星空の下の小さな家
バス停を降りると、すぐそばに道の駅があった。棚の中を見てみると、柿が袋詰めにされて売られていたので、楓さんは小銭入れから100円玉を3枚取り出すと、小さな賽銭箱に入れて買っていた。
「少し熟れすぎてるかもしれないけれど、私はこのくらいが好きなのよ」
少し柔らかく食べ頃になっている柿。もしかしたら、この状態で売り出してしまっては買ってから食べるには少し熟しすぎてるのかもしれない。
バス停から道路沿いに坂道を上がっていく。坂道を登っていると、風が草や木を撫でる音がする。
「ここをもう少し登ったら、私の家よ」
かえでさんはコンクリートの道から、青い芝生のような道を登り始めた。坂道の手前には小さな家をかたどったポストが一本の棒の上にぽつんと立っており、今はそれだけがここから先に人が住んでいることを教えてくれた。
「小枝ちゃん、この草指でこすってごらん」
私は言われるがままに、生えている植物を指で擦ってみた。そうすると、楓さんが自分の指を鼻元まで持ってきて、嗅いでみてという仕草をする。
私は自分の手を鼻先まで持ってくると爽快感のある爽やかな香りがした。
「なんか、いい匂い! なんていうハーブですか?」
「これは、ローズマリーだよ。よく、お肉を焼いたりトマトソースなんかに使われるね。この先にタイムやバジル、レモングラスにミントもあるわよ。気になるようなら、明日また紹介するわね。そのほうがよく見えるし」
「あ、はい」と、私は返事をする。楓さんに出会ってから、私の人生で初めて見るものや感じるものが増えていく。
田舎だからか隣の家なども見当たらなく、明かりがないため私は楓さんの背中と足元を気にしながら、恐る恐る進んでいく。
「段差があるから気をつけてね」
そこからは、細長いレンガの道に変わっていて緩やかな斜面が終わり平坦な道に戻っていた。その脇には、花壇があり色々な花が咲いていたが夜だから、なんの種類かはよくわからなかった。
レンガの道の脇には、センサー式のライトが等感覚に並んでいて、楓さんが通るたびに橙色の明かりが道を照らしてくれた。それがまるで魔法使いの家に招かれてるみたいで、私は少しワクワクした。
顔を上げると目を奪われた。三角帽子のかわいらしい白い家もそうなのだが、その上に広がる満点の星空に。
星空に見とれていると、カチャッと扉の開く音で我に帰る。楓さんは両手が荷物で塞がっている私のためにドアを開けて待っていてくれていたのだ。
「いらっしゃい。さぁ、入って」
私は駆け足で玄関先まで駆けていき、ゆっくりとした足取りで扉をくぐるのだった。




