商店街
駅前のこじんまりとしたロータリーには人影はなく、タクシーも一台も停まっていなかった。観光地や都市に近いベッドタウンとして通勤に通勤に使われるわけでもなく、ひっそりと存在している町。
観光名所なら目にするビジネスホテルやお土産屋なども存在していなかった。
「若い人が見てもおもしろいものなんて、なにもないかもしれないけれど……」
「旦那さんと一緒に引っ越してきたと言っていましたが、どうしてこの町にしたんですか?」
「そうね、あの人が好きな景色がたくさんあったからかしらね。引っ越してくる前に、見せたいものがあるって連れてきてくれたんだけど、ほんと今でも思い出すわ。あの日、あの人がかけてくれた言葉……」
楓さんは遠くを見るように、目を細めて言う。
「プロポーズでもされたんですか?」
私は茶化すように言った。楓さんの恋バナを、もっと聞いてみたかった。
「やだ、そんなんじゃないわよ! 前にも言ったけど、あの人とは正式な婚約はしていなかったわよ。なんだか、特別に結ばなくても自然体でいられる関係というか、二人のちょうどいい距離感があって、無理に格式張ったりする必要を感じなかっただけよ」
「やっぱり、憧れちゃいますね!そういうの……。私も、そういう人に出会えないかな〜」
「小枝ちゃんには、小枝ちゃんの形があるから、焦らなくてもいいんじゃないのかい? 憧れて無理に作ろうとしてもできないものさ。二人にとって一番居心地のいい関係を続けていたら、自然とできてるものさ」
「なんか、全然イメージつかないですけど、まずは相手を見つけなくちゃいけませんね」
そんなことを話しながら歩いていると、楓さんが言っていた商店街が見えてきた。
商店街といっても、アーチみたいな門があったり、客引きやセールを告知している八百屋があるわけでもなく、ただ坦々といくつかの店が並んでいる。
魚屋のラジオからはプツプツとノイズが混じったラジオが流れ、八百屋の軒先ではおばあちゃんが日向ぼっこしていた。床屋の前には柴犬がいて無防備にへそ天して寝ている。他には日用雑貨も一緒に取り扱ってる酒屋なんかがある。来たことはないけれど、なんだか懐かしい雰囲気が、ここにはあった。
「今夜は寒くなりそうだから、鍋なんていかがかしら?」
そう言って、お肉屋と八百屋に立ち寄ることになった。
「あら、いらっしゃい。お孫さん?」
「いいえ、若いお友達なのよ。今日は遠くから遊びに来てくれて」
「あら、そう、それはよかったね〜」
店先に座ってる、90歳くらいの優しそうなおばあちゃんが話かけてきてくれた。
「よかったら、これも持っておゆき」
「あら、いいの?」
「いいの、いいの、若いんだからたくさんたべないと」
「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」
「急に寒くなってきたからこれももっておゆき」
そう言って、八百屋のおばあちゃんは野菜と一緒に、ホッカイロとみかんも袋に入れてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
私も楓さんに続き、おばあちゃんにお礼を言った。
「気をつけてね〜」
ホッカイロは、まだ使ってなかったけれど、なんだか心がぽかぽかした気がした。




