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くれげの世界  作者: ぐろ
第一章 中学編
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第1話 ワンパン少女現る

ゴトン。


金属音が、床を伝って広がった。


クレーンが動いた、その瞬間。


それまでばらけていた視線が、

わずかに一点へと寄る。


ゲームセンター特有のざらついた空気。

光る筐体の反射。

どこか湿ったような匂い。


その中で、

一手だけ、異様に“静か”だった。


アームが降りる。

迷いがない。


吸い付くように、箱の角を捉えた。


そのまま持ち上げて、

落ちた。


ゴトンっ。


乾いた音が、遅れて響く。

一発だった。


「……え?」


誰かの声が、少し遅れて漏れる。


箱型のフィギュアは、

まるで最初からそこに落ちることが決まっていたみたいに、

獲得口へと収まっていた。


一瞬の静寂。


次の瞬間。

ざわめきが、波みたいに広がる。


「今の……初手?」

「初期位置からだよな?……」


その中心にいるのは、一人の少女。


天秤沙希(てんびんさき)


小柄で、眠たげな目。

本人だけが、

この空気から少しだけ外れている。


指先を、軽く見下ろす。


さっきの感触を、

確かめるみたいに。


「……あれ?」


首を傾げる。


「取れちゃった」


失敗したみたいな口調。

ざわめきが、少しだけ大きくなる。


沙希は気にしない。


フィギュアを取り出して、

光にかざす。


プラスチックの表面が、

白く反射する。


「うん。かわいい」


それだけ言って、

次の台へ向かった。



昔から、運はよかった。


ガチャを回せば、欲しいものが出る。

くじを引けば、当たりを引く。


そして、クレーンゲームでも


「この位置なら……ここ、かな」


考えているようには見えない。


指が、

迷いなくボタンへ伸びる。


ゴトン。


まただ。


アームが箱を捉え、

持ち上げ、

落とす。


「……また?」


「おかしいだろ……」


人が、少しずつ集まり始める。

視線が刺さる。


でも。

沙希は少しだけ困ったように笑うだけだった。


「えっと……そんなに珍しい?」


誰も、答えられない。



ただし。

沙希の強みは、“最初の一手だけ”だった。


二手目。


配置が、わずかに崩れる。


「……あれ?」


指が止まる。

画面と景品を見比べる。


三手目。


わからない。

どこを触ればいいのか。


スカっ。


アームが、空を切る。


「……あ」


惜しい。

あと一手で落ちる形。


なのに。

身体が、前に出ない。


手を伸ばしかけて

止める。


「……うーん」


ほんの一瞬だけ、

眉が寄る。


そして。

引いた。


その場から、一歩だけ。

距離が、できる。



「……ごちそうさん」


低い声。

すぐ後ろから、落ちてきた。


振り返るより先に、

男が前に出る。


ハイエナの仁。


迷いがない。

空いた台に滑り込む。

視線は、景品だけ。


ゴトン。


一手。

それで、終わった。


「……え」


沙希の声が、わずかに揺れる。


ほんの少しだけ。

遅れて。

理解が追いつく。


仁は景品を取り出しながら、

肩をすくめた。


「置いてったの、そっちだろ」


軽い口調。


でも。

視線は、一度も合わせない。


「ゲームセンターは、戦場だ」


そのまま、去る。


足音が、雑踏に消える。

沙希は、その背中を見ていた。


少しだけ。

ほんの少しだけ。

唇が尖る。


指が、わずかに動く。


取り返そうとして、

やめる。


「……さっきまで、私のだったのに」


小さく、こぼす。


その声は、

誰にも届かない。



少し離れた場所。

一人の少女が、それを見ていた。


昏華(くれげ)すき。


黒髪。

無表情。


その視線は、

景品ではなく、台に向いている。


(……今の)


アームの軌道。

箱の傾き。

力のかかる一点。


(掴み、角度、戻り)


(全部、見えた)


まるで。

答えをなぞるみたいに。


すきは、胸に手を当てる。

鼓動が、少しだけ早い。


(……なんで、わかるんだろ)


理由は、出てこない。


ただ、

さっきの一手が、

頭の中で何度も再生される。


同じ軌道。

同じ落ち方。

何度でも。


(……あそこ、触れば)


落ちる。


確信に近い何か。

すきは、ゆっくりと一歩前に出た。


景品ではなく。

台へ。

手を伸ばす。


その距離は、

ほんの数十センチ。


でも、

さっきまでとは、

まるで違う距離だった。


まだ誰も知らない。


その一手が、

“偶然”ではないことを。

※本作は執筆補助(改行、誤字チェック)としてAIを使用しています。

プロット・構成・台詞・最終的な文章表現は作者によるものです。

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― 新着の感想 ―
一発で仕留める沙希の「静かな一手」にグッと来ました。 ゲームセンターの喧騒の中で、そこだけ時間が止まったような描写が素敵です! ハイエナの仁の冷徹さと、それを凝視するすきの底知れぬ観察眼。 三人…
クレーンゲームですか! めちゃ斬新です。 続きが楽しみです!
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