第15話 最後の100円
「ラスト100円」
表示盤の数字が、点滅している。
残金:100円
会場が、静かになった。
「……一回戦、最終局面です」
アナウンスの声が、やけに遠い。
すきは、成宮の背中を見ていた。
沙希も、凛も、詠も――誰も前に出ない。
「順番だ」
審判が言う。
「この景品、最後は成宮」
ざわ、と観客が揺れた。
向かいの台。
同じく、仁が前に出る。
「ラストか」
仁が、薄く笑った。
「いいね。
才能と凡人」
成宮は、何も言わなかった。
⸻
ハイエナの仁
仁が、先にコインを入れる。
その手つきに、迷いはない。
(……いつも通りだ)
仁の頭に、過去がよぎる。
古いゲームセンター。
床に落ちてる小銭。
失敗すれば、今日の飯がない夜。
(取れるか、取れないか)
(俺には、取る才能しかなかった)
下降。
アームが、完璧な位置で箱を掴む。
「……うまい」
沙希が、思わず呟く。
箱は前に出た。
理想的な一手。
仁は、振り返らない。
「次、終わりだ」
そう言い切る。
⸻
成宮
成宮が、コインを握る。
100円玉が、やけに重い。
(……俺か)
頭に浮かぶのは、
詠や沙希が一瞬で取った景品。
凛が整えた盤面。
すきが、静かに落とした一手。
(みんな、すげえ)
そして――
自分。
(俺は、何もない)
凡人だと思う。
ふと、思い出す。
欲しいものは、全部買ってもらえた。
でも、「取った」記憶はない。
(……だから)
成宮は、台を見た。
仁が作った“完璧な配置”。
でも――
(今の盤面は、完璧じゃない)
詠が壊した歪み。
沙希が残した角。
凛が戻した流れ。
チームの痕跡が、確かにある。
成宮は、100円を入れた。
⸻
凡人の一手
移動。
仁とは、違う位置。
「……そこ?」
仁が、初めて振り返った。
下降。
アームが箱に触れる。
一瞬、滑る。
「――っ!」
観客が息を呑む。
でも。
箱は、止まった。
歪みが、噛み合った。
次の瞬間。
箱が、落ちた。
⸻
「獲得!」
一拍遅れて、歓声が爆発する。
成宮は、しばらく動けなかった。
「……取れた?」
足が、震える。
詠が、先に叫んだ。
「っは……っ!!
やっば……!!」
完全に、脳汁が出ている。
「ね!?
言ったでしょ!
一番気持ちいい賭け!!」
沙希が、拳を握る。
「……やった」
凛は、静かに息を吐いた。
「凡人の最適解」
すきは、成宮を見ていた。
(……うん)
ちゃんと、聞こえてた。
⸻
敗者
仁は、台を見つめたまま動かない。
(……なんでだ)
(才能は、俺のほうが上だ)
でも、盤面は答えを出していた。
仁は、笑った。
「……参った」
肩をすくめる。
「チーム、か」
金を見る。
「いい仲間だな」
成宮は、ゆっくり頷いた。
「……うん」
⸻
勝者
「勝者――
昏華すきチーム!」
アナウンスが響く。
成宮は、まだ実感がなかった。
詠が、背中を叩く。
「脳、焼けた?」
「……少し」
成宮が、苦笑する。
「でも」
詠は、満足そうに笑った。
「それでいいんだよ」
すきが、ぽつりと言う。
「……、最後取れそうな気がした」
「それ、褒めてる?」
「うん」
成宮は、初めて胸を張った。
才能はない。
でも――
最後の100円で、掴んだ勝利。




