プロローグ
「うぅ、金がねぇ」
レンタルビデオショップで、深々と溜め息をつく少年がひとり。
目の前の棚には輝かんばかりに楽しげなビデオの群れ群れ群れ……。
「しまった、マンガ買いすぎた。CD買いすぎた。こないだゲームも買っちまったし……」
観たい観たい観たい観たい……。
あぁ、突然大地震でも起きないだろうか。
そしたら、どさくさに紛れてこのビデオたちをゲットしてやるのに──。
「……観たい」
ジャケットを矯めつ眇めつ。
ぜってぇ、楽しい! これはイケるっ‼︎
自分の野生の勘(?)が告げている。
……告げてるのに。
「借りられねぇ……」
いん・ざ・だーく。
真っ黒な人魂みたいなヤツを背負って、少年──楽はまた溜め息。
あぁ、突然超巨大怪獣でも攻めてこないだろうか。
そしたら、どさくさに紛れて……
いつからだろう、夜が好きになったのは。
夜道を歩きながら、楽は思う。
朝は嫌いだ。
自分の無力さを思い知らされる──……
「ただいまー」
誰もいない家なのに、どうしてそういってしまうんだろう。
気休め、なのだろう……たぶん。
返事なんて、期待してないけど。
「……?」
リビング・ルームのほうから音がする。
あれは……
「とーさんっ⁈」
学生鞄を玄関に放り出して、楽は走る。
「とーさ──」
「ふに?」
……女の子がいた。
膝を抱えて、真っ暗なリビングでテレビを観ていたらしい(すでに電気はつけた)。
彼女は楽の姿を目にすると立ち上がった。
「あ、楽だー! おかえり~!」
『おかえり』
楽は言葉を失った。
女の子は不思議そうに首を傾げてテレビを指差す。
「ねっ! 楽も一緒に観ない? 楽しーよ~」
それはなぜか、楽が先程ビデオショップで見つめまくって諦めたSF……
「なっ……なんだおまえはっ⁈」
不法侵入。見ず知らずのイカれた小娘……。
ハ、まさか……
「ス、ストーカー⁉︎
ど、どうやって入ったんだ⁈
鍵はちゃんと閉まって──」
「何いってんの? 楽??」
「で、出てけっ! すぐ出てかないと、不法侵入&不退去罪で警察呼ぶぞっ‼︎」
少女は楽に歩み寄る。
肩に届かない程度で切り揃えられた柔らかそうなブラウン系の髪。
大きな薄茶の瞳。
背が低くて、かわいい系といえるだろう。
「あたし、タイムっていうの!
よろしくね、マイ・パートナー」
「……っ」
「や〜だ〜、そんな供えないでよ?
これから二ヶ月間一緒にトレジャーハントする仲じゃないっ♡」
馴れ馴れしく腕を取って、彼女は微笑んだ。
「んとね、あたしエンタア星から来たの!
トレジャーツアーっていう、宝探しな観光兼ねた宇宙旅行? ってヤツで。
この辺境惑星って今、ソウルラッシュなのよね~っっ」
……ヤバイ、この小娘マジでイカれてる……
「は、離せよっ!」
少女の手を振り解き、楽は後退する。
玄関にダッシュ!
「にゃあ、こら、君!
人の話聞いてよ~!」
「ひゃ、ひゃくとうばん、警察、あたまパーな小娘ストーカーが……」
携帯電話を取り出し、靴を引っ掴み、玄関のガラス戸をオープン!
……しない。
「いッ⁈ なんで開かねぇ⁈」
ミドルキックとローキックを繰り出すが、戸のHPだか防御力が高いのか、きゃつはちっとも倒せない。
「ふっふっふっふ。ムダですよ~マイ・パートナー。
あたし超能力シールド、戸に張っちやったもん~。
ちなみにこんなこともできますのよ?」
楽の背後で楽しそうな声を上げ、タイムはメビウスリングを填めた左の人差し指で、宙に軽く弧を描く。
その動きに反応したように、玄関付近にあった置物や造花、電話機などが宙に浮かぶ。
「んっふっふ♪ 念動力ってヤツですわ」
タイムは人差し指を楽に向ける。楽に迫る物の群れ!
「うわッ⁈」
学生鞄で、楽はそれらを叩き落とした。
「ん~、まーこれくらいでダウンするようじゃ、あたしのパートナーは務まらないよね」
タイムは更に物を浮かせ、楽にアタックさせる。
置き時計とか、靴とか、スタンドライトとか。
「うわッ⁈ うわ、うわ、うわわッッ⁈」
学生鞄でそれらを弾くようにして防御しまくり、楽は肩で息をする。
足元では、いろんな物がブレイク、ブレイク、ブレイク……
「おま……一体、なにもん……?」
「えー? あたしー? トレジャーハンター。
ん〜、そうね、君にわかりやすくいうと、超能力者な異星人──ってとこかな?」
「いせ……宇宙人ッ⁈」
「ま~呼び方なんて、どうでもいいんだけどさっ、とにかくあたしはこの地球って星にトレジャーハントに来たわけよ。
んで、君はめでたくあたしのパートナーに選ばれたってわけさ」
「……な、なんでオレ?」
「旅行会社の趣旨?
『地球人と手と手を取り合ってハントしましょっ、きっとあなたのメモリーズ・トレジャーな旅行になるなるっ!』って、パンフにあってさ~、楽しそうでしょッ!
で、君はいろいろな条件を満たした人々の中で、アトランダムに選ばれたっていうか」
「……つまり、オレは、巻き込まれただけ、ってわけか……?」
「ん~? でも君にだって、ベリーナイスな特典がつくっていうか……悪い話じゃないわよ?
トレジャーは協力してくれた地球人と山分けするんだから。
あ、君に拒否権はないから」
「……、他を当たってくれ」
「え~? でもあたし楽と一緒で嬉しいな〜。
楽って別にスポーツマンってわけじゃないけど、運動神経それなりにいいし。勉強もそこそこできるし、顔もスタイルもあたし好みだし♡」
ちなみに楽は、素朴系というか──いい意味で普通の少年といった外見をしている。
見る人によっては、かっこよくも感じるだろう。
「なにより……」
「?」
「……ううん、なんでもない。
……ん、それに君とは初めて逢った気がしないっていうか。
パートナーには相性のよさが必要よっ‼︎」
「……、頼むから帰ってくれ」
「……ん~、ちなみに、トレジャーは日本円に換金して約三百万円。
二人で山分けすると、百五十万円。
……って、とこなんだけど……君はそんなものに心惑わされる人じゃないよね……。ごめんね」
タイムは楽の足元ら辺に手のひらを向ける。
すると、壊れたはずの物が時を遡るように元通りに直り、更に元あった場所に向け飛んでいく。
──ちなみにこれは、ちょっとした物を修復できる能力であって、人には使えない。
「楽、あなたは……」
何かいいかけるタイム。だが楽はいきなり詰め寄ると、タイムの肩を掴んだ。
「きゃッ⁈」
「──か? 百五十万円ってのは、本当か⁈」
「え? ええ……」
それだけあれば、金がなくて諦めたあれやこれやが買える!
ビデオも観れる──……
それに、一人で働いて自分を育ててくれている母親に、その金を……「うしっ! やるやる‼︎ オレ、トレジャーハンターやるッ‼︎」
「トレジャーっていうのは、人間のピュアソウルズなの。
ハート型の宝石みたいな、綺麗な心の結晶でね、あたしはこれから二ヶ月間、地球に滞在して──君と二人で、七つのピュアソウルズを集める。
あたしの星やあたしの近くの星ではそれが高く売れるの。
あ、でも別に、ピュアソウルを頂いても、ソウルの持ち主にはなんの影響もないから。
ソウルのてあたしたちはいうけど、この場合、もしかしたらハートとかスピリチュア? とかに近いのかもね?
ちなみにあたしはその間君んちに住むことにするから」
「ど、どうやって?」
リビングに場を移し、楽とタイムは話している。
二人してソファーに座っている。
「記憶操作をさせてもらう。
あたしは君のイトコ。君と、君の母親と、あたし。三人でこの家に暮らしている。
ちなみにあたしは君の通っている中学にも通うから。めんどくさいから、転校生ではなくて、前から学校にいたって設定で。クラスも一緒よ。
あ、ちなみにあたしはパワーブレスレットで日本語喋れるってだけでなく、読み書きもも可。英語もそれなりにオーケー」
「……記憶操作による後遺症や、副作用は?」
「心配ないわ。
それに、滞在期間が切れたら、あたしに関する記憶はみんなから抹消されるから。そのつもりでね?
あ、滞在中のあたしの生活費なんかはちゃんとこちらで負担するからね」
「……なんかSFっぽいな」
「まー一応宇宙人ですから。
ちなみにあたしの星の生物学的体型は地球人とほぼ同じ。
でも、あたしたちは君らと違って超能力が使用可能。
科学文明レベルはずっと上っていうか、超能力と科学をミックスして文明築いてるって感じかな。
惑星間航行も可能だったり、次元トンネルを通ることにより、何万光年もの距離を短時間で進めたり……。
星は統合国家っていうか……星一つが、一つの国って感じかな。
宇宙連邦っていうのに、知的生命体が一定以上の文明レベルに達した星は加盟してたりして……」
「よくある話だな」
「……でもホントなんだもん。
宇宙連邦加盟星は平和よ。戦争なんて、殆どしないわ。
あ、中には魔法文明レベルの高い星とかもあったりして」
「超能力とどう違うんだ?」
「いや、やっぱ違うでしょ? あっちは地球でいうトコの、アーサリアン・ファンタジーみたいなノリ?」
「ん~オレはどっちかってーとファンタジーよかSFラヴだ」
「ロマンよね~。あ、後でさっきのビデオ一緒に観ようね」
「勿論だぜッ!」
なんとなく盛り上がって、二人は笑い合う。
「……にしても、ほんと遅いよね。楽のおかーさま」
「うん、仕事が忙しくて殆ど家にいない」
「……さみしいね」
楽はソファーの上で片膝を抱えた。
「タイムはさ、オレのこといろいろ知ってるんだろ?」
「うん。パートナーだからね、いろいろ調べた。
ていうか、旅行会社がサーチしてくれたっていうか。資料いろいろもらってる」
「じゃ、知ってるよな。うち、親父いないんだ……」
「……楽……」
「でもまっ、別にあんなのどうだっていっけどな」
渇いた声で笑って、楽は前髪を掻き上げた。その目が笑っていない。
タイムは切なげに楽を見つめる。
「で、そのピュアソウルってのは、どうやって見つけるんだ?」
「探知機があるわ。あたしの場合は、あなたの回りの人間──とりわけ学校の人間──から、ピュアソウルハントをすることになってる」
「なんで?」
「旅行会社の趣旨? 青春ファイアーみたいな」
「……よくわからん」
「楽しければいいのっ!
それがエンタア星のみんなの行動原理っていうかぁ」
「……楽しければいい、か……」
楽は少し考え込んだ。
「…………それも一つの真理かも知れないな」
そういった彼はなぜか酷く寂しそうだった。




