」スキルカード

■「石化の眼差し」スキルカード


 『エクスチェンジ』というスキルカードもあるにはあるが、とりあえず咄嗟に使えそうなのはこれくらい。

 『石化の眼差し』は一定時間石化という気になる効果ではあるが、結果が悪くとも、とりあえず手持ちのカードだけで5体以上の相手を無力化できるだろう。

 そうこう倒している間に、新たなスキルカードも手に入るかもしれない。

 ……なんか、普通に黒字になってダンジョンを出れる気がしてきた……いや、楽観はよそう。俺に楽観なんてものは似合わない。


「んじゃ、とりあえず行くか」

「ハ、ハイ!」

「気をつけていきましょう」

「出発よー」


 俺はナイフとバインダーを手に。

 ペトルはフルートを手に。

 クローネは灯りを手に。

 ギンは斧を手に。

 総勢四人の豪華フルメンバーによる、初めてのダンジョン探索が開始された。




 通路の幅は、2メートルちょっと。ダンジョン内は、仄かに明るい。

 それは一定間隔で壁に埋め込まれた、常時輝きを放ち続ける宝石のようなもののおかげである。

 しかしクローネが言うには、これは壁から外すとただのくすんだ石でしかなくなるのだという。このダンジョン専用の光源なのだとか。取り外して明かりに、という都合の良いことはできない。

 そういった明かりのために視界は安定し、真っ暗闇ということはないのだが、十メートルも向こうの様子になるとさすがに不明瞭だ。手持ちのカンテラを向ければ多少は改善されるものの、底に闇があるというだけで不安になる。

 曲がり角では魔物が現れるかもしれない……という恐怖もあり、自然と歩みは慎重に、ゆっくりになった。


「こ、コワい……」

「大丈夫ですか?」


 意外なことに、鎧を着込んでいるかのような姿をして、手斧まで装備しているギンが、俺達の中で一番怯えているようだった。

 前衛装備のくせに、クローネの後ろをひょこひょこと歩く始末である。

 しかし、彼女は女の子だ。年齢も子供らしいので仕方ない。

 だけどカンテラに照らされて影を作るギンの甲虫っぽい顔こそが、俺の視界に入る中で一番怖かったりする。


「おっほっほー、おっほっほー♪」

「なんだその歌……」


 逆に一番緊張感がないのが、ペトルであった。

 落としたら確実に砕け散るであろうグラシア・フルートをバトンのようにくるくると手中で回しながら、楽しそうに大股で歩いている。

 今更だけど、こいつの怖がる基準がよくわからん。


「ウボァー」

「ぴー!?」


 なんてお気楽に歩いていると、曲がり角から聞こえてきた野太い声にペトルは驚きのあまり跳ね上がって、こちらに駆け込んできた。まるでハムスターだ。


「何かいるー!」

「色々言いたいことはあるけど、俺らの後ろに居ろ」


 しかし、聞こえてきた声は本物だ。確実に何かがそこにいるのだろう。

 俺はバインダーを開き、ナイフを右手に構える。


「ボァー……」

「うわ」

「スケルトロール、純粋なる闇の魔物です。動きは鈍いですが、体が大きいので気をつけて」


 現れたのは、巨大な人骨のようなモンスターであった。

 いわば、でかいスケルトンである。体長2メートルちょい程度。手に武器はなく、鎧や服も着ていないが、その図体のデカさだけで十分な威圧感がある。


「ひぃ……」


 高い声をあげて後ずさるギンだったが、さすがの俺も一歩退いた。

 右手には鋭利なダガーが握られていたが、こんなちっこいものでどうにかなる気がしなかったのである。


「どうするか……」


 動きは鈍いらしいが、いかんせんデカい。通路の幅をカバーする程度の腕のリーチはあるし、くぐり抜けることはできないだろう。

 ここは一旦退くしか無いのだろうか。それとも、スキルカードを使うべきだろうか。

 俺がそう悩んでいると……。


「光輝神の清き閃きよ、穢れし闇の眷属を追い払え……『ホーリー・ライト』」

「ウボァー!?」


 一歩前に出たクローネが、その手から眩い白光を撃ち放ったではないか。

 太陽光のようにギラギラと輝く光は通路を鮮やかに染め上げ、直線上に立つスケルトロールの骨を灰に変えてゆく。


「ウボァー……」


 数秒も光に照らされていれば、スケルトロールはバラバラに砕け散り、無残にも床に転がった。

 唖然とする俺ら。無言で、辛うじて残ったスケルトロールの遺骸へと歩み寄るクローネ。


「闇の眷属め。この、このっ!」

「ボアァア……」


 そしてトドメの足蹴である。まさに死体蹴り。わずかに形を残していた頭蓋が完全に粉微塵にされると、スケルトロールの灰は煙に巻かれたように吹き飛び、サラサラと消滅していった。


「……さあ! こういう調子で、次に行きましょう!」

「お、おう」

「ハイ」

「ぴー……」


 俺たちは笑顔を向けるクローネに対し、空返事しかできなかった。


 ……このダンジョン、クローネだけでクリアできるんじゃねえのかな。


『我が信徒クローネ、良くぞ穢れた者を討ち斃した。汝に栄光あれ』

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