表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くれげの世界  作者: ぐろ
15/71

第15話 最後の100円

「ラスト100円」


 表示盤の数字が、点滅している。


残金:100円


 会場が、静かになった。


「……一回戦、最終局面です」


 アナウンスの声が、やけに遠い。


 すきは、成宮の背中を見ていた。

 沙希も、凛も、詠も――誰も前に出ない。


「順番だ」


 審判が言う。


「この景品、最後は成宮」


 ざわ、と観客が揺れた。


 向かいの台。

 同じく、仁が前に出る。


「ラストか」


 仁が、薄く笑った。


「いいね。

 才能と凡人」


 成宮は、何も言わなかった。



ハイエナの仁


 仁が、先にコインを入れる。


 その手つきに、迷いはない。


(……いつも通りだ)


 仁の頭に、過去がよぎる。


 古いゲームセンター。

 床に落ちてる小銭。

 失敗すれば、今日の飯がない夜。


(取れるか、取れないか)


(俺には、取る才能しかなかった)


 下降。


 アームが、完璧な位置で箱を掴む。


「……うまい」


 沙希が、思わず呟く。


 箱は前に出た。

 理想的な一手。


 仁は、振り返らない。


「次、終わりだ」


 そう言い切る。



成宮


 成宮が、コインを握る。


 100円玉が、やけに重い。


(……俺か)


 頭に浮かぶのは、

 詠や沙希が一瞬で取った景品。

 凛が整えた盤面。

 すきが、静かに落とした一手。


(みんな、すげえ)


 そして――

 自分。


(俺は、何もない)

凡人だと思う。

 ふと、思い出す。


 欲しいものは、全部買ってもらえた。

 でも、「取った」記憶はない。


(……だから)


 成宮は、台を見た。


 仁が作った“完璧な配置”。

 でも――


(今の盤面は、完璧じゃない)


 詠が壊した歪み。

 沙希が残した角。

 凛が戻した流れ。


 チームの痕跡が、確かにある。


 成宮は、100円を入れた。



凡人の一手


 移動。


 仁とは、違う位置。


「……そこ?」


 仁が、初めて振り返った。


 下降。


 アームが箱に触れる。


 一瞬、滑る。


「――っ!」


 観客が息を呑む。


 でも。


 箱は、止まった。


 歪みが、噛み合った。


 次の瞬間。


 箱が、落ちた。



「獲得!」


 一拍遅れて、歓声が爆発する。


 成宮は、しばらく動けなかった。


「……取れた?」


 足が、震える。


 詠が、先に叫んだ。


「っは……っ!!

 やっば……!!」


 完全に、脳汁が出ている。


「ね!?

 言ったでしょ!

 一番気持ちいい賭け!!」


 沙希が、拳を握る。


「……やった」


 凛は、静かに息を吐いた。


「凡人の最適解」


 すきは、成宮を見ていた。


(……うん)


 ちゃんと、聞こえてた。



敗者


 仁は、台を見つめたまま動かない。


(……なんでだ)


(才能は、俺のほうが上だ)


 でも、盤面は答えを出していた。


 仁は、笑った。


「……参った」


 肩をすくめる。


「チーム、か」


 金を見る。


「いい仲間だな」


 成宮は、ゆっくり頷いた。


「……うん」



勝者


「勝者――

 昏華すきチーム!」


 アナウンスが響く。


 成宮は、まだ実感がなかった。


 詠が、背中を叩く。


「脳、焼けた?」


「……少し」


 成宮が、苦笑する。


「でも」


 詠は、満足そうに笑った。


「それでいいんだよ」


 すきが、ぽつりと言う。


「……、最後取れそうな気がした」


「それ、褒めてる?」


「うん」


 成宮は、初めて胸を張った。


 才能はない。

 でも――


 最後の100円で、掴んだ勝利。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ