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リクエスト短編:ただいまの重み

2025年上半期にX(Twitter)にて募集した見本誌プレゼントキャンペーンの特典、リクエスト短編の1つになります。

本当は昨夜書き上げた本編投稿する予定だったんですがそれを読んだ家族から「年末年始にこれは読みたくない」とNG出されまして(胃がきりきりするやつ)……。

というのと、今回のリクエスト短編が書き上げた本編の内容にちょっと絡んでいるので、先にこちらを公開することにしました。

「父さん、母さん……、うちって五百石の旗本、で合ってたよな?」


 突然の洋士の発言に、隣に座っていたエレナは「この子は今更なにを言ってるんだ?」と言わんばかりの表情で僕を見ている。


「うん? そうだね」


「うち」と言うくらいだから洋士が生まれて以降の話だろうと判断し、頷く。江戸と呼ばれた時代では、多少の増減はあれど平均して五百石を保っていた。


「この間少し江戸について伊織と話をしたんだが、どうもその石高の他の旗本とうちの暮らしぶりがズレてると困惑されたんだ。いや、勿論食事をする必要がない分家計が浮く事は伊織も分かってるらしいんだが」


 それを差し引いても今まで研究されてきた情報とまるで一致せず伊織さん(教授)が困っている……と、そういう事なのだろう。


「うーん……まあ五百石なのは間違ってはいないけど、色々特殊だったのも事実だからなあ……」


「はは、こー坊もまだまだ子供だねえ……まさか今更そんな事に気付くなんて」


「ぐっ……、いや思い返せばなんかおかしいなと感じる事は多々あったなと……。ただほら、家禄とか暮らしぶりを比較する相手なんて居なかったから気付けなかったんだけで」


 ごにょごにょと言い訳をする洋士。うーん、そう言えば目付きや態度が悪い云々なんて言われて、友達出来なかったもんね……。


「あんたに友達が居なかった事を親のせいにするんじゃないよ。『お宅の息子さんが結婚出来ないのは貴方のせいでしょう』なんてよく言われたけどね、今なら言える! 結婚しないのは本人の資質であって私は関係ないって!」


 ちょっと同情した僕とは違って、鼻で笑うエレナ。相変わらずこういうところは一切容赦がない。でも多分、親の贔屓を抜きにしても結婚相手としては洋士はかなり優良物件だと思います。ただちょっと規格外過ぎて逆に誰も近寄れないだけなんじゃないかな……、うん。本人もそのつもりがないんだと思うし。いやでも、ナナの事はどう思ってるんだろう? お父さん、その辺りちょっと気になります。


「ちが、俺は結婚出来ないんじゃなくてしないだけだ! ……いや、今聞きたいのはそういう事じゃなくて……」


 エレナには叶わないと分かっているからだろう、先ほどから捨てられた仔犬みたいな表情でこっちを見てくる洋士。これはこれで新鮮だし凄く可愛いからずっと見ていたいけれど、さすがに可哀想だったので話を進める事にした。


「えーと、五百石の無役旗本にしては悠々自適な暮らしすぎやしないか?っていう話で合ってる?」


「あ、ああ……、だいたいそんなような事を言っていた」


「まあ確かに農民六割、領主四割がだいたいの取り分だから、手元に残るのは二百石。一石がおよそ一両。現代換算でおよそ十二万前後だとして二百二十万円。普通はそれだけじゃ生活出来ないから内職をするんだよね。でも……んーとね……、僕達の正体を知っていた代々の将軍が、色々と便宜を図ってくれていたんだよ。それこそ秘密裏に請け負った仕事で、記録に残らない報酬を貰ったりとかも」


「……は?」


 僕の一言に、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で固まる洋士。あれ、この反応はもしかして……え、嘘だよね?


「……もしかして正体云々どころか将軍と繋がりがある事すら知らなかった……?」


「……」


 どうやら図星だったようです。……そっかー……。でもこれは、ちゃんと説明してなかった僕が悪いのだろう。


 壁に耳あり障子に目あり、なんてことわざもあるほど昔の家屋では秘密はあってないようなものだった。勿論人間の気配であればすぐに分かるけど、相手が僕達のような人ならざる者とか、それに類する力を扱う者である可能性も考慮する必要があった。


 だからいつどうやって伝えるべきかと悩んでいたんだけど、洋士はなんというか、立ち回りが完璧だったのだ。それでてっきり察していたのだとばかり思いこんでいたのだけれど……。どうやら僕の勘違いだったらしい。それもそうか、あの当時洋士はまだ子供だったもんなあ……。


「えっと……、僕の古い友人に、三郎……あ、織田三郎信長という人が居て、彼の領地に二年間だけ徳川次郎三郎家康殿が滞在してた事があったんだ。あまり人に姿を見られないように立ち回ってたつもりだったんだけど、家康殿は記憶力に優れてたんだろうね……。後々江戸で再開した時に『あの頃と何も変わりませんね』なんて言われてさ……いや参った参った。僕が『信長』って呼ぶのを聞いていたんだって。仮名じゃなく(いみな)を呼ぶ間柄って事に酷く驚いたみたいで、ついつい凝視してしまったと。でもねえ、普段はちゃんと『三郎』って呼んでたはずなんだよ。だから彼が聞いたのは本当にたまたま……三郎が面白がって僕に諱を無理やり呼ばせた時に聞かれてしまったんだと思うけど。間が悪いというかなんというか……。まあそれで後年、家康殿が江戸に幕府を開いた時に見つかっちゃって、この先末永く子孫の世が続くように手を貸してくれないかって直々に頼まれたんですよ。その代わりにまあ、可能な限り融通を利かせてくれた、と。僕らが江戸時代の間一度も身分を変えずに済んだのは将軍家の力添えのお陰なんだよね」


「でも……約束をしたのは家康なんだろう? 代替わりして以降もずっと、律儀に約束を守ってくれてたのか?」


「息子や孫まではまあ、家康殿が時々顔合わせの場に同席させてたから分かるんだけど……まさか江戸幕府の終焉までその話が有効だとはさすがの僕もあの時は思ってなかったよ。……家康殿がね、ご丁寧に子孫に向けて文をしたためてたんだって。ふふ、何代目だったか……なにが書いてあったのか洗いざらい教えてくれた将軍が居たんだよね。なんか『彼とその家族の生活さえ保障すれば良きに計らってくれるはずだから決して虎の尾を踏むような事をしてはならない。絶対敵に回さず、配下にしようなどという邪な思いも抱いてはならない。もしもこの言いつけを守らなければこの家康が直々にとっちめに行くからな』って」


「……それで本当に最後の将軍まで付き合いが続くなんてな」


「いや、まあ……付き合いだけで言えば今も続いてる、かな?」


「え?」


「うん。なんか家康殿の文、まだちゃんと受け継がれてるみたいで。当主が交代する度に今も律儀に挨拶に来てくれるというか……まあさすがに今は便宜を図るとか、こちらが手を貸すとかって話はもうないけどね」


「いや、続いてる事自体驚きなんだが……」


「まあそうだよね。……本当に不思議な縁だよ……」


 改めて考えてみると、没後三百数十年も続く約束って凄いよね。ましてや今の世の中、僕達のような人ならざる者はあくまで想像上の存在で、実在していると思っている人はまず居ない。それを文一つで信じさせる家康殿の知名度や信頼度の高さには、本当に脱帽だ。


「それにしても、こうして三人で落ち着いて顔を合わせるなんて何年ぶりだい?」


「母さんが日本を出て以来だから……かれこれ二百年近く経つのか」


「もうそんなに経つのか。……改めて、良い世の中になったものだねえ。家族水入らずで過ごしても誰にもなにも言われないんだから」


 エレナの発言に、僕と洋士は深く頷いた。江戸時代と呼ばれた約二百六十年間は、今でも僕にとって宝物だと思えるくらいかけがえのない日々だと断言出来る。ただその一方で、やっぱり不便な事はたくさんあった。洋士の為にやとった乳母は人間。500石というそれなりの家禄を貰う「旗本」という身分であったが故に、どうしても怪しまれぬように最低限用人や中間、女中などを雇う必要があった。


 だけど彼らに自分達の正体がバレないよう人間のような振る舞いをする事にも、限界があった。例えば大きなところで言えば用意してもらった食事を口にした後、吐き出す為に家を抜け出したりとか、糞尿の扱いとか。あの当時は水洗トイレなんてものもないし、食生活が良い武家の糞尿というのは農民が好んで回収するほど貴重な肥料だったから、どうしたって確保しておかない訳にもいかなかったのだ。


 そうした努力の甲斐あって、僕達はどうにか上手くやっていけているつもりだった。だが同じ屋根の下に暮らしている彼らには、僕達が自分達()とは明確に違うなにかに見えたのだろう。徐々に、使用人の目に恐怖心が宿るのが手に取るように分かってしまった。


 忘れもしない一六二九年。……洋士(正親)が死んだあの瞬間に僕達一家から人間らしさが一切消えたのだと思う。使用人達との関係がどう頑張っても修復出来ない状態になった事を悟った僕らは、悩んだ末に彼らの奉公を解き、以降一切の使用人を雇う事をやめたのだ。


 使用人が一人も居ない旗本など前代未聞だ。当然、良くない噂を立てられるのは覚悟の上だった。ところが、実際に耳に入ってきた噂は予想とは大きく違い、ほぼエレナに関するものだった。あの家の奥様は南蛮人だから変わっているのだ、息子が結婚出来ないのも、役につく事が出来ないのも全てあの南蛮人のせいだ、云々。


 躍起になって否定しようとした僕と洋士に対しエレナは「これが一番面倒臭くないあしらい方だろう」と涼しい顔で笑って言った。そこで初めて僕達は、その噂の出所がエレナ自身なのだと悟ったのだ。


 異国の文化を人々は知らない。なら我が家の奇行は全て私のせいにしてしまえば丸く収まるじゃないか、と。元々家族全員顔を合わせて食事をするなど、確かに他家とは違う生活をしていた事もあってその噂は誰もが納得するものだった。恥ずかしい事に僕も洋士もそれ以上の案を思いつく事が出来ず、結局彼女の提案を受け入れ、以降もその言い訳を使い続けてきた。


 「誰にもなにも言われない」事を「良い世の中」と言った背景には、そういう苦労が関係しているのだ。それなのに彼女のその声音には今も昔も僕らに対する非難も嫌みも一切なく、時折僕らが話を蒸し返しても「私のこの見た目はああいう時にしか役に立ちゃしないんだから」とただ受け流すだけ。だから僕は大きく頷き、そして心の底から彼女を歓迎する言葉を紡いだ。


「本当に。……エレナ、おかえり」


「おかえり、母さん」


「……ああ、ただいま」


 そう言ったきり僕達三人の間には、まるで二百年の別離の日々を振り返るかの如く沈黙が流れた。けれど、それも一瞬。かつてと変わらない朗らかで豪快な声音に、若干からかうような響きを含めてエレナが口を開いた。


「それにしてもあの泣き虫だったこー坊がちゃんと日本の同族をまとめ上げてるなんて……今でも信じられないよ」


「二百六十年以上一緒に暮らしていたのに、どうして貴方の頭の中の俺は未だに小さな赤ん坊なんですか!? いい加減情報をアップデートしてくださいと何度も言っているでしょう……」


 もはや何度目か分からない洋士の抗議。こういう時僕は「若いって凄いよなあ……」としみじみ思ってしまう。どうせ言ったところで直るでもなし。諦めれば色々と楽になるのに、と。


 でも考えてみれば、洋士は今や日本吸血鬼をまとめ上げ、政府とも対等に交渉する身。身内から「坊」と呼ばれているのがバレるのはイメージダウンに繋がるのかもしれない。そう考えてから、すぐに「いや」と思い直した。そもそもそんな事で侮る者が出てくるなら、かえって都合が良い気がするよね? だって逆に言えば洋士を「坊」呼ばわりできるくらい年長の人が存在するって事だから、もしそれに気付かないほど愚かなら……遅かれ早かれ自滅するって事だろうし。


 まあだからきっと、そういう政治的駆け引き云々ではなく単純に、母親からいつまでも子供扱いされている事が気恥ずかしいだけなんだろうな。だけど洋士よ……。幼名で呼ばれてるのはお前だけじゃない、僕もなのだよ。つまり本当はお母さんどころかおばあちゃんと呼んで差し支えない訳で……。諦めた方が早いと、父さんは思うぞ。

皆様2025年も大変お世話になりました。さて、2025年のハイライトですが……。

・3月、吸血鬼作家のコミック1巻が発売しました!!!!ワーパチパチパチ!!

・4月、家族が2024年の下旬に投資詐欺に遭っていた、と言う事実が発覚しました。しかも消費者金融に借りて投資していたとのことで、借金総額およそ500万円。びっくりしました。

・5月、技術書典18で人生初の同人誌を出しました。毛色がだいぶ違うのに思ったより売れて嬉しかったです(吸血鬼作家のファンの方もわざわざ来てくださったり!)。

・11月、2024年の文学フリマを見て「2025年11月の文学フリマには自分も参加したい!一人じゃ不安だから合同誌をひっさげて参加したい!」と思い立ち、他の作家さんにお声がけしつつ作り上げました、同人誌。かなり個人的にはめちゃくちゃいい出来だと思ってます(そういえばまだBOOTHに出品してない、怒られちゃう)。

・12月、今月の運勢が「今月は家電が立て続けに壊れる。しかも買い換える直前に値上がりする」で、ホームベーカリー2台壊れた上に壊れたタイミングがAmazonブラックフライデー終わった翌日で本当に泣きました。まだ新しいのは買えてませんが、次は具材自動投入機能目当てにPanasonicにしようと思ってます。

・同じく12月、約1年半ぶりに出勤。片道2時半40分。出入り制限があり、トイレと水分我慢&マウスも載せられない小さなテーブルつきパイプ椅子での作業。しかも帰りは電車が止まりまくって3時間超え。さすがにホテルとりましたが、宿泊費高すぎて働く意味が分からなくなりました(哲学)。

・更に12月、文学フリマ後の打ち上げ内で話題に出た公募に、どうしても、どうしても応募したい!と思ったものの締め切りが12/31。しかも完結作品のみ。人生で一度も長編作品を完結させたことがありませんでしたが、なんとか昨日無事応募完了しました。まじで頑張った……。


人生最大本厄、切り替わりの2/3まで引き続き頑張っていこうと思います(後厄もなかなか恐ろしいって聞きますよね……)。

※実は10月からずっと大腸の様子がおかしくて、ここの所毎日下してるんですよね、年明けたら病院行くべきかなやっぱり……。


なんのはなしだよ、って感じですが来年もよろしくお願いします!!!!!!!!!!(くそでかボイス

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2024年4月20日2巻発売!

吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

二巻表紙


1巻はこちら

― 新着の感想 ―
あけましておめでとうございます! 更新嬉しいです 番外編の時系列はどこなんだろう……? 自分も病院はなるべく行きたいない勢なのであまり強くは言えませんが、体調の異変を感じたら早めに! 病院行ってくだ…
むっちゃ怖い話で1年締めないでくださいー!w 厄年の頃は年齢的にちょうど病気が発覚しやすい時と聞きます どうぞ病院に行ってくださいまし そして早く続きを書くのです(笑) よいお年をー!
なんなら救急で飛び込んでも良いくらいかも? #7119でちょいと相談してみるのもアリなんじゃ無いでしょうか では良いお年を
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