楓3
私は楓さんと一緒に旅館食堂へ来ていた。
お風呂を上がったあと、
「ご飯でも一緒にどう?」
と、誘われて行くあてのない私はご相伴に預かることにした。
食堂は畳に座布団、重そうな木のテーブルがあり昔ながらといった雰囲気だった。
「こずえちゃん、お酒は飲める?」
「あ、はい、少しなら! でも! あの、私あまり持ち合わせがないのでオレンジジュースで」
「あら、気にしなくていいわよ。甘えれる時に甘えなさい」
「あ、でも……」
「あまり遠慮されすぎると、こっちまで気を使ってしまうわ」
「では、お言葉に甘えて……。いただきます」
お通しに枝豆と瓶ビール。
私はお礼とばかりお酌をしたら、今度は楓さんが私のグラスの3分の1くらい注いでくれて「飲めそうだったら、あとは手酌で」と、言葉を添えてくれた。
「乾杯! やっぱり、温泉にはビールがいいわね」
そうやって、ビールを飲む楓さんが意外で、なんだか笑ってしまった。
「あら、なんで笑ってるの?」
「いえ、ビールをおいしそうに飲む楓さんが意外で」
「あら、おいしいものをおいしいっと言って何が悪いの? 誰にも文句は言わせません!」
おしとやかなイメージだった楓さんの思わぬ一面を発見してしまった。
鮎の塩焼きに、三種の焼おにぎり、枝豆豆腐にお刺身の盛り合わせ。
「よかったら、全部食べてもいいのよ」
「さすがに、そんなに食べれません。楓さんこそ、少ししか口にしてないみたいですけど……」
「ここの枝豆豆腐が好きなのよ。おいしいものを、好きなだけ食べれるなんて最高の贅沢よ。私にはこれぐらいがちょうどいいの」
そういって、豆腐をただ口に運ぶ姿や箸で鮎の骨を綺麗に避けて食べる姿は、とても絵になった。
私は将来こんなふうに、いい年の取り方ができるのだろうか?
今の私には未だ想像がつかなかった。




