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FreeStar〜短編集〜  作者: 楽俊
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Fly me to the moon4


「てつ、かずさん、8ビート。コード進行はそのまま。おい、今度は乗り遅れんなよ」


 そう言って、たけさんはさっきとはうって変わって疾走感のあるドラムを叩き続けた。ロックなどでも、よく聞くパターンだ。

 音が重なり増えていき、新しい風のように空気を変えていった。


 僕はコードの音に対してルート音をひたすら刻み続けた。先程と同じ音なのに違和感がなく合わせられた。

 やがて、4小節目にたけさんがライトシンバルを強く4つ入れる流れになって、暗黙の了解で合わせることができた。

 合わせたというより、吊られたの方が正しいかもしれない。


「ソロ回すぞ!」


と、たけさんが叫び、てつさんの方に視線を送った。

 すると、一気に流れが変わりてつさんのピアノソロに入った。次に、かずさんのジャズっぽいソロが終わり、音が小さくなって、三人の視線が僕に集まる。


 ソロなんてやったことなかった。

 それでも、飛び込んだ。先程、嫌というほど飛び込んだからタイミングだけは大丈夫だったと思う。

 何をしていいかわからなかったが、昔やったことある曲で好きなフレーズを弾いた。始まりの場所は違うが、理論など知らなくても指は覚えていてくれたのだろう。


 ただ、そのフレーズの先は考えていないのでわけもわからずスライドして、12フレットの先に行った。

 意味のわからない早弾きを一小節の中に詰め込み、最後の音だけ合わせた。その瞬間に、「フォウ!」と、たけさんが歓声をあげてくれた。

 てつさんが「いいね~!」と、続いて言った。

 それだけで嬉しかった。

 

 ソロが終わったあとの余韻もつかの間、たけさんのソロが始まった。自然と頭の音だけ全員で入って、その音の空いた空白に、たけさんが音を叩き込んでいった。

 

 そしたら、またてつさんにソロを回し、何度もそれを繰り返した。3人は、来る度にパターンを変えて色々な表情を見してくれた。

 

 自分は引き出しが少なく、今まで弾いたこともない音を奏でる度に迷子になった。

 それがなんとももどかしかった。悔しかったのだ。自分の中ではやりたい音があったのに、それをどう表現していいかわからないことが、こんな感情は初めてだった。

 

 やがて、ソロも終わり最初の流れに曲は戻り終わりを迎えた。

 演奏が終わったあと、流れでハイタッチをしてカウンターに戻る。

 

「生ビール4つ! てつの奢りで!」

「なんで俺なんだよ!」


 僕も一緒になって笑いながら時計を見ると、まだ30分もたっていなかった。

 わずか30分だったが、今まで楽器を演奏してきた時間を圧縮したかのような濃密な時間だった。


 月に連れて行ってもらったわけではないが、確実に次のステージに連れていってもらった。

 次回は、自分の足であのステージに上がろう。


「そういえば小僧の名前聞いてなかったな」

「あ、はい! 大木 啓祐です!」

「けいすけ、またやろうな!」

「はい!」

 

 僕は帰り道の足取りのテンポを裏泊にして、鼻歌混じりで歩きながら家に向かった。

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