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くれげの世界  作者: ぐろ
1/62

第1話 ワンパン少女現る



 ガコン。


 クレーンが動いた瞬間、ゲームセンターの空気が変わった。


 アームが景品を掴む。

 そのまま、迷いなく持ち上げる。

 そして——。


 一発で落ちた。


「……え?」


 周囲から、間の抜けた声が漏れる。


 箱型のフィギュアが、まるで最初からそこに落ちる運命だったかのように、排出口へと吸い込まれていった。


 それをやった張本人は、少女だった。


 制服姿。

 小柄で、少し眠たそうな目。


 天秤沙希てんびん・さき


 本人はというと、画面を見つめたまま首を傾げている。


「……あれ? 取れちゃった」


 まるで失敗したみたいな口調だった。


 周囲がざわつく。


「今の見た?」

「初手だよな……?」

「配置、悪くなかったか?」


 だが沙希は気にしていない。

 フィギュアを取り出し、軽く眺めると、満足そうに頷いた。


「うん。かわいい」


 それだけ言って、次の台へ向かう。



 沙希は、昔から運がよかった。


 ガチャを回せば目当てが出る。

 くじを引けば当たりを引く。

 そしてクレーンゲームでは——。


 なぜか、最初の一手だけは完璧だった。


「この位置なら……ここ、かな」


 深く考えているようには見えない。

 直感でボタンを押す。


 ガコン。


 まただ。


 アームが吸い付くように箱を掴み、持ち上げ、落とす。


「……また一発?」


「おかしいだろ……」


 人だかりができ始めていた。


 沙希は少しだけ困った顔をする。


「えっと……そんなに珍しい?」


 誰も答えられなかった。



 ただし。


 沙希の強みは、最初の一手だけだ。


 二手目。

 三手目。


 配置が崩れ、微妙な状態になると——途端に、迷う。


「……あれ?」


 アームが空を切る。


「……あ、ずれた」


 明らかに“あと一手”の位置。

 だが、沙希はそれ以上踏み込めない。


 そして——。


「……うーん」


 諦めた。


 景品をそのままに、沙希はその場を離れる。



 その瞬間だった。


「……ごちそうさん」


 低い声。


 いつの間にか背後に立っていた男が、空いた台に滑り込む。


 ハイエナの仁。


 誰かが諦めた台だけを狙い、

 最小限の投資で景品をかっさらう男。


 ガコン。


 ——コトン。


 一手で、落とした。


「なっ……」


 沙希が振り返る。


「それ……私の……」


「諦めたんだろ?」


 仁は肩をすくめた。


「ゲームセンターは、戦場だ」


 そう言って、景品を回収する。


 沙希は唇を尖らせた。


「ずるい……」


「努力だよ」


 仁は笑った。



 そのやり取りを、

 少し離れた場所から見ている少女がいた。


 昏華(くれげ)すき


 黒髪。

 無表情。

 だが、その目は——景品ではなく、台そのものを見ていた。


(……今の)


(掴み、角度、戻り)


(全部、きれいに見えた)


 アームの動き。

 箱の揺れ。

 重さのかかる位置。


 まるで、世界が透けて見えるみたいだった。


 すきは、胸に手を当てる。


(……なんで、わかるんだろ)


 答えは、出ない。


 ただ——。


 沙希が悔しそうに立ち尽くす姿を見て、

 すきは、ゆっくりと一歩前に出た。


 まだこの時、

 誰も知らない。


 この少女が、

 クレーンゲームの世界を揺るがす存在になることを。

※本作は執筆補助としてAIを使用しています。

プロット・構成・最終的な文章表現は作者によるものです。

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