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くれげの世界  作者: ぐろ
12/62

第12話 開会式


 会場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 同じクレーンゲームのはずなのに、配置も照明も、どこか整いすぎている。

 台がずらりと並ぶ光景は、遊び場というより競技場だった。


「……台、多くない?」


 金が思わず呟く。


「競技用ね」


 凛はもう台のアームや橋幅を観察している。

 沙希は周囲を見回し、無意識に強そうな人間を探していた。


「いいねえ」


 詠だけが楽しそうだった。


「全員、目が本気だ」


 すきは、入口付近で立ち止まっていた。


「……音が」


「音?」


 沙希が振り返る。


「ここ、音が多い」


 意味の分からない言葉。

 でも、すきの視線は一台一台をなぞるように動いている。


(呼ばれてる……?)



「参加チームはこちらへ」


 声をかけてきたのは、小柄で無表情な男だった。

 ミスター初期位置。


 招待状を一枚ずつ受け取り、淡々と確認していく。

 すきの番になったとき、ほんの一瞬だけ手が止まった。


「……まだ覚醒には」


「え?」


 聞き返す前に、招待状は返されていた。


 意味は分からない。

 でも、胸の奥がざわつく。



 会場中央の簡易ステージに、一人の老人が立った。


 クレーンゲーム協会 会長。


 派手さはないが、視線だけで場を支配する存在感があった。


「集まってくれて感謝する」


 ざわめきが静まる。


「諸君らは、クレーンゲームには何が大事だと思っている?」


 誰も答えない。


「腕力か?金か?」


 会長は首を振る。


「違う」


 静かな声が、はっきりと響く。


「クレーンゲームはだれにも平等!大事なのは」


 一瞬、間。


「観察と執念だ」


 転売ズチームが、わずかに顔をしかめる。


 そして会長は――

 ふっと視線を逸らした。


 すき。


 確かに、彼女を見ていた。


「……いや」


 わずかな沈黙のあと、続ける。


「あと未来予測かな」


 会場がざわつく。


 すきは、自分が見られていることに気づかない。

 ただ、フィギュアケースの中の“声”が、少しだけ強くなった。



 チーム紹介が始まる。


ハイエナの仁 チーム


 最後列で、仁が腕を組んで立っている。


「へえ……」


 すきたちを見て、口角を上げた。


「やっぱり、いたか」



転売ズチーム


 景品を見る目が冷たい。

 効率と金額だけを計算している。


 凛は、静かに目を逸らした。


(勝ち方を、間違えてる)



物理学者チーム


 専門用語が飛び交う。

 重心、摩擦、トルク。


 すきは小さく首を傾げる。


(……言葉、多い)



大学クレーンゲームサークル


 賑やかで軽い空気。

 中心には笑顔の女子――いわゆる“姫”。


「なんか安心するな……」


 金がぽつりと漏らす。



ママさんバレー・チーム


 声掛け、立ち位置、順番。

 無駄がない。


 沙希が小さく呟いた。


「……強いね」



マセガキ小学生チーム


 堂々と胸を張っている。


「お姉ちゃん、強そう!」


 すきが声をかけられ、固まる。


「……え、あ、うん」


 詠が吹き出した。


「人気者じゃん」



 全チームが揃い、対戦表が表示される。


 会場が息を呑む。


『初戦

 昏華すき チーム

 vs

 ハイエナの仁 チーム』


 空気が、一段重くなる。


「初戦から当たるか」


 仁が笑った。


「いいね。歓迎する」


 沙希が一歩前に出る。


「……行こう、すき」


 すきは、台を見つめていた。


(……この台)


 音が、嫌な鳴り方をしている。


 それでも。


「……うん」


 まだ誰も知らない。

 この大会が、

 五人それぞれの“原点”を引きずり出すことを

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