第3話 聞こえない日もある
数日後
同じ筐体の前に立っているはずなのに、
前回とは空気が違った。
(……静か)
ケースの中のフィギュアは、何も言わない。
すきは、操作パネルの前で指を止めたまま、動けずにいた。
「ん?」
横から、明るい声。
「やんないの?」
天秤沙希だった。
「……分からなくて」
「そっか」
即、納得。
理由は聞かない。
「じゃ、今日はやめよ」
「え?」
すきは、思わず声を上げた。
「まだ、何も――」
「うん」
沙希は、あっさり言う。
「分からない日」
それだけ。
「分からない日に触ると、
癖つくから」
軽口みたいなのに、判断は即。
すきは、何も言えなかった。
別の客が、同じ台をプレイする。
ボタンを押す。
アームが降りる。
掴み上げる。
――落ちる。
「……あれ?」
この店でよく見る解説おじさんが首を傾げた。
「昨日と同じ感じなのに」
もう一回。
落ちる。
「設定、渋いな」
その言葉に、すきは小さく息を吐いた。
(……昨日と、同じじゃない)
「ね」
沙希が、すきに言う。
「初手、どうだった?」
「……できませんでした」
「そっか」
少しだけ、考える。
「じゃ、今日はハズレ」
「天秤さんも……ですか?」
「私?」
沙希は、にっと笑った。
「今日は取れない」
迷いなく言う。
「初手で取れない日」
すきは、驚いた。
「そんな日、あるんですか」
「あるある」
軽い調子。
「理由は知らない」
断言。
「でも、取れない日は取れない」
それだけ。
すきは、胸の奥が少し苦しくなった。
昨日は、できた。
今日は、できない。
同じ場所なのに。
「……天秤さん」
すきが、小さく呼ぶ。
「ん?」
「私……」
言葉が、途切れる。
沙希は、待つ。
急かさない。
「……声が」
すきは、意を決した。
「フィギュアの声が、
聞こえるときがあるんです」
沙希は、一瞬だけ瞬きをした。
「へえ」
それだけ。
「今日も?」
「……今日は、聞こえません」
「じゃ、同じだね」
即答。
「私も取れない日」
すきは、思わず沙希を見た。
「信じないんですか?」
「うん?」
沙希は、首を傾げる。
「信じるとかじゃなくて」
少しだけ真顔になる。
「取れない日は、取れない」
それだけ。
「だから、今日はやらない」
ケースの向こう。
制服姿の店員――ミスター初期位置が、静かにこちらを見ていた。
沙希は気づかない。
すきも、まだ知らない。
「……また、来てもいいですか」
すきが、聞く。
「うん」
沙希は、軽く手を振る。
「次は、取れる日で」
フィギュアは、最後まで黙ったままだった。




