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たった、一秒で世界は変わる
月明かりに照らされて帰る、この道には誰もいなかった。
いつもなら一人が怖くて大通りを歩くが、今夜はいつも通っていない、道を歩きたかった。
月が綺麗で、星が輝くこの夜に私はほんの少しステップを踏んでみた。
小さくターンをしてみる。なぜだか、笑みが溢れる。いつもとは違う道で、いつもの私がしないことをする。
街灯の下に、まるい陽だまりがある。そこで、私は夜の光を浴びる。
いつもだったら、ただの光。でも、今はその光の見え方が少し変わって見える。あの日のスポットライトを思い出し、ステージでの景色を描く。
世界は変わらず、私の世界の見え方が変わっていく。たった、1秒で世界は変わる。
私は家に帰ると早速ケースからギターを取り出し、チューニングを始める。ギターの弦に触れる。柔らかい指先に、くっきりと跡が残る。
コードを弾いてみると、パララと音にもならない。前の時は、ここであきらめてしまったのだ。でも、今回は違う。喜びを知れたから。もう一度、あの景色を見に行こう。
Fを押さえてみると、変わらず音にはならなかったが、あの頃より手は少しだけ大きくなっていた。




